半導体の性能進化によってもたらされるAIブーム3度目の正直

半導体集積回路(半導体チップ)が発明されたのは1958年頃のことだ。それから60年余り、半導体チップは約2年で性能が2倍になるという「ムーアの法則」と共に進化を遂げてきた。当時開発されたチップには約60個のトランジスタしか搭載されていなかったが、微細化、小型化が進み、現在のチップは数十億個のトランジスタをエッチングすることができるようになった。今、私たちがスマートフォンという小型コンピューターをポケットに入れて持ち運べるようになったのは、半導体の性能進化が背景にある。

世界は現在、3度目となるAIブームに湧いている。AI技術は1950年代に1つの分野として確立されて以来、流行と衰退の波を繰り返してきた。過去2回のブームの時はコンピューターがソフトウェアを動かすのに十分な性能を持っていなかったが、今では大量のデータと非常に強力なコンピューターによって、A I技術を実現することができるようになった。

【図表1】拡大が続く世界のAI市場
出所:Market.USの資料から筆者作成

米調査会社Market.USのレポートによると、世界のAI市場は2032年に2兆7450億ドルまで拡大すると試算されている。年平均成長率は約36%だ。

AI技術の向上と同時にAIの性能を最大限に発揮できるAI半導体チップの開発競争が加速している。AI半導体チップとは、AIの演算処理を高速化するために設計された専用の半導体チップである。AIが使われる範囲が拡大すると同時に、AIの学習に必要な計算量は飛躍的に増加しており、汎用プロセッサだけでは処理が追いつかなくなっている。こうした背景から、膨大な量のデータを高速に処理することができる、高性能で消費電力を抑えた専用チップを求める需要が高まっている。

10年かけて開発されてきた「TPU」、AI関連の処理を高効率で実行

コンピューターに解決を求める問題が複雑化するにつれ、コンピューターが実行するプロセス数も爆発的に増加している。AI技術の進化をサポートしているのが、中央演算処理装置(CPU)、グラフィック・プロセッシング・ユニット(GPU)、そしてテンソル・プロセッシング・ユニット(TPU)である。それぞれどのような特徴を持っているのか、クラウドストレージサービスを展開する米Backblazeがまとめたブログ記事を参照に、それぞれの特徴を確認してみたい。

CPU(セントラル・プロセッシング・ユニット)とは?

CPUは「Central Processing Unit(中央演算処理装置)」の略称で、名前の通り、コンピューターの中心的な役割を果たしており、ハードディスクやメモリなどの周辺機器に接続されてデータを受け取り、それらの制御やデータの演算を行っているデバイスである。

CPUは、PCでの文書作成やロケットの進路計算、銀行の取引処理など多様な用途に用いられている。CPUでも機械学習を行うことは可能だが、CPUは「計算の度にメモリにアクセスする」という特徴を持っていることから、機械学習のように大量の計算を実行する際には、メモリ通信速度がボトルネックとなって処理速度が遅くなる。

GPU(グラフィックス・プロセッシング・ユニット)とは?

GPUは「Graphics Processing Unit」の略称で、「大量の計算を並列処理する」という操作を得意としていることから、CPUと比べて圧倒的に高速な機械学習が可能となる。一般的に画像処理関係の演算は計算量が多く、3DのCG画像をリアルタイムで表示する場合などには、高い処理能力が必要になる。この画像処理に特化したデバイスがGPUである。

そのため、GPUをPCなどで使用する場合、コンピューター全体を制御するCPUと組み合わせて使用する必要がある。GPUやメモリ、入出力機器などをセットにしたグラフィックスボードがよく知られているが、機械学習専用に設計されたチップと比べると効率が劣る。また、大量のエネルギーを使用することが課題として指摘されている。

長い間ゲームに使われてきたGPUが一般的なコンピューティングに使われるようになったのは2000年代に入ってからだ。エヌビディア[NVDA]はチップを設計するだけではなく、CUDA(クーダ)と呼ばれる独自の開発プラットフォームも提供している。このCUDAによってエヌビディアのGPUはゲームだけではなく機械学習のタスクにも幅広く適用し広く普及することになった。

TPU(テンソル・プロセッシング・ユニット)とは? 

