東証に取引が集中するようになった背景とは?

日本の金融商品取引所のうち、現在、株式の取引を行えるのは、東京(東証)、名古屋(名証)、札幌(札証)、福岡(福証)の各証券取引所(以下、本稿ではこれらを証券取引所と書きます)です。かつては、他の地域にも取引所があり、特に大阪証券取引所は単独上場銘柄(当該市場のみに上場している銘柄)や東証との重複ながらも大証を中心に取引される銘柄があるなど、一定の存在感を有していました。しかし、東証と大証の統合以降は、4取引所があるとは言え、ほぼ東証一色という状況です。

複数の取引所があるのも投資家にとっては便利なものです。現在は東証も15:30までを取引時間としていますが、かつて15:00までだった頃、大証は15:10まで取引を行っており、名証・札証・福証は15:30まで取引を行っていました。大証では上記のように大証を中心に取引される銘柄もあり、東証が中心の銘柄でも一定の取引が行われていたので、15:00から15:10に取引できることは一定のニーズがあったように思います。

国際的に見ても、日経平均の先物は大証やシンガポールの取引所であるSGXで活発に取引されています。ただ、時差で言うと日本よりも遅いシンガポールのSGXが大証より早い時間に朝の取引を開始しており、これは大証を意識してのことだったと言われています。

一方、日本国内の株式取引においては、大証との統合もあり、東証に取引が集中する傾向でした。たとえば、地方の証券取引所はもともとそれら地域を拠点にしている会社が上場しており、その中でも多くの会社は東証との重複上場を行っていました。その場合、取引はほとんどが東証で行われるため、その他の取引所に上場している意味はあまりないということになり、地方の証券取引所の上場は廃止する動きが目立っていたのです。

地方証券取引所への「重複上場」が増えている理由

重複上場をするにもコストや手間がかかるため、あまり意味はないということだったと思われます。一方で、現在でも札証には雪印メグミルク(2270)、サッポロホールディングス(2501)、北海道電力(9509)、北洋銀行(8524)、福証にはブリヂストン(5108)、TOTO(5332)、ふくおかフィナンシャルグループ(8354)、西日本鉄道(9031)、九州旅客鉄道(9142)、九州電力(9508)など、地域にゆかりのある会社が上場しています。

さて、そのように上場を継続している会社がある一方で、基本的には重複上場の廃止が続いていた地方の証券取引所ですが、最近新たに上場する会社が増加しています。たとえば、名証だと2025年10月以降11銘柄が新たに上場しており、その内9銘柄が東証との重複上場、つまり、すでに東証に上場している会社です。もちろん、重複上場にかかる手間やコストは変わりません。これはどういう動きなのでしょうか。

たとえば、実際に上場した会社の上場に関する説明を読んでみましょう。「より多くの皆様に向けて当社事業へのご理解および認知度の向上を目指し、接点を増やす機会を設ける」「より多くの個人投資家様との接点を増やし対話の機会を拡充するとともに、株式の流動性を向上すること」などとされています。

取引はどうしても東証中心になるため、地方の証券取引所ではIRなどのイベントに力を入れており、名証では大型のIRイベントを毎年実施しています。そういう意味では、重複上場することでの効果は得られそうですが、唐突な印象があることも事実です。

実際は、東証の市場区分の見直しに伴う上場維持ルールの見直しにより、東証を上場廃止になるリスクに備えていると考えるのがよさそうです。東証では市場区分の見直し(東証一部・二部などをプライム・グロースなどに再編)に合わせて、上場維持の条件を見直しています。

東証の「上場維持の条件」と上場廃止された場合のリスク

東証では上場維持条件の見直し後は経過措置ということで、条件を満たさなくても、上場は維持されていました。しかし、その経過措置が終了し、2025年3月1日以降の基準日(基本的には本決算日である事業年度の末日)に上場維持基準を満たさなかった場合、1年間の改善期間を経ても改善されなければ半年間の監理銘柄(確認中)、整理銘柄を経て、上場廃止となります。

たとえば、2025年3月末決算の会社の場合、2025年3月末に基準を満たさず、2026年3月末までに改善しなければ、2026年9月末までしか上場できず、2026年10月に上場廃止になるということです。なお、これらは基本的なケースで、市場区分の変更審査を行っている場合など、それより時間がかかる場合もあります。

