50,000円超えのペースは速かったのか?直近の動きに注目
2025年10月27日、日経平均株価は取引時間中に50,000円の大台を超え、取引時間終了時の終値でも50,500円を上回りました。過去にも本連載で日経平均株価について取り上げたことがあります。2024年2月28日付けの記事「最高値を更新した日経平均、1989年の高値との具体的な違いは?」で、その約1週間前の2024年2月22日に日経平均が最高値を更新したことについて解説したものでした。
同記事では「2024年2月22日、日経平均株価はバブル期の1989年につけた史上最高値を更新し、史上初の39,000円台となりました。3連休を挟んだ翌26日も続伸し、一時は39,400円に迫るなど日本株は歴史的な転換局面を迎えています」としており、40,000円も目前でした。実際に同記事を出した翌月の2024年3月には日経平均は40,000円を超えています。その後、約1年半で10,000円上昇し、50,000円台に突入したことになります。
今回の日経平均50,000円超えはペースが速いと言われます。バブル崩壊後の日経平均が30,000円を上回ったのは2021年2月です。その後、上記のように40,000円を上回ったのは2024年3月なので約3年を要したものが、今回はその半分くらいのスピードで10,000円上がったということになります。
特に注目すべきは直近の動きで、2024年3月に40,000円をつけた日経平均が45,000円をつけたのは、2025年9月、先月のことです。9月18日に終値で45,000円を上回っています。つまり、40,000円から45,000円は1年6ヶ月を要して、その後の5,000円は1ヶ月ほどだったということです。
値上がりが目立つ2025年10月だが、値上がり幅と値上がり率にも着目
この1ヶ月で、国内では新政権が発足し、米国の貿易政策にも安心感が高まり、米国のインフレも落ち着きが見え、金利を下げる見通しも高まったなど好材料が集中したとは言うものの、なかなかに急な値動きに見えます。
図表1の月足のチャートを見ても、2025年10月はかなり値上がりが目立っています。また、ご存知の通り、2025年4月には株価が30,000円台前半まで売り込まれる場面もありました。半年で約20,000円戻しているということです。
ただ、上記の中で値上がりの目立つ月をまとめてみると、この10月は2020年11月の値上がりより値上がり幅は大きいですが、値上がり率では劣るということが分かります(図表2参照)。300円調整があれば、2013年4月の値上がり率も下回ります。株価水準が上がっていることで、同じ値上がり幅でも値上がり率で見ると小さくなるという点には注意が必要です。
図表1に記載した日経平均のチャートを見ても、かなり長い期間、日経平均は10,000円、20,000円といった水準でした。当時であれば、たとえば500円の値動きは、今の日経平均で言うと2,500円、1,250円といった値動きになるので、それなりに大きかったかも知れません。しかし、今の500円は当時でいう100円、200円の値動きになっているのです。
2024年2月の日経平均最高値更新時との違いは?
さて、前述した2024年2月28日付けの記事「最高値を更新した日経平均、1989年の高値との具体的な違いは?」は、以下のように終えています。
「短期的な過熱感はありうるものの、やや長い目線で見ると現在の史上最高値更新は実績を伴って、環境変化も示してのものであると言えそうです。こういうマーケットだと、短期の値動きや利益に目が行きがちだと思いますが、背景の変化や過去の推移を振り返りながらマーケットを見ると、より今の高値への納得感や投資スタンスに自信を持つことができるのではないかと思います」
この後の日経平均の値動きを見ると、当時の最高値更新もバブル的なものではなかったと言ってよさそうです。一方、上記のように「背景の変化や過去の推移を振り返りながらマーケットを見る」ことは大事なので、当時の考え方を振り返ってみたいと思います。
当時は各指標をもとに利益水準・資産水準・配当水準を見ながら「この5年ほどで見ても突出しているとまでは言えなさそうです」としています。当時のそれら指標をまとめたものに直近の数字を示したのが、図表3です。
利益水準であるPERで見ると、2024年時点よりもさらに上がっており、一見、高めの水準のように映ります。2024年の記事ではPERが突出した水準ではないとしており、2007年水準と同様だとしていましたが、少なくとも数字で言うと、当時と状況は違っているという点には注意が必要そうです。
PER上昇の背景は?
日経平均が5万円を超えたことを踏まえ、マネックス証券では「祝!日経平均5万円突破」と題して特集を組んでいます。その中で、チーフ・マーケット・アナリストの吉野貴晶が、「現状のPER(株価収益率)は割高なのか?」と、まさにそのものの問いを出しています。それに対する回答は「構造転換の局面にあるときには、将来への期待が高まるため、PERが上昇するのは自然」というものです。
詳細な論考は「【日本株】日経平均6万円大台も「遠い未来ではない」。足元は、低位株などの出遅れ銘柄に期待」の記事をご確認ください
ただ、先ほども解説したように「過去を振り返る」ことを考えると、当時は上記の数字を見ており、今回はこういう水準であるというのは考えてもよさそうです。一方、上記記事ではアベノミクス相場時にPERは大きく上がったと書いており、上記と同じ日本経済新聞に記載の数字だと、PERは2012年末で17.0倍、2013年4月には20倍を超えています。
株価が上がるなか配当利回りも上昇
また、注目すべきは株価がこれだけ上がっている中で配当利回りも上がっているということです。2024年の日経平均最高値更新時点から、50,000円超えで、日経平均は実に28.7%上がっています。その中で配当利回りが上がっているので、日本の会社の配当金は(配当利回りは1.7%と1.8%なので誤差のような上昇だとしても)30%程度増えているということです。
マネックス証券ファウンダーの松本大は「祝!日経平均5万円到達」の記事の中で、「日本社会・企業セクターに構造変化が起き始めている」ことを日経平均が上昇した理由としています。上記の配当金はその大きな証左の一つと言えそうです。同記事では「『普通に』外の声を聞き、より良いやり方を模索して実行するようになったことが、この株価上昇に大きく貢献している」としています。これはまさに株主の声を聞き、適切な還元を進めているということと一致すると言えるでしょう。
高値を過度に恐れる必要はない、日本株は指標上「バブルとは程遠い」
冒頭でご紹介した2024年2月28日付けの記事「最高値を更新した日経平均、1989年の高値との具体的な違いは?」の終わりには、以下のように書いています。
「こういう動きの背景として、日本の会社が株主重視の姿勢を強めていることは非常に大きいと言えそうです。日本の会社の利益水準があがり、個人投資家など株主が声をあげ、まさに日本が一丸となってこの日経平均高値更新はなされたと言っていいでしょう」
前述した松本の記事と基本的な状況判断や見方は変わっていないと言ってもよさそうです。もちろん、数字的にはやや強い水準になっているものの、アクティビストの存在などを背景に、会社は株主重視の姿勢を強めています。
松本の記事では、「昭和の強い成功体験のある世代が社会の第一線から退き、その後の日本の成功体験を経験していない世代が上場企業に限らず社会のあらゆる場でリーダーシップを執るようになったことが株価上昇に大きく貢献している」、としています。その上で、日本の株価も米国のように「右肩上がりの軌道を取るであろう」としています。この考察が正しいかは後に分かるでしょう。
実際に個人投資家の方の話を聞いていると、「これはバブルではないか」という話をよく聞きます。実際、今回の日経平均の上昇も過去のバブルと比較されることが多いようです。日本においては、バブル崩壊後の株価低迷がとても強い失敗体験として個人投資家を含めた投資家に根付いてしまっているように思います。
実際は過去の最高値更新時や、先ほどの指標類でも分かるように、日本株は指標上はバブルと言われるような水準からは程遠い状況です。高値を過度に警戒せず、環境がどのようになっているか、さらなる変化があるのかに注目すべきように思います。