TPUは「Tensor Processing Unit」の略称で、グーグル(アルファベット)[GOOGL]が開発し、2015年から自社のデータセンターで使い始めた。グーグルはクラウドコンピューティングサービス「Google Cloud」を通じて、ユーザーにこのTPUの処理能力を提供しており、ユーザーは自身の手元にハードウェアを用意せずとも機械学習関連の処理を高効率で実行することができる。

2013年頃、グーグル社内において、もしすべてのAndroidユーザーがグーグルの新しい音声検索機能を1日わずか3分間利用した場合、その負荷を処理するためだけにグローバルなデータセンター容量を倍増させる必要がある、というデータが算出された。当時、彼らは標準的なCPUとGPUに依存していた。

これらは高性能ではあったものの汎用チップであるため、ディープラーニングが要求する特定の重労働、大規模な行列乗算には非効率だった。このことをきっかけにASIC(特定用途向け集積回路)開発のプロジェクトがスタート、初代のTPU製品を2015年に初めて社内向けに導入し、その後、10年間をかけて改良を重ねてきた。生成AI向けに消費電力を抑えた第7世代は2025年4月に公開された。

AIスタートアップの元CEOであるRehad Jaak氏が11月24日に投稿したブログ記事「The chip made for the AI inference era – the Google TPU(AI推論時代のために作られたチップ グーグルのTPU)」によると、ビデオゲームのテクスチャから科学シミュレーションまであらゆる処理を扱うよう設計されているGPUは、複雑なタスクに、膨大なエネルギーとチップ面積を費やしているが、TPUはこうしたGPUが抱える制約をすべて取り除くとしている。

さらに関係者にインタビューを行ったところ、多くの人がTPUはエヌビディアのGPUに比べて費用対効果が高いこと、またTPUのワットあたりの性能が優れていることを認めたという。ただし、この見解はすべてのユースケースに当てはまるわけではなく、適切な用途であれば、GPUと比較してコストパフォーマンスが大幅に向上するということだ。

エヌビディア1強に変化か?市場が追うのはアルファベットか、それとも…?

米ネットメディアのジ・インフォメーションが11月25日に報じたところによると、メタ・プラットフォームズ[META]が数十億ドルを投じて、グーグルのAI半導体であるTPUを自社のデータセンターで使用する方向で協議を進めているということだ。報道によれば、グーグルは自社開発のTPUをエヌビディア製半導体よりも安価な代替品として売り込んでおり、より高いセキュリティー基準を求める企業にとって有用だと訴えているという。

【図表2】アルファベットの売上高と純利益の推移
出所:フォーム13Fより筆者作成

グーグルクラウドの市場シェアはアマゾン・ドットコム[AMZN]のAWS、マイクロソフト[MSFT]のアジュールに次ぐ3番手であるが、市場の拡大とともに市場シェアはじりじりと高まってきている。さらに今後、クラウド市場で競合する他社が自社のデータセンターの構築にTPUを採用し始めるといったことになった場合、他社のシェア拡大はグーグルにとって大きなメリットとなる。

【図表3】2025年第2四半期末時点のクラウド市場のシェア
出所:日本経済新聞の記事より筆者作成

エヌビディアのAI半導体への競合が台頭することで、高性能半導体市場におけるエヌビディア1強状態が変わる可能性が指摘されている。2025年11月26日付けの日本経済新聞の記事「NY株ハイライト 『眠れる巨人』Googleの目覚め、NVIDIA優位は揺らぐか」では、米株式市場でアルファベットの存在感が一段と高まっている中、エヌビディア1強の構図が変化し、アルファベットが新たな勝者となるのか、あるいはハイレベルな競争がAIの一段の普及を促すのか、AI相場は大きな岐路に差し掛かっていると指摘している。

エヌビディアの株価は過去11日間で11%下落し、9月以来の安値を記録した。一方、アルファベットの株価は同時期に12%急騰した。はたして市場はアルファベットとエヌビディアのどちらを追うのだろうか?

石原順の注目5銘柄

アルファベット[GOOGL]
出所:トレードステーション
マイクロソフト[MSFT]
出所:トレードステーション
アマゾン・ドットコム[AMZN]
出所:トレードステーション
エヌビディア[NVDA]
出所:トレードステーション
ブロードコム[AVGO]
出所:トレードステーション