米国経済の底堅さが政治的リスクや先行き不透明感を上回る
先週(7月14日週)の米国株式市場は、トランプ米大統領による関税再導入の表明やインフレ指標の発表、注目企業の決算が重なり、神経質な展開となりました。そうした不透明感の中でも、S&P500は7月17日(木)に史上最高値を更新し、週明けの7月21日(月)にも再び過去最高水準を上回る終値を記録するなど、上昇基調を維持しています。
これで年初からの上昇率は7.2%となります。同様にナスダック100も連日最高値を更新し、7月21日にも最高値を更新しました。
企業の好調な業績や米国経済の底堅さが、政治的なリスクや金利の先行き不透明感を上回っていることが、あらためて浮き彫りになっています。2022年10月から始まったS&P500に代表される米国株のブルマーケットは止まる気配を感じさせません。
トランプ関税とインフレ再加速懸念、市場は冷静に受け止め
先週(7月14日週)週明けの市場を揺らしたのは、トランプ米大統領による「8月1日までに通商合意がなければ、4月時点の関税水準に戻す」との発言でした。これに加えて、カナダからの輸入品に35%、主要貿易国への15~20%の包括的関税という新たな提案も打ち出され、企業収益への影響が意識されたのです。
実際、半導体テスト装置メーカーのエア・テスト・システムズ[AEHR]は、受注の一部が「関税に起因して遅れている」とコメント。リーバイ・ストラウス[LEVI]やコナグラ・ブランズ[CAG]も、ガイダンスを通じて関税影響に言及しました。
インフレ指標では、6月の消費者物価指数(CPI)前年比は+2.7%と、5月(前年比)+2.4%から加速しました。エネルギーや食品が押し上げ要因となりましたが、家具や衣料、家電といったコア財にも値上がりの兆候が見え始めています。FRB(米連邦準備制度理事会)のウォラー理事が「早期の利下げが望ましい」と主張する一方で、大半のFOMC(米連邦公開市場委員会)メンバーは「時期尚早」との立場を維持しており、市場の期待とのギャップが拡大しています。
しかし、投資家は冷静で、急激なインフレ再加速ではなく「一時的な価格調整」と見る向きが多く、「引き締め長期化」よりも「慎重な利下げシナリオ」のほうが市場に織り込まれつつある印象です。
ナスダック5連騰を支えたのは、エヌビディア[NVDA]と米国経済の回復力
テクノロジー銘柄のウエイトの高いナスダック100は先週(7月14日週)連日の高値更新となりましたが、その中心にはエヌビディア[NVDA](+4.5%)の強さがありました。同社は、トランプ政権との交渉を通じて、中国向けAI半導体の一部輸出制限の緩和を取り付けたとの報道が好感されました。このポジティブなニュースが、S&P500を含む市場全体を押し上げる結果となりました。
AI関連だけでなく、金融セクターも好調でした。JPモルガン・チェース[JPM]、シティグループ[C]、モルガン・スタンレー[MS]、ゴールドマン・サックス[GS]といった大手行は軒並み市場予想を上回る好決算を発表。中でもトレーディング部門は前年同期比で20~30%を超える増収となり、市場の変動をうまく活用したリスク管理の巧みさが評価されました。
最近は「割安感のある金融株」にも投資家の関心が戻ってきており、S&P500全体がやや割高と言われるなかでも、業績の裏付けがある企業には安心感が広がっているようです。
経済指標で示された消費回復と雇用の堅調さが株価を下支え
先週(7月14日週)発表された6月の小売売上高(前月比)は+0.6%と予想(+0.2%)を大きく上回る結果に。これにより「5月の落ち込みは一時的」との見方が強まりました。加えて、週次の新規失業保険申請件数は22.1万件と、予想を下回る水準を維持。企業活動の持続性や雇用環境の良好さが確認され、消費者マインドの改善にもつながっています。
ミシガン大学の消費者信頼感指数(速報値)も回復。これらのデータからは、「関税・利下げ不透明感のなかでも米国経済は着実に回復軌道にある」ことが示唆されます。
今週(7月21日週)の注目テクノロジー銘柄は決算発表を迎えるテスラ、アルファベット、インテル
今週はS&P500構成企業の約100社が決算発表を予定しており、ハイライトはテスラ[TSLA]、アルファベット[GOOGL]、インテル[INTC]などです。
テスラは販売台数が回復傾向にありますが、注目されるのは「利益率の維持」と「ロボタクシー戦略」。特に8月のイベントで披露される予定の自動運転機能の具体像が、株価のモメンタムに直結しそうです。
アルファベットは広告売上の伸びと、AIチャット機能のユーザー定着率に市場は注目しています。「Gemini」の商業用展開次第では、メタ・プラットフォームズ[META]との競争環境にも変化が見られるかもしれません。
インテルはAIインフラ投資の恩恵をどこまで享受できているかが鍵。競合のエヌビディアとの性能・供給面でのギャップが縮まる兆候があれば、株価は再評価の可能性もあります。