上場廃止になった場合、東証での取引はできなくなります。もちろん、その場合に損をするかは一概には言えませんが、東証では上場廃止になった場合、「相対による売買(売買を希望する相手を探し当事者間で直接取引を行うこと)のみとなることから、流動性が大きく低下し、株主が希望するタイミング・価格で売買を行うことが難しくなると想定されます」としています。

現実的に売却することは難しくなるし、その場合「希望する価格」、つまり良い価格で売ることは難しくなると言えるでしょう。上記のように、維持基準を満たさなかった場合でも、1年間改善期間があり、その後も上場廃止まで半年あります。しかし、実際に上場廃止となる見込みが出てきた場合、上場しているうちに売りたいという売り圧力が強まる一方で、今後の売却機会が限定的な銘柄を買う投資家は少ないことから、上場廃止が現実的になると、その段階で株価自体にも悪影響であろうと考えられます。

東証上場廃止の「保険」として、地方の証券取引所に上場か

そのため、仮に東証を上場廃止になった場合でも証券取引所での取引が維持できるよう、東証以外の取引所に上場している、というのが正直なところでしょう。実際、東証の上場維持基準に適合せず、上記の改善期間に入っている銘柄も少なくありません。

東証で取引ができなくとも、地方の証券取引所で取引ができれば、たとえばマネックス証券の場合、今までと変わりなく取引は可能です。実際、地方の証券取引所には単独で(東証には重複上場せずに)上場している銘柄もあり、それらも取引自体は行われています。

たとえば名証では59銘柄が名証のみに上場しており、専門商社の岡谷鋼機(7485)などは時価総額が2000億円近い大きな会社で、毎日のように取引されています。名証の中部日本放送(9402)、中日本興業(9643)、御園座(9664)、札証の日糧製パン(2218)、北海道中央バス(9085)、福証のマルタイ(2919)、第一交通産業(9035)、RKB毎日ホールディングス(9407)、ジョイフル(9942)のように、一定の知名度があり、地域においては有名な会社も少なくありません。RIZAPグループ(2928)も札証単独上場です。取引所と組んで、投資家層を拡大できれば理想的であると言えます。

一方、やはり地方単独上場銘柄の取引は東証上場銘柄と比べると限定的で、なかなか思うように取引できないというのが、取引する人の実感でしょう。同業種で同程度の時価総額の東証上場会社と比べると、出来高で見ても明らかに大きな違いがあります。多くの場合は、各社とも東証の上場維持基準を達成できればと考えているでしょう。

「上場維持基準を満たしていない」銘柄に着目すると見えてくる投資のアイデア

それでは、東証の上場維持基準とはどういうものでしょうか。詳細は以下のマネックス証券のウェブサイト「東証の上場維持基準に関する経過措置終了」のページで確認いただけます。一方、上述したように、東証では改善期間に入った、つまり上場維持基準を満たしていない銘柄を一覧にしました。これは111銘柄あり、それを見ると、実際に基準を満たしていないのは流通株式時価総額、流通株式比率、時価総額がほとんどです。

実際に改善期間に入った銘柄は、日本取引所グループのサイト内の「改善期間該当銘柄等一覧」のページで確認できます。まだ、基準日が来ていないので改善期間に入ってはいないものの、経過措置の間に改善対象となった銘柄(29銘柄あり、一部は計画達成時期が先になる銘柄も含む)も同じサイトの「経過措置適用銘柄」で一覧になっています。先ほど改善期間銘柄で書いたように、「経過措置適用銘柄」でも基準を満たしていないものは流通株式時価総額と流通株式比率です。

リストを見ると、ある程度、業績等の良さそうな銘柄も入っています。この多くは流通株式比率や流通株式時価総額が足りないことが問題でしょう。会社にもよりますが、親会社が多数の株式を持っている場合や明確な親会社ではない大株主に保有が集中している場合が多いです。先ほどの地方証券取引所への重複上場の動きを考えると、こういった会社も基本的には東証の上場を維持しようと動いているように考えられます。

その場合、流通株式を増やす一番の方法は個人投資家の株式の取引などを活性化することで、実際にリストに入っている会社では株式分割や株主優待を開始するなどの動きが出ています。一方、親会社の保有株が多い場合は、親会社が公開買付をして上場廃止にする場合もあります。

株主優待の実施や公開買付などは株価にとってもポジティブなので、リスト掲載の会社のそういった動きには重複上場以上に注目できそうです。これらの上場維持基準を満たしていないなどの場合、各社はその方針を公開しています。その方針を読み解く中でもおもしろい投資アイデアが出てくるかもしれません。