11州で展開する米国最大級の総合電力会社

アメリカン・エレクトリック・パワー[AEP]は、オハイオ州コロンバスに本社を置く、米国最大級の総合電力会社です。創業は1906年。100年以上にわたって米国の発電・送電・配電インフラを整備し、現在は11州で560万の顧客にサービスを提供しています。事業は大きく4つのセグメントで構成されています。

【1】垂直統合型公益事業

中心となるのは、発電から配電までを一体的に担う「垂直統合型公益事業」で、Appalachian PowerやAEP Ohioなど複数の州別子会社を通じて電力を供給しています。この部門は同社の収益の柱であり、地域ごとの規制下で安定した利益を生み出しています。全体利益の60%を構成しています。

【2】送配電事業

次に重要なのが「送配電事業」です。主にテキサス州やオハイオ州で展開しており、発電機能を持たず、電力の輸送インフラ運営を行っています。AIデータセンターなどによる電力需要の増加を追い風に、足元025年度第3四半期においても利益が+22%と大きく伸び、利益構成比は前年の26%→28%に拡大しました。

【3】送電ネットワーク管理

さらに、高電圧送電線を専門に運営する持ち株会社を通じて、全米最大級の送電ネットワークを管理しています。特に高電圧の765kV送電システムでは北米全体の約90%を保有しており、州間を結ぶ電力供給のハブとして存在感を高めています。利益構成比は21%でした。

【4】ジェネレーション&マーケティング事業

一方で、ジェネレーション&マーケティング事業は、発電事業(独立系発電や卸売電力の販売)および電力トレーディング事業などを展開しています。かつては中核事業でしたが、徐々に規模を縮小しており、利益構成比は5%と前年の半分に縮小しました。

なお同社の発電設備容量は約30GWと、ネクステラ・エナジー[NEE](約72GW)、デューク・エナジー[DUK](約50GW)、サザン[SO](約44GW)と比べると少なく、これは同社が「発電企業」ではなく、むしろ「送電・配電インフラ企業」としての性格を強めていることの表れと捉えられます。

同社はこの10年間で、石炭火力や一部発電資産を段階的に売却し、発電部門を縮小させています。そして売却で得たキャッシュを送電・配電インフラ投資に振り向けてきました。発電(非規制事業)中心のビジネスモデルから、送電・配電(規制事業)へのシフトにより、収益基盤はより安定的になってきたとみることができます。実際、2025年第3四半期時点では、利益の8割以上が規制事業から生み出されており、長期的なキャッシュフローの予測可能性が大幅に高まっています。

収益ベースとなるレートベース(認可資産)の急拡大

こうした規制事業では、料金設定は通常、州の規制当局が定めるルールによって決まります。公共料金の計算方法は複雑ですが、事業ごとに設定された「レートベース(認可資産)」に、公益委員会が認める規制ROE(認可収益率)を乗じ、燃料費や特別のコストをプラスして設定されます。投資を増やし資産価値が上がるほどに、料金が上がる構造です。こうした制度の下、同社も積極的な設備投資を進め、認可資産であるレートベースを着実に拡大させています。

直近では2024年から2025年にかけて5件が承認され、インディアナ、テキサス、オクラホマ、バージニアなどで合計約2億6000万ドル規模の年間増収が認められました。ROEはおおむね9.5%~9.9%で承認されています。また現在2件が審査中(承認待ち)で、これらが承認されればレートベースはさらに拡大します。この2件の申請ROEは10.8%および10.9%です。

2025年時点のレートベースは約940億ドルですが、今後の大型投資により2030年には約1280億ドルまで拡大する見通しで、年率約10%の成長となります。同社の規制ROEは2025年時点で9.1%、2030年には9.5%に上がる見込みです。これは業界平均(約8~9%)を上回る水準で、規制下でも堅実な利益を確保しています。例えば、9.5%のROEが承認されている場合、100ドルの資本投下に対して年間9.5ドルの利益を電気料金として回収できる計算になります。設備のアップグレードは公益企業にとって単なる維持投資ではなく重要な運営戦略と言えます。

AIやクラウドなどによる構造的な負荷増加が見込まれる中、設備投資計画を上方修正

同社がレートベースを拡大している背景には、AIやクラウドの拡大を中心とした米国内の電力需要の急増があります。中でも同社が主力とするテキサス、オハイオ、インディアナ、オクラホマといった州は、AIデータセンターや半導体工場の立地が相次いでおり、この需要を受ける形になっています。

同社が保有する契約済み負荷(ESAs/LOAs)は、2025~2030年の間に累計28GWに達する見通しで、これにより、全社のピーク需要は現在の37GWから2030年には65GWへと急拡大する見通しとなっています。増加分28GWの約8割がデータセンター由来で、州別ではテキサス(13GW)、オハイオ(8GW)、インディアナ(3GW)、オクラホマ(4GW)とされています。このような「構造的な負荷増加」が見込まれる中、供給力確保に向けてすでに8.7GW分のガスタービン設備を発注済みです。

