テスラ[TSLA]の第1四半期決算、マスク氏への反発も受け厳しいものに

「Bought it before we knew how awful he is(この車を購入したのは彼がどれほど酷いか世に知られる前だった)」。 これは現在、米国で飛ぶように売れているステッカーに書かれたメッセージだ。ステッカーは主にテスラ[TSLA]の自動車の所有者が購入し、ロゴを隠すように貼る形で利用されているという。筆者がニューヨーク市民に話を聞いたところ、ステッカーはDOGE(政府効率化局)でイーロン・マスク氏が主導する米国連邦政府職員のリストラなどに対する批判を表明するために、テスラ車に乗る左派の有権者が買い求めているそうだ。

マスク氏の政治関与の強さを受け、米国にとどまらず、欧州でもテスラ車の不買運動やテスラへの抗議運動が相次いでいる。そんななか、テスラが4月3日に発表した2025年1~3月期の納車台数と生産台数は、前年同月比13%減と過去3年で最低水準に落ち込んだ。直後に株価も急落。トランプ米大統領もこの状況を受け、マスク氏が要職に就いた際に同意した任期通り、今後数ヶ月以内に現在の職務を離れる見通しを示した。

「2025年中にテスラ株が最大50%下落すると予測している」と、2025年2月に発言した著名投資家のRoss Gerber氏は、マスク氏の離職について「良いスタート」とXで投稿した。テスラ株を保有するGerber氏は「テスラブランドはひどく汚染され、破損された」と同社に対して厳しい見方を示しており、テスラはマスク氏から距離を取るべきとの見解も示している。

投資対象として見切る投資家と働きかけを続ける投資家

マスク氏の政治関与はテスラ株を保有する投資家の頭痛の種になっていた。トヨタ自動車(7203)に対して気候変動に関する株主提案を提出したこともあるデンマークの年金基金、アカデミカペンションはテスラ株の売却を発表している。米国や欧州の政治に干渉し、誤った情報を広めてテスラのブランド価値を破壊しているとの見方も示している。

アカデミカペンションだけでなく、長年、投資家がテスラに関して懸念を示したことがあった。それは、同社の従業員の労働者の権利に関する問題と取締役会の独立性に関する問題だ。米国に拠点を置くインパクトファンドのNia Impact Capital (以下Nia)は、テスラの秘密保持・隠蔽条項で、従業員へのハラスメントが適切に対処されていない潜在的リスクを懸念し、株主提案などを通じて同社への働きかけを実施してきている。

同CEO兼CIOを務めるKristin Hull氏は、3月25日に米ヤフーファイナンスの番組に出演し、「2025年、同社の取締役会はDEIに関して、非常に優秀な人材をテスラに確保し、維持できるようにすることに関して監督する意思があることに合意しました」と株主として同社への働きかけによる具体的な成果を語った(Hull氏は2022年、筆者に対して同社の「Bro Culture (男性優位の文化)」を懸念し、同社の企業風土やガバナンスに対する懸念を表明していた)。

一方、Hull氏は同社の取締役会の独立性について「テスラ株を顧客の投資ポートフォリオに組み入れない主な理由のひとつは、同社のCEOが取締役に対して物事を説明するための仕組みがないからである」と、懸念点が残されていることを示唆している。

テスラ株は「ミーム株化」するのか?

アセットオーナーからもテスラ株を手放せというプレッシャーを感じている機関投資家とは対照的に、マスク氏への忠誠と支持を示してきた個人投資家が存在感を放っているとの報道もある。しかし、トロント大学ロットマン経営大学院のティム・ローリー教授(戦略経営学)は、マスク氏に反抗する趣旨のステッカーを買い占めるテスラ車のオーナーの多くはテスラ株主であることから、同社は個人投資家の反乱を受けやすく「テスラ株はミーム株化する可能性がある」とFortune誌に語っている。

ミーム株とは、インターネットで個人投資家同士で話題になる銘柄のことだ。ミーム株化した代表的な銘柄は、中古ゲームソフト販売事業を営むゲームストップ[GME]だろう。2021年にインターネット掲示板のReddit上で、ヘッジファンドが空売りしていた同社の株式を買うことを著名な投資家が呼びかけ、個人投資家が買い支える事案が起きた。

チュレーン大学ロースクールのアン・リプトン氏は「マスク氏に不安を持つ投資家や株主は、同社の年次総会で取締役に反対票を投じるだけでなく、取締役を推薦し、団結して委任状争奪戦を繰り広げることもできる」とFortune誌に語っており、個人投資家がマスク氏の退任を迫り、株主総会に向けたキャンペーンを行う可能性もある。

Hull氏はテスラの今後の見通しについて、同社が市場のイノベーターになる可能性を残す考えを示した一方で「(トランプ政権が各国に課している)関税とよく似ています。カナダ人は今、関税が導入されたときから、関税が撤廃された後も米国製品を買わないようにシフトを行っています」とし、「どの自動車に乗るのかは我々の人格が反映されるため、車選びは真剣になります。パーソナル・ブランディングのようなものです。失墜したブランド価値が戻るのは難しいでしょう」と警鐘を鳴らしている。