バークシャー・ハサウェイ[BRK.B]、金融株を圧縮して石油株を追加購入

著名投資家ウォーレン・バフェット氏率いる投資会社バークシャー・ハサウェイ[BRK.B]が2月14日、SEC(米証券取引委員会)に2024年12月末時点の上場株ポートフォリを報告するフォーム13Fを開示した。それによると、バークシャーは10-12月期に保有するバンク・オブ・アメリカ[BAC]やシティグループ[C]の持ち高を圧縮する一方、石油大手のオクシデンタル・ペトロリアム[OXY]の保有株数を増やした。

【図表1】バークシャー・ハサウェイの保有銘柄(2024年12月末時点と2024年9月末時点)
出所:フォーム13Fより筆者作成

また、アルタ・ビューティー[ULTA]、SPDR S&P 500 ETF[SPY](ベンチマーク:S&P500指数)、バンガード・S&P500 ETF[VOO](ベンチマーク:S&P500指数)を全て売却。一方で、ビール会社のコンステレーション・ブランズ[STZ]を新たに買い入れ、2024年12月末時点で保有する上場株式数は35銘柄と、3ヶ月前に比べて差し引き2銘柄減少した。全体の投資残高は約2671億7547万ドルと、2024年9月末に比べて約8億ドル増加した。

【図表2】バークシャー・ハサウェイの2024年12月末時点の保有銘柄上位10社
出所:フォーム13Fより筆者作成

バークシャーは、2024年9月末まで4四半期連続でアップル[AAPL]株を売却してきたが、10-12月期には売却は行わず、12月末時点で保有するアップル株は3億株(751億ドル相当)だった。2024年12月にかけてアップルの株価が上昇したことから3ヶ月前と比べ、保有株数に変化はなかったものの保有評価額は52億ドル増加し、ポートフォリオ全体に占める割合は28%に上昇した。

一方、バンク・オブ・アメリカ株については売却を継続している。10-12月期には持ち高を約15%減少させた。世界金融危機後の2011年、バークシャーは50億ドルの優先株を購入し、バンク・オブ・アメリカ株への投資をスタートした。以降、保有を積み増し、バンク・オブ・アメリカ株は過去、バークシャーにとってアップルに次ぐ保有上位銘柄であったが、アメリカン・エキスプレス[AXP]に次ぐ第3位保有株となっている。

バフェット氏は以前、「我々の事業の大部分は、今年は昨年より低い収益を報告するだろう」と語り、米国経済の「信じられないような時期」が終わりつつあると述べていた。今回、保有していたS&P500のETF2種類を全て売却したが、2024年9月末時点でのバークシャー全体のポートフォリオに占める割合は合計で0.02%だ。ポートフォリオ全体から見て影響は限定的であると言えるだろう。

「保有上場株式評価額 <保有手元現金残高額」現金を使う準備は整っている

バークシャーが保有する手元現金(現預金と米短期債の保有額を合計した額)は2024年9月末時点で3252億ドルと過去最高を更新した。2024年12月末時点の現金保有残高については、2月末に予定されている2024年第4四半期決算時まで待つことになるが、今回明らかになった保有上場米国株のポートフォリオの合計額(2671億ドル)を上回る現金を積み上げている。

【図表3】バークシャー・ハサウェイの手元現金残高とNYダウの推移
出所:各種データより筆者作成 
※青線=現金ポジション(単位:百万ドル)右目盛、赤線=NYダウ(単位:ドル)左目盛

2024年5月に開催されたバークシャーの年次株主総会においてバフェット氏は、「現金を使いたいのはやまやまだが、リスクがほとんどなく、私たちに大きな利益をもたらしてくれると思わなければ、使うことはないだろう」と述べていた。バークシャーは保有する株式の圧縮を進め(主にアップルとバンク・オブ・アメリカ株)、手元現金を急速に積み上げてきた。

【図表4】バークシャーの米短期債、現預金残高の推移
出所:フォーム13Fより筆者作成

注目すべきは、その積み上がった現金ポジションの内訳だ。全体のうち現預金の割合が11%であるのに対し、89%を短期債で運用している。バフェット氏は以前、米国債の購入について唯一の問題は、「3ヶ月物の財務省短期証券で買うか6ヶ月物で買うかだ」と語っていた。将来起こりうる市場の混乱に備え、可能な限り短期で運用する方針なのだろう。

バークシャーは巨額の資金と確実なパフォーマンスで、市場の混乱や発作に即座に対応する手段を完備している。いつの時代もそうであるように、行き過ぎた株価の戻りは起こるものだ。そのような混乱が起きたとき、バフェット氏には現金を利用する準備が整っている。

オクシデンタル・ペトロリアム[OXY]へのさらなる追加投資が意味すること

今回公開されたフォーム13Fは、2024年12月末時点の保有状況を示すもので、以後、動きがあったものは反映されておらず、次回の公開を待つことになる。バフェット氏は2月に入り、いくつか株式を売買しているが、その中で改めてエネルギーセクターへの投資を積み増していることが明らかになった。バークシャーが2月11日にSECに提出した資料によると、7日にオクシデンタル株76万株を新たに買い入れ、保有残高は2億6494万株となった。

バフェット氏は2022年、米国が石油脱却へと近づいているとは思えないと述べている。また、技術の進化により生産性が向上し、石油企業の多くは、原油相場が現在の水準を大きく割り込んでも、利益を確保できると語っている。例えば、オクシデンタルは原油価格が1バレル当たり40ドルに下がっても、利益を確保できるという。

米国屈指の石油、シェールオイル生産地であるパーミアン盆地において優良な資産を保有していること、バランスシートの強化に加え株主還元も積極的に行っていることなど、バフェット氏が投資先に求める要素の多くをオクシデンタルは満たしている。

ウクライナ情勢、米中対立、米国の政治的分断、中東情勢の緊迫化など、戦争の拡大とインフレの再燃が不安視されている中、米国の物価高騰はいったん峠を越えた。しかし、バフェット氏がエネルギー株へのエクスポージャーを増やしている背景には、「インフレはそう簡単には収まらない」という歴史観があるのかもしれない。

今後、地政学リスクが高まり、インフレが加速した場合、エネルギー株を保有するバフェット氏にとっては有利になる。一方、ディスインフレになり、金利が低下した場合はハイテク株が有利となる。アップルを持っているバフェット氏にとっては大きなプラスだ。

要は、アップル株と石油株の両建てで、これから金利が上がろうが下がろうが、何とかなるような運用になっているのである。一方で、相場の大暴落が起きるようなことも想定し、それに対する備えとして1500億ドルを超える現金も抱えている。大量の現金を保有しているため、市場が総悲観になっているときに買い向かうことができる唯一の投資家が、バフェット氏なのである。

石原順の注目5銘柄

アップル[AAPL
出所:トレードステーション
アメリカン・エキスプレス [AXP
出所:トレードステーション
バンク・オブ・アメリカ[BAC
出所:トレードステーション
オクシデンタル・ペトロリアム[OXY
出所:トレードステーション
コンステレーション・ブランズ[STZ
出所:トレードステーション