今回は、株式を保有している方が亡くなり、株式を相続する場合にどういった手続きが必要か解説します。
家族が亡くなったとき、相続が発生すると相続人調査が必要です。相続人調査とは、誰が相続人であるかを戸籍で確認することです。相続人の特定が完了したら、次に財産調査を進めます。どこの金融機関にいくら財産があるのか、不動産はいくつ所持しているのか等を調査し、相続財産を確定します。
財産調査は遺言書がない場合はもちろんですが、遺言書が存在する場合も念のために行うことをおすすめします。遺言書に全ての財産が記載されているかどうか分からないためです。
1.株式の財産調査
郵送物や通帳明細から所有している株式を調べる
上場株式を保有していると、証券会社等から年間取引報告書または取引残高報告書等が1年に1回は交付されます。故人の郵送物を確認し、送り元の証券会社等に確認しましょう。
また、証券会社からの入金があるかどうか、故人の通帳明細も確認しましょう。配当金を受け取っている可能性もありますので、把握していなかった株式が判明するかもしれません。
口座開設のある証券会社等が判明したら、故人が亡くなった時の残高証明書の発行を依頼し、財産を確定しましょう。証券会社によっては他にも株式を持っていないか調査してくれる場合があります。また、古い株券などがあった場合には証券保管振替機構という機関で口座の有無を調査してもらえます。
証券保管振替機構を利用する
証券保管振替機構とは、通称「ほふり」と言い、上場株式や社債、投資信託等、証券市場における電子化された有価証券の保管振替、および株券の売買による権利の移転を口座振替などで行っています。
故人が上場株式を所持しているか確認したい場合は、証券保管振替機構に、振替株式等に係る口座が開設されている証券会社、信託銀行等(口座管理機関)を有料確認できる登録済み加入者情報の開示請求を申し込みましょう。
確認できるのは、金融商品取引所に上場されている株式等のうち、所定の要件を満たすものについて、その口座が開示時点において開設されている証券会社、信託銀行等の一覧と、担保の受入れ及び差入れに関する情報です。
保有銘柄や保有残高、取引履歴等については、開示結果をもとに、各証券会社に問い合わせが必要となります。故人の株式等に係る口座の開設先を確認したい場合については、以下の通り、機構に対して直接、開示請求を申し込む必要があります。
【手続きできる人】
①法定相続人
②法定相続人の法定代理人又は任意代理人
③遺言執行者
【開示請求の手順】
ステップ1:必要書類の準備
次の4種類の書類が必要です。
・開示請求書
・法定相続人の本人確認書類
・法定相続情報一覧図又は被相続人との関係を示す戸籍等
・被相続人の住所確認書類
※開示請求書以外の書類は全て写しを交付します。原本の提出はできません。
※株主の氏名と住所の組み合わせで調査を依頼する手続きです。
※心当たりのある住所が複数ある場合は、それぞれ調査が必要です。
ステップ2:必要書類の郵送
上記書類を、証券保管振替機構の開示請求事務センターに送ります。費用については、開示結果受領時に代引きで払います(ステップ3参照)。
※郵送のみ可能です。窓口による受付や電話による回答は行っていません。
ステップ3:開示結果の受取
相続人、遺言執行者請求分については、1件6,050円からとなっています。
※同一株主について、複数の氏名及び住所の組み合わせで開示を請求する場合、2件目以降は1件当たり1,100円として加算されます。また、所定の書類を提出することによって、減額となる場合もあります。結果受領までにかかる期間は約1か月で、開示結果は代金引換で届きます。
2.財産の評価
財産調査が終われば、次は財産の評価を行います。
上場株式の場合、評価方法としては、以下の4つの価額のうち「もっとも低い金額」で計算することになります。
①相続があった日の終値
②相続があった月の終値の平均額
③相続があった月の前月の終値の平均額
④相続があった月の前々月の終値の平均額
3.遺産分割協議・名義変更・売却の手続き
財産調査と財産の評価が終わったら、遺産分割協議を行い、誰がどれくらい株式を相続するのか、相続人全員の話し合いによって決定します。遺産分割協議が締結されるまでの間、相続財産は相続人全員の共有状態にあるため、誰であっても勝手に処分することは認められません。
遺産分割協議が無事締結できれば、上場株式は証券会社等の窓口で手続き進めることができます。
株式を相続するために必要書類は、下記の通りです。
・証券会社所定の名義変更依頼書
・戸籍謄本または法定相続情報一覧図
・遺産分割協議書または遺言書の写し
・相続人全員分の印鑑証明書
4.株式の相続開始後の配当金について
配当金は、遺産分割協議が決定するまでは相続人全員の共有財産となるため、金融機関が共同相続人の相続分に応じた配当金の支払請求には応じないことが多いようです。配当金支払請求権の承継に当たっては、遺産分割協議書が必要となる可能性が高いでしょう。
遺産分割協議未了の間の配当金を受け取る場合はは、相続分に応じた持分の過半数によって権利行使者を指定して会社(株主名簿管理人)に通知し、当該権利行使者が支払請求を行うことになります。
なお、上場会社の配当金支払請求権の消滅時効は、一般的に定款によって3年に設定されていますので、注意しましょう。
スムーズな相続は、事前のコミュニケーションがカギに
故人がどの金融機関にいくら預けていたのか、どのような株式を所有していたのか、生活を共にしていても全ての財産を把握するのは難しい場合が多いです。
故人の相続手続きを進める際には、役所に戸籍等の取得のため出向いたり、多岐にわたる相続財産の金融機関に連絡をしたり、不動産については相続登記を申請したなど大変な手間と労力がかかり、相続人にとって大変な負担になります。
家族間で事前に財産が確認できるものがどこにあるか話す機会を作り、いざという時のために備えておけば負担を少しでも減らせるかもしれません。
