価値保存手段としての地位を確立しつつあるBTC(ビットコイン)
トランプ米大統領が「解放の日」と呼ぶ4月2日以降の混乱から、仮想通貨ビットコインの動きが力強さを取り戻しつつある。ビットコイン価格はいったん落ち込むところがあったが、世界中が関税によって撹乱される中、徐々に値を戻しており、この1ヶ月で約13%上昇している。
4月22日付けのブルームバーグの記事「ビットコイン好調、市場混乱時に20%上昇-米テク株との連動から脱却」は、長期的なビットコインの強気シナリオが投資家から見直される可能性があるとの市場関係者のコメントを取り上げた。ビットコインはこれまで、米テクノロジー株と連動して動く傾向があったが、そこから脱却しつつあり、価値保存手段としての地位を確立しつつあるようだ。
ビットコインETF(上場投資信託)への資金流入は高水準で推移している。運用資産額で最大のビットコインETF、ブラックロック・ファンディング[BLK]のiシェアーズ・ビットコイン・トラストの4月24日の資金流入額は6億4300万ドルと、過去13週間で最大を記録した。
仮想通貨に関連した話題を扱うコインポストの4月26日付けの記事「ブラックロックのビットコインETF、BTC総供給量の2.8%を保有」は、ブロックチェーン市場の分析を行うアーカム・インテリジェンスの情報として、5月に入りブラックロックがビットコイン保有を積み増し、総保有量は約58万2000BTC(約8兆円)になったと伝えている。ビットコインの総供給量のほぼ3%に相当する。
大量の資金流入で、ビットコインは世界7位の市場規模の資産に

大量の資金が流入し、ビットコインの市場評価額は銀価格を上回る水準となっている。企業の時価総額も含めて比較すると、世界最大のエネルギー企業であるサウジアラムコやメタ・プラットフォームズ[META]などを上回り、アルファベット[GOOGL]やアマゾン・ドットコム[AMZN]に次ぐ世界7位の市場規模を持つ資産となっているのだ(2025年5月5日時点)。
伝統的な株式市場は政治ドラマと経済的な現実の間で、危うい綱渡りをしている。ビットコインは、強力なETFへの資金流入、機関投資家の買い増し、米ドル安といった要因を背景に大幅な反発を示している。ビットコインの強さは、市場が安全資産とは何なのかということを再確認していることを反映しており、経済変動に対するヘッジとしての役割に適うのかを見出そうとしていることを表している。
ストラテジー[MSTR]が世界初のビットコイン戦略企業として存在感を増す背景
企業戦略としてビットコインを積極的に活用しているストラテジー[MSTR](旧マイクロストラテジー:マイクロストラテジーは2025年2月に社名をストラテジーに変更)は5月1日、2025年第1四半期(2025年1-3月期)の最終損益が42億ドルの赤字だったと発表した。営業費用が前年同期比1100%増の60億ドルに達したことが影響した。第1四半期中に80715BTCのビットコインを購入し、その含み損が59.1億ドルに拡大した。
ストラテジーは、ビジネス上の意思決定を行うために社内外のデータを分析するソフトウエアやモバイルソフトウエア、クラウドベースのサービスを提供する企業だ。現在、会長を務めるマイケル・J・セイラー氏らによって1989年に設立された。主な競合企業には、独のSAPや米アイビーエム[IBM]、オラクル[ORCL]などが挙げられる。


ストラテジーの株価は5年前に比べると約3000%上昇しており、S&P500の中でトップクラスのパフォーマンスを示している。その高パフォーマンスの背景にあるのがビットコインだ。ストラテジーは上場企業の中で、ビットコインを最も多く保有する企業で自らを「世界初のビットコイン戦略企業」と称している。
仮想通貨市場の情報を扱うコインゲッコーによると、ストラテジーが保有するビットコインは額にして約498億ドル、流通するビットコインの2.5%に相当する。2位の企業と比べるとその差は大きい。このように暗号通貨を大量に保有していることから、ビットコインの代替と捉えられている。
ストラテジーがビットコインを購入し始めたのは2020年8月のことだ。以来、ソフトウエア事業で得た収益だけではなく社債などを発行して資金調達をし、大規模なビットコインの買い入れ戦略を続けてきた。セイラー氏は「最終的な目標は、ビットコイン銀行、あるいは投資銀行、あるいはビットコイン金融会社となることだ」と語っている。
負債とインフレが超指数関数的に増加する時代の始まり
世界最大のヘッジファンド、ブリッジウォーター・アソシエイツの創設者であるレイ・ダリオ氏は4月13日、CNBCのインタビューに登場し、単なる景気後退の可能性についてだけでなく、より深刻な世界経済と政治秩序のシステムの崩壊について警鐘を鳴らしている。ダリオ氏の懸念は市場の変動性だけにとどまらない。より広い範囲での構造的な脆弱性を指摘している。
ダリオ氏は、米連邦議会は赤字をGDPの3%にまで削減すべきだと主張、債務の過剰な不均衡が深刻な混乱を引き起こす可能性があると指摘した。また、関税の不確実性がより広くマクロの不安定さに拍車をかけていると警告している。直近でドル指数は100を割り込んでいるが、これは米国からの資本逃避の兆候とも考えられる。
持続不可能なまでに増え続ける負債と崩壊しつつある軍事力は、帝国の終焉を招く完璧なレシピである。それはまさに今、米国が置かれている状況だ。繁栄する帝国には非常に強力で効率的な経済、堅実な通貨、そして管理された一定レベルの負債が必要となる。しかし、米国には今、こうした条件が備わっていない。
われわれは負債とインフレが超指数関数的に増加する時代の始まりに立っている。指数関数的に増え続ける現在の負債を推定すると、2036年には米国の連邦負債は100兆ドルに達すると見られる。100兆ドルの負債は、高いインフレとデフォルトのリスクを意味し、はるかに高い金利につながる。 3~4%の利回りでは誰もリスクの高い米国債を保有しようとはしないだろう。
インフレ時代に注目の金融資産とは?
インフレが高止まりする中、企業が代替資産としてビットコインを保有する動きが広がってきている。投資家は、企業がビットコインを保有する戦略を株式市場における新たな評価軸として認識し始めている。セイラー氏は、「ビットコインが価値の保存手段として機能する可能性がある」と語った。上場企業の株式を保有するという伝統的な金融市場の枠組みにおいて、仮想通貨市場への間接的なエクスポージャーを得ることができるからである。
「ビットコインは何十年も保有できる資本投資だ。企業や競合他社、取引相手、国があなたから奪うことはできない。そのため、あなたの家族、企業、国のために世代を超えた富を生み出せる。世界中のどこでも、いつでも、いくらででも清算ができるし、積極的な運用や商才がなくても、いくらでも保有ができる。お金を稼ぐために人生の4万時間を費やすなら、それを維持する方法を考えるのに100時間を費やす価値はある」と、セイラー氏は語っている。
ビットコインはハイブリッドであり、ビッグテック株にとって不利な時期にはゴールドにある程度追随し、ゴールドに不利な時期にはハイテクに追随する傾向がある。
ビットコインは市場の流動性の先行指標、そして、米ドル/円の円高はリスクオフの先行指標となっていることから、株式運用者からもビットコインの値動きは注視されている。円安やビットコインの上昇傾向が続いているうちは、流動性が確保されており、株式市場は大崩れしにくいだろう。
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