1947年創業、多くの塗料ブランドを擁する特殊化学製品のリーダー
アールピーエム・インターナショナル[RPM]は、オハイオ州メディナに本社を置く塗料、コーティング剤、接着剤の大手メーカー。建設用化学製品や塗料を扱う持株会社で、子会社を通して、さまざまな特殊化学品(特殊塗料、保護コーティング、シーラント、接着剤など)や建築資材、関連サービスを提供しています。2024年5月期の売上高は73億ドルで、塗料・コーティング業界において世界第5位に位置付けられます。
同社は1947年創業のリパブリック・パウダード・メタルズ社を前身とし、「アルマネーション」という耐久性の高いアルミニウム屋根コーティングの製造・販売からスタートしました。後に買収を重ねて成長を遂げ、多くの塗料ブランドを擁する特殊化学製品のリーダー企業となりました。いまや世界中で119の製造施設を運営し、それらの子会社を通して159の国と地域で製品を販売しています。製品は、建設資材から高性能コーティング、消費者向け製品、特殊製品など多彩で、住宅から商業ビル、データセンターなどの高度建築物にランドマークまで幅広い分野で使われています。また、繰り返し需要が発生する修理・メンテナンス製品に強みを持っており、収益基盤は事業リスクが低く抑えられています。
多様性と修理・メンテナンス製品による安定性が強み
事業は、建設製品グループ(CPG)、パフォーマンスコーティンググループ(PCG)、コンシューマーグループ、特殊製品グループ(SPG)の4セグメントを通じて展開しています。
建設製品グループ(CPG)
建物の保護に使用される防水、コーティング、および断熱材など従来の屋根システムを展開しています。2024年度においては全体売上の37%を構成しました。2024年5月期は、高金利下の厳しい環境にありながらも、CPGセグメントは6.6%の成長を記録しました。これは、経済環境の影響に関わらず需要が発生する修理・メンテナンスの領域に強みを持つからと考えられます。
また近年は、データセンター市場の拡大から恩恵を受けています。データセンターは、防水構造であり、防火基準を満たし、電子機器を放電から保護するという厳しい施設基準があります。さらに開設後は安定的な施設稼働のため、継続的なメンテナンスと修理が必要とされるからです。現在、データセンター建設ラッシュの中で新規需要を獲得していますが、これは将来にわたって修理・メンテナンスのための需要を享受し続けられる基盤が構築されていることになります。
こうした修理・メンテナンス製品の強み、データセンター建設による需要拡大によって、高金利下のオフィス建設が低迷する中でも成長を維持することができたわけです。調査会社によると、世界の商業建設市場は、都市化やデータセンター建設により、2023年の17.3兆ドル→2033年には39.1兆ドルになると予想されています。年間8.5%のペースで成長することになります。
パフォーマンスコーティンググループ(PCG)
建設や産業分野で使用されるフロアリングや腐食防止のための塗料を製造しています。2024年5月期における売上構成比は20%でした。
コンシューマーグループ(CG)
塗料、仕上げ材など主に住宅改修や趣味のためのDIY製品を製造し、ホームセンターや工芸品店を通じて販売しています(売上構成比34%)。消費者向け製品は、ホームデポ[HD]やロウズ[L]、ウォルマート[WMT]などの大手小売店で販売されています。
特殊製品グループ(SPG)
船舶塗料や業務用カーペット洗浄・消毒製品、食品や薬のコーティング材、またマニキュアまで様々な製品を展開しています(売上構成比10%)。2024年末までにベルギーの樹脂生産施設を開設予定し、稼働により、他のセグメントへの樹脂供給が開始されます。売上高の増加とともに、サプライチェーンリスクが低減される効果が得られる動きです。
利益率の向上めざす「MAP 2025プログラム」が進行中
同社は2022年8月、コスト削減と利益率向上をめざす「Margin Achievement Plan 2025(MAP 2025)」という計画を発表しました。コスト削減をはじめ、ビジネスプロセスの合理化と運転資本の削減、工場集約、価格決定力を通じて利益率を拡大し、長期的に収益性を高めることを目指す内容です。この計画では、2025年5月31日までに「年間売上高85億ドル、粗利益率42%、調整後EBIT利益率16%」を目標に掲げます。
プロジェクト開始以降、売上高は9.4%成長して73億ドルに、粗利益率は4.8ポイント改善し41.1%に、調整後EBIT利益率は2.2ポイント改善して12.8%と全ての指標が改善しています。また運転資本比率(売上高に占める運転資本の割合)は、4ポイント改善して23.5%となりました。工場集約などの合理化が効いていると見られます。
高まるキャッシュ創出力と財務改善
業績は好調で値上げ効果とMAP2025効果によって利益が改善しており、過去最高利益を記録しています。利益率の低い製品の合理化(整理)は売上を減少させますが、将来的にも利益水準の底上げが期待されます。
MAP2025による効果はキャッシュフローの質も高めていることが確認できました。第1四半期(6月~8月)における営業キャッシュフローは2億4,800万ドルと好調でした。MAP2025で進める運転資本の構造的改善が効いたようで、売上高に対する営業運転資本の割合(運転資本比率)は、前年同期の25.2%から2.5ポイント改善して22.7%となりました。過去2年間で5.4ポイント改善しており、キャッシュフローの力を高めています。
財務面でもプラスの効果が得られています。第1四半期にはキャッシュフローから7,500万ドルの負債を返済することができました。過去12ヶ月間では4億5,300万ドルの負債を返済しています。その結果、2022年5月期末から継続的に財務が改善しています。自己資本比率は29.6%→39.9%に上昇し、ネットDE倍率(純有利子負債自己資本比率)は1.8倍→0.69倍に低下してきました。負債が減少したことで、利息費用が減少→調整後EBITが増加(過去最高)→調整後EPS(過去最高)が増加するという効果を生み出しています。税負担が減ったことと自社株買いの効果もあって、調整後一株当たり利益はEBITの6%成長を大幅に上回る12%の増加を記録しています。