先週(8月13日週)の動き:NY金は年始から28回目の最高値更新、国内金価格は8月5日週の安値から大きく反発

ニューヨーク金先物価格(NY金)、週足は前週末比64.40ドル、2.6%高と3週連続続伸

先週のニューヨーク金先物価格(NY金)は続伸し、終値ベース、取引時間中の価格ともに過去最高値を更新した。取引時間中の最高値更新は年始から28回目となる。

8月5日週は、株式、為替市場大荒れの中で利益ねん出型の売りが先行していた金市場だが、先週8月14日に7月の米消費者物価指数(CPI)、15日に同小売売上高など、注目度の高い経済データが相次いで発表され、いずれも米国経済の安定ぶりを示したことで、金融波乱を背景とした売りは後退した。

一連のデータはインフレ率が米連邦準備制度理事会(FRB)の目標である2%に向けて緩やかに低下し続けており、一方で個人消費は底堅く推移していることを示した。ゴルディロックス(適温経済)と呼ばれる環境を示唆し、株式市場は再びリスクオンに転じ、大波乱相場はいまや単なるノイズに過ぎなかったようで、S&P500種とナスダック総合は先週末まで7営業日連騰となった。米国株が上昇する中でNY金も、ともに上昇という流れとなった。

一時は景気悪化への懸念から利下げ幅の拡大(0.25%→0.5%)まで前のめりに織り込みにかかった金市場だったが、通常ペースではあるものの9月の利下げはほぼ確定との受け止め方が広がっている。その中で8月16日は対円はじめ主要通貨に対し米ドルが売られ、金市場では買い先行の流れとなり、NY早朝から終盤に向けて上値追いの流れが続いた。8月16日のドル指数(DXY)は102.463で終了したが、年初1月21日以来7ヶ月ぶりの安値水準となる。

また、8月16日NY時間の早朝に発表された7月の米住宅着工件数が年率換算で前月比6.8%減の123万8,000戸と2020年5月以来の低水準となると、米ドルが売られる中でNY金は上げ足を速めた。8月2日に付けていたこれまでの最高値2,522.50ドルを抜けると、そのまま2,540ドルに接近するところまで上昇した。

しかし、米ミシガン大学が発表した8月の米消費者信頼感指数(速報値)が67.8と市場予想(66.6、ダウジョーンズ調べ)以上に上昇したことで売り優勢に転じ、再び2,520ドル割れに押し返されることになった。それでも押し目買い意欲は強く、終盤に向け再び上値追いに転じ、通常取引は2,537.80ドルで終了、前日比45.40ドル高で終値ベースでの最高値を更新した。その後の時間外取引でも上値を伸ばし、一時2,548.30ドルと午前中に付けていた高値を上抜け、過去最高値を更新した。

結局のところ、先週のNY金の週足は前週末比64.40ドル、2.6%高と3週連続続伸となった。レンジは2,462.70~2,548.30ドルだったが、これは高値更新を考慮し、想定レンジとして示した2,460~2,550ドルとほぼ同じという形になった。

国内金価格は、安値からの反発で上昇率では高値更新のNY金を上回る

国内金価格は8月5日週に加速した円高の流れが落ち着いたところに、NY金の上昇が重なり、安値から反発ということになった。国内金価格の週足は前週末比327円、2.85%高の反発となった。上昇率では高値更新のNY金(+2.6%)を上回った。

先週のレンジは1万1,442~1万1,824円だったが、こちらも想定レンジの1万1,440~1万1,950円に沿ったものだった。というのも、8月16日のNY金の高値更新を反映した国内金価格の16日の夜間取引で一時1万1,944円まで買われたからだ。この価格はデータ上では8月19日の日中取引のデータとして扱われるが、実質ベースでは先週の高値と言える。

いずれにしても、8月5日の終値1万1,110円を底に、急反発しているが、従来の国内価格に乗っていた、いわば円安プレミアムが剥がれる局面で米ドル建て価格の上昇がそれをカバーするという、ゴールドならではの展開が見られている。

持続するマクロ型の上昇相場、欧米投資マネーの本格流入に期待

先週、最高値を更新したNY金。前述したように先週のコラムで価格見通し上限は最高値更新を見込む2,550ドルとしていた。その際、「中東情勢の流動化で一時的に上値を試す可能性を予想するが、その水準を維持できるかというと難しそうだ」と解説した。

パレスチナ武装組織ハマスの幹部が7月にイランの首都テヘラン滞在中に暗殺されるという事件が発生。イランはイスラエルによるものとの判断から、イスラエル本土への報復攻撃を公言していた。7月末にはその攻撃が切迫しているとの米国防総省初の情報が流れていたことから、金市場での最高値更新はいわゆる地政学的要因の高まりの中で起きると想定し2,550ドルとした経緯がある。

ところが、懸念されているようなことがない中で、NY金は高値を更新した。この上昇は、米利下げ接近観測やこの秋以降予想される米国での政治的混乱の可能性、さらなる流動化の様相を見せるウクライナ情勢(ロシア領内への直接攻撃)など、不透明要因の多さに反応したマクロ型の上昇と言えるものだろう。特定の事態に反応する急騰急落型の値動きと異なることから、持続性がありそうだ。そしてポイントは、欧米投資マネーの本格的な流入にもたらされている可能性が高いことにある。今後、目立った上値追いから値動きが荒くなる可能性がある。

今週の見通し:ジャクソンホール会合でのパウエルFRB議長の発言に注目、想定レンジはNY金が2,510~2,570ドル、国内金価格が1万1,760~1万2,060円

今週の注目点は何と言っても、ジャクソンホール会合となる。8月22日~24日の日程で米地区連銀の1つであるカンザスシティー地区連銀主催で毎年開催されている経済シンポジウムを指す。8月23日午前10時(日本時間同日午後11時)にパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長が基調講演で経済見通しについて発言する予定となっている。

市場の関心は9月の利下げに確信が得られるか否かにあるが、より重要なのは政策転換後のシナリオを、FRBがどう描いているかということだろう。9月利下げを100%織り込んだ現在、利下げに転じた後の追加利下げのペースなど、舵取りをどうするかについての発言に注目している。また、米財政赤字の急拡大などリスクへの言及はあるのかにも注目したい。

さらに8月21日には、7月30、31日開催分の米連邦公開市場委員会(FOMC)の議事要旨が公表される。波乱を招く大きな要因になった8