2025年の米国株を振り返り
2024年に続き、2025年も米国株の古典的教訓である「STAY INVESTED(投資を継続すること)」が正しかった1年となりました。12月9日までに、S&P500はすでに16.3% 上昇と3年連続の上げとなっています。また、配当金の再投資を含むトータルリターンでは17.7%となっています。
ちょうど1年前、私が立てた2025年の予想は「年末のS&P500は7,000ポイントに到達する」というものでした。当時は米国株のバリュエーションが高すぎるとの指摘も少なくなく、慎重論が目立っている環境のなかでの予想でした。
実際には、米国株は2025年4月のトランプ関税を契機とした一時的な急落を経験しました。しかし、マーケットは驚異的なスピードで持ち直し、米国時間12月9日現在、S&P500は6,840.51ポイントに位置しています。予想の7,000ポイントまでは残り2.4%の上昇で届く水準まで迫りました。歴史的に12月の米国株は前半よりも後半に上昇しやすい傾向があるため、年内の7,000ポイント到達は十分に視野に入ると考えています。
S&P500は2026年7,700へ
2026年の米国株の見通しについても、私はおおむね10%程度の上昇を見込んでいます。具体的には、2026年末のS&P500は 7,700ポイント、すなわち現在の7,000ポイント水準から10%の上値余地を想定しています。これは米国株が4年連続上昇するという見方です。4年連続の上昇は珍しいように聞こえますが、1942年以降の長期データを見ると、S&P500が4年以上連続して上昇したケースは過去に5回ほどあります。したがって、統計的にも充分に起こりうる展開といえます。
この見通しにおけるリスクとして考えられるのは、私の予想は控えめすぎる可能性があるという点です。もし、マーケット参加者が織り込んでいるファンダメンタルズを上回る展開が起これば、S&P500が7,700ポイントを超えて、8,000ポイント台に乗せるシナリオも十分に視野に入ります。つまり、この予想に対するリスクは下方向だけでなく、上方向にも存在するということです。
堅調な企業業績が2026年のマーケットを牽引
2026年の米国株を押し上げる主因は 企業業績の拡大です。S&P500のEPS(一株当たり利益)は、2025年は前年比 11.8%増が見込まれていますが、2026年は 13.8%増、さらに2027年も 14.4%増 と、3年連続の二桁成長が予想されています。
業績成長を牽引するのは利益率の拡大です。米国企業は生産性向上を背景に、2025年の営業利益率16.9%が2026年には18.9%へ、さらに2027年には19.9%へと着実に改善していくことが期待されています。
S&P500が7,700ポイントの場合、2027年トップダウン予想EPS349.8ドルに対するPERは22倍となります。このバリュエーションは歴史的に見れば割安とは言い難いものの、企業利益が二桁成長を維持し、かつ政策金利が低下していく環境では、1年後のPER 22倍という水準は十分に正当化されると考えられます。
実際、EPSが二桁成長を続け、さらに金融環境が緩和的である局面において、PERが縮小した事例は極めてまれです。したがって、現在の高水準のバリュエーションが維持される可能性は十分にあると言えるでしょう。
この二桁の利益成長を支えているのが、1990年代後半のドットコム期以来となる最大級の技術投資サイクル、すなわちAI関連の設備投資です。AIは米国経済全体にとって構造的な追い風であり、その普及の進展は、企業の生産性向上、実質経済成長率の押し上げ、そして最終的には利益率の改善につながると考えられます。さらに、AI投資を行っているのは米国企業に限らず、世界中のテクノロジー企業、そして各国政府も積極的に取り組んでいます。このテーマは単年で終わるものではなく、今後数年にわたり継続的に市場を支える構造的トレンドになるでしょう。
「ワン・ビッグ・ビューティフル・ビル法案(OBBBA)」(ひとつの大きく美しい法案)の影響
2026年に入ると、トランプ米大統領が主導したワン・ビッグ・ビューティフル・ビル法案が本格的に米国経済へ影響を及ぼし始めます。企業関連では、R&D(研究開発)費用の即時償却や、国外由来控除適格所得(FDDEI)の拡大などが企業業績に直接作用します。
まず、R&D費用の即時償却により課税所得が圧縮され、実効税率が低下することで、企業の税引き後の利益にプラス効果が生じます。さらに、FDDEIについては計算式が大幅に緩和され、輸出・海外収益に対する特別控除の対象範囲が拡大します。結果として、海外売上比率の高い企業を中心に実効税率が下がり、税引き後利益およびキャッシュフローの改善が期待されます。
これらの政策効果は、現時点ではアナリストの企業業績予想に十分織り込まれていないと考えられ、企業業績の潜在的な上振れ要因となり得ます。総じて、OBBBAはS&P500全体のEPSを持続的に押し上げる構造的な追い風になり、特に「マグニフィセント・セブン(MAG7)」のような海外の売り上げ比率の高い銘柄が恩恵を受けるとみています。
これまで米国株、ひいては世界の株式市場全体の上昇を牽引してきたマグニフィセント・セブンは、今後も潤沢なキャッシュフローを創出し続け、AI競争で優位を維持するための積極的な投資を継続しています。こうした基盤を踏まえると、MAG7の成長持続性は依然として高く、投資対象として外すことのできないグループであると考えています。
特にAIテーマの中核を担うエヌビディア[NVDA]については、過度な悲観も過度な楽観も禁物であり、構造的テーマとしてのAIの広がりを長期的に享受するポジションとして、引き続き保有を継続するのが妥当と判断します。
AIテーマ全般についても、私は10月22日のコメント(https://media.monex.co.jp/articles/-/28052)で述べた通り、90年代のドットコムブームとの比較において、現在はAIブームの真っただ中にあるものの、バブル領域に入っているとは言えず、テーマはまだ継続性が高いとみています。AI投資は、単なる過熱ではなく構造変化を伴う成長ドライバーとして、今後も市場の中心であり続ける可能性が高いと考えています。
2025年12月の利下げが与える影響
このコラムを執筆している2025年12月10日(米国時間)に行われる予定のFOMC(米連邦公開市場委員会)では、ほぼ間違いなく利下げが起きるとみています。そのような期待感を受けて、このところのマーケットでは上がる銘柄の広がりが一段と進みました。小型株指数であるラッセル2000が、12月9日ザラ場中に史上最高値を更新したのもその表れと言えるでしょう。
2025年12月の利下げに加え、2026年も2回の利下げがあると考えていますが、利下げが継続する環境では、これまで大型株だけが主導してきた相場が、より幅広い銘柄に資金が循環する展開が続くと考えています。その意味では、2026年は時価総額加重のS&P500ではなく、構成銘柄を均等比率で保有するイコールウエイトのS&P500連動型、また中型株のS&P600指数、小型株のラッセル2000指数連動型の投資信託やETFへの投資が「裾野の広がり」を捉え、S&P500のリターンを上回るのではないかと考えています。
高値圏で始まる利下げ 歴史が示す「最もリターンの高い局面」
興味深いのは利下げのタイミングです。S&P500が52週高値圏にある中、FRB(米連邦準備制度理事会)は利下げサイクルの開始に踏み切りました。歴史的にみても、株価が高値圏にある状態で行われる利下げは、その後の市場リターンが総じて良好になる傾向が確認されています。
1995年以降のデータを見ると、S&P500が52週高値の1%以内で推移する局面で利下げが実施されたケースは計9回あります。このうち2回はグリーンスパン議長時代(1990年代)、残る7回は2019年以降のパウエル議長の下で発生しています。そして特筆すべきは、この9回すべてで1年後のS&P500がプラスリターンとなった点です。その上昇幅は+7.33%から+23.61%と幅広いものの、平均すると14.86%に達しています。
今回の利下げは、景気急減速への緊急対応ではなく、むしろ予防的かつ正常化的な性格を帯びています。この文脈を踏まえると、今回の局面は歴史的に見ても強気相場と相性が良いタイプの利下げと言えるのではないかと思います。
さらに興味深い点として、しばしば「タカ派」と評されるパウエル議長が、S&P500がこれほど高値圏にある段階で何度の利下げを行ってきた「唯一のFRB議長」であるという事実があります。市場はタカ派的イメージを持ちながらも、実際の政策運営は極めて市場にフレンドリーな側面を見せていると言えます。
2026年の米国株市場のリスクと投資家としての心構え
2026年の市場環境を展望するにあたり、まず長期的な米国株式市場の歴史的振る舞いを踏まえておく必要があります。以前にも書きましたがS&P500は、年に一度程度は10%超の調整を、そして年間ベースで3回ほど5%超の調整を経験してきました。それが普通なのです。
したがって、2026年もどこかの時点で10%を超える下落局面が生じる可能性は十分に念頭に置くべきでしょう。とりわけ現在のようにバリュエーションが割高圏にある場合、市場の期待値が高まっている分、想定外の悪材料に対して価格が脆弱になりがちです。しかし、こうした局面では焦燥に駆られて売却するのではなく、長期投資家としての心の耐性を持つことが肝要です。米国株市場での調整は、市場の成長過程において正常なことであり、それ自体を恐れる必要はありません。
2026年の米国株市場におけるリスク要因としては、以下が挙げられます。
一方で、市場を押し上げる可能性のあるポジティブ要因も存在します。
・インフレの持続的な低下による金融環境の緩和
・ウクライナ戦争の終息や地政学的リスクの後退
マーケットは常に、こうしたリスクと機会が複雑に交錯しながら推移します。重要なのは、短期的な値動きや感情に振り回されるのではなく、長期的な資産形成に向けた一貫した姿勢と冷静さを保持することです。実は、調整局面こそが、堅固な米国株投資のポートフォリオ戦略の価値を再確認する契機となると考えています。
新興国株投資も忘れずに
最後に、私は米国株への長期投資を軸にしつつ、新興国株への分散投資もお勧めしています。その理由は、これから数十年にわたり、新興国経済は先進国を上回るスピードで成長し続けると見込まれているからです。この構造的な成長格差は、企業利益の伸びとなって蓄積し、やがて株価にも反映されます。
もうひとつ重要な視点として、ドル安局面では新興国株が先進国株をアウトパフォームしやすいという歴史的パターンがあります。2025年の相場はまさにその典型例です。12月9日までのリターンを見ると、ドル指数は2024年末から8.5%ほど下落しています。その間MSCI先進国株価指数は+18.7%、MSCI世界株価指数は+19.6%の上げですが、MSCI新興国株価指数は+28.2%の上げと、新興国のリターンが突出しています。私は、このアウトパフォーマンスは一時的なものではなく、むしろ「ここから始まる」長期テーマの始まりだと考えています。
さらに、新興国はバリュエーション面でも魅力があります。MSCI新興国株価指数の予想PERは2025年が15.6倍ですが、2026年には13.2倍、2027年には11.7倍と歴史的にみても、他の市場と比較しても時間の経過とともに割安度が増す見通しです。
長期の資産形成において重要なのは、「一時的な流行りを追うのではなく」、「長期的に成長する場所に資金を置く」というシンプルな哲学です。米国株の強さを信じつつも、世界の成長エンジンがどこにあるのかを見極めることが大事です。ポートフォリオの一部を新興国株に振り向けることは、大切な資産の配分だと考えています。
