エクソン・モービル[XOM]、株主の投票の「自動化」を提案

米石油大手エクソン・モービル[XOM]が導入を目指す「個人投資家投票プログラム」を巡り、米国の株主団体や投資家らが証券取引委員会(SEC)に撤回を求める動きを強めている。株主の投票権を事実上、恒久的に経営陣支持に固定する仕組みであるとして、「株主民主主義を損なう危険な前例」との懸念が広がる。

米国では企業の株主総会で株主は毎回議案を確認し、投票権を行使するのが一般的だ。SEC(米証券取引委員会)の規則(14a-4)では、委任状は1回の総会に限って有効と定められており、事前に提示された議案に対してのみ有効に行使できる仕組みになっている。

エクソン・モービルが9月に発表したプログラムは「投資家の利便性向上」のためと同社から説明されている。一度参加登録すると、期限は無期限で株主が自分から「オプトアウト(解約)」しない限り、以降のすべての株主総会で自動的に投票が行われ、その投票先は経営陣(取締役会)の推奨に従って一律に賛成票が投じられる。経営陣に反対票を投じる常任指示は存在しない。

実際、米国企業の株主総会では個人株主の投票率が決して高くないケースも散見される。エクソン・モービル側も同社株の約40%を占める個人投資家のうち75%が投票に参加していないことを明らかにしており、「投資家が忙しくて投票機会を逃してしまうのを防ぐ仕組み」と同社も狙いを述べている。しかし、エクソン・モービルがこうした消極層の票を固定化することで、取締役選任や報酬決議などで経営陣が有利になる構図を作ろうとしているとの批判がある。

「民主主義の骨抜き」との批判噴出

これを受け、株主擁護団体のAs You Sow や宗教系の投資家らで構成するICCR(Interfaith Center on Corporate Responsibility)は、SECに対しエクソン・モービルのプログラムは「規則14a-4に違反する」と訴えた。

同規則は、委任状は年次総会ごとに付与されるべきであり、事前に具体的議案が提示される必要があると定める。As You SowのべーハーCEOは「経営陣に反対票を投じる同等の選択肢が用意されていない」と不公平性を指摘した。ICCRのジナーCEOも「本来、投資家が毎年業績を評価し投票する仕組みが、経営陣への白紙委任に置き換わってしまう」と懸念を示す。

エクソン・モービル側は「既存の第三者投票ガイドライン(As You Voteなど)と同様」と説明するが、As You Sowのフュージャー総顧問は「根本的に異なる」と強調する。第三者ガイドラインは企業横断的に適用され、利害関係が絡まないのに対し、エクソン・モービルの制度は自社の経営陣支持を自動化する自己利益的な仕組みだという。

これを受け、米紙ウォール・ストリート・ジャーナルに寄稿した弁護士のAndrew Freedman氏も「投票率向上ではなく、票の固定化だ」と警鐘を鳴らした。特に、取締役選任などは1ケタ台の僅差で決することも多く、個人投資家票が経営陣の意向が優位に固定されれば「株主民主主義の骨抜き」につながりかねないとみる向きもある。

広がる制度設計への疑念、SECの判断は?

仮に、SECがエクソン・モービルのプログラムを容認すれば、他の大企業も追随する恐れがある。小口株主の権限が恒常的に縮小され、ガバナンス改革の力が失われるリスクは大きい。近年、米国では株主擁護団体を中心に気候変動リスクや取締役の選任に関して働きかけを行い、多くの浮動票が雌雄を決する事例が誕生してきた。そうした流れに対し、企業経営陣が制度を利用して「防御策」を築く構図とも映る。

SECは過去にも委任状制度の乱用を抑制するため規則を整備してきた。今回、エクソン・モービルの制度を認めれば、株主保護の根幹を揺るがすとして批判は必至だ。エクソン・モービルの試みは、投資家が「声を上げずに済む便利な仕組み」とみるか、「権利を奪う危険な罠」とみるかで評価が分かれる。だが一度認められれば、企業と株主の力関係は大きく傾く可能性がある。米国資本市場の透明性と公正性を守る上で、SECの判断は試金石となる。