同社は需要急増を踏まえ、2026~2030年にかけての設備投資計画を「540億ドル→720億ドル」に大きく引き上げました。約33%の増額で、その内訳は、送電42%、配電24%、発電29%、その他5%です。過去5年間の設備投資がわずか300億ドル強であったことを考えると、莫大な金額です。これによって上述のようにレートベースが1280億ドルに拡大する見通しとなりました。特に注目したいのは送電分野で、2025年の約400億ドルから2030年には約500億ドルへ拡大する見通しです。送電網の拡張は、AIデータセンター需要や再生可能エネルギー接続需要の高まりに直結しており、中長期成長の軸となっていると言えます。

他社が真似できない強み:広域ネットワーク+超高圧技術

送電部門は同社最大の強みです。同社の送電網は約40,000マイル(約64,000km)と全米最大規模を誇ります(デューク・エナジー約32,000マイル、サザン約27,000マイル、ネクステラ・エナジー約16,000マイル)。

注目すべきは、単なる規模の大きさだけではなく、広域性と高電圧ネットワークも全米トップであるということです。例えば、同社の40,000マイルの送電網は11州にまたがって運営されていますが、他社は多くても4~6州であり、同社は圧倒的な広域性を持っています。この送電網はPJM、SPP、ERCOTといった主要電力市場を物理的に結び、州をまたいだ電力融通の“ハブ”として機能しています。全米の電力供給ネットワークの中心的存在と言えます。

また、765kVという超高圧送電線を2,100マイル(約3,380km)以上保有・運用しており、これは米国全体の約90%を占めます。765kV送電線は、345kV線の6本分に相当する電力を1本で送電できます。より少ない送電線・土地で大容量電力を運べるため、電力消費の大きいデータセンターや工業団地の立地拡大、州間を結ぶ長距離送電網の整備などで、その重要性が高まっています。

同社は北米で初めて765kV送電システムを導入した企業であり、60年以上にわたって設計・建設・運用の実績を持ちます。他社の多くは345kV以下の送電が中心で、765kV送電システムを全国規模で展開しているのは同社のみです。発電容量ではネクステラ・エナジーやデューク・エナジーなどに劣るものの、送電インフラの規模と技術力においては他社を大きく引き離しており、同社の競争力となっています。

総合評価:公益株としての安定性とAIによる電力需要拡大という追い風を享受できる成長性を兼ね備えた、長期保有にふさわしい銘柄

業績は好調。四半期最高の売上高を記録し、EPSも通期計画を達成する見通しです。また、中期的には大型インフラ投資を軸に、年率7~9%のEPS成長が見込まれています。同社は急拡大するAI・データセンター需要に対応する形で送電・配電網を強化し、レートベースを年率10%で拡大させていきます。レートベース拡大と規制ROEの上昇が見込まれ、利益成長は加速することが予想されます。「電力需要の増加(負荷増)→設備投資拡大→レートベース拡大→収益拡大」という好循環が生まれているのがポイントです。超高圧送電システムに強みを持つことも、今後の電力需要の受け皿となる可能性を高めています。

最大のリスクは、金利上昇です。同社は今後数年間で毎年100億ドル規模の資金調達を予定しており、同社自身の試算では、金利が0.25%上昇するとEPSが約0.01ドル減少するとの見通しを示しています。この他、規制認可の遅延や方針転換によるROE回収リスクもあります。ただ、同社はS&PベースのFFO/Debt比率14~15%を維持し、格付けも安定(S&P:BBB、Moody’s:Baa2)を保っています。金利上昇局面でも財務の健全性と配当維持力が高いことは、他の公益株と比較して安心材料と言えます。

もっとも、金利低下の見通しであり、金利が0.25%下がるとEPSが約0.01ドル上昇すると試算されています(同社)。仮に政策金利が1%下がれば、単純計算で年間EPSは+0.04ドル(約0.7%増)押し上げられることになります。さらに、調達コスト低下により設備投資の採算が改善し、レートベース拡大を加速できるので、収益拡大期となる可能性が高まっていると言えます。

高成長株ではありませんが、株価は上昇を続け史上最高値圏にあります。年初来上昇率は33%とS&P500やナスダック100を上回るパフォーマンスです。公益株が金利低下の局面ではPERが上昇しやすい傾向があるのと、AIデータセンターによる電力重要という追い風が背景となっていると思われます。公益株としての安定性とAIによる電力需要拡大という追い風を享受できる成長性を兼ね備えた、長期保有にふさわしい銘柄と言えると思います。

【図表1】アメリカン・エレクトリック・パワー[AEP]年間配当推移
出所:Bloombergより筆者作成
※1978年~2025年
【図表2】アメリカン・エレクトリック・パワー[AEP]とS&P500の株価推移比
出所:Bloombergより筆者作成
※S&P500およびアメリカン・エレクトリック・パワー[AEP]株価は1980年7月31日を1とした数値