事業再編が株価に影響を与えるケース

企業の事業再編は、その企業の株価の大きな変動につながり得ます。もちろん、その企業の事業の大きな拡大や、適切なコストカットなどは業績に大きな影響を与えます。しかし、それらは日常的に取り組まれていることで、急にヒット商品が生み出せるようなものではないというのは分かりやすいでしょう。一方で、事業の再編、特に買収や売却、合併などはもちろん簡単なことではないですが、経営陣が決断をすれば行うことは可能で、そして短期的に業績に影響を与えることができます。

その後具体的な展開が表に出てきていませんが、セブン&アイ・ホールディングス(3382)の百貨店事業の売却は典型的な例です。セブン&アイHDは日米のコンビニエンスストア事業では大きな収益・利益を上げており、かつ成長しているものの、百貨店事業は業績が伸び悩んでいる上、利益水準も非常に厳しい企業です。百貨店事業を売却することができれば、それに充てている資産を優良事業の成長や株主への還元に使うことも可能でしょう。

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アクティビストは通常、投資先に出資を行っている投資家です。投資家は一般的に収益の短期化を望むものです。それでいうと、短期的に成果を出しやすい事業再編に積極的になるのも当然の話と言えるでしょう。事実、上記の記事で解説したようにセブン&アイHDのコンビニ事業売却にあたっては、アクティビストであるバリューアクト・キャピタルの影響が大きかったように思われます。

ドリームインキュベータの時価総額の大部分を占めるアイペット

そして、直近で注目を集めているのがドリームインキュベータ(4310)(以下DI)です。同社は事業投資やコンサルティングなどを行っている企業ですが、過去に投資を行ったペット保険会社であるアイペットホールディングス(7339)(以下アイペット)がDIの屋台骨となっていました。

DIは2011年にアイペットに投資を開始し、アイペットは2018年に東証マザーズに上場します。マザーズ上場後もDIはアイペット株を保有し続け、連結子会社としていました。11月7日時点でDI社の時価総額は240億円であった一方、アイペットは260億円と親会社を上回る時価総額に成長しています。DIはアイペットの55.9%の議決権を保有しています。時価総額で150億円弱なので、DIの時価総額の大部分がアイペットであったと言えます。実際、2021年のDI決算では収益の大部分がペットライフスタイルセグメントに占められている状況でした。

しかし、上記で240億円としたDIの時価総額ですが、2021年はもっと低く、2021年10月末の株価は今の約1/3だったので、当時ですとアイペット保有分の時価総額はDIの時価総額を上回っていたということになります。ここに目をつけたのがユナイテッド・マネージャーズ・ジャパンというファンドで同社はその頃からDI株を買い進めました。それに伴い、DI株価も急進。2021年10月末に797円だった株価は、2022年2月末には2,439円と、実に3倍以上に値上がりしまた。

第一生命HD、アイペットHDへのTOBを発表

11月7日、第一生命ホールディングス(8750)がアイペットへの公開買付を発表、DIはそれに応募することで大きなキャッシュインが見込まれます。買付価格はアイペットの11月7日の終値2,390円を大きく上回る3,550円です。これを受け本日(11月8日)、アイペットはもちろん、DI株もストップ高となっています。

冒頭で述べた通り、事業再編の中でも子会社の売却は特に株価に大きな影響を与えることがあるものです。似たような例ですと、ノーリツ鋼機(7744)が子会社のJMDC(4483)をオムロン(6645)に売却する取引があり、こちらも株価の推移は好調そうです。本連載でも過去に親会社の保有する子会社株の価値が大きい銘柄について解説してきました。

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現在でも保有している銘柄の時価総額が大きい銘柄は少なくありません。2つ目の記事にあるTBSホールディングス(9401)が保有する東京エレクトロン(8035)株は大きく株価を下げていますが、引き続きTBSの時価総額から見ると大きな水準です。次回はこのような保有株式の評価額が大きい企業を見ていきましょう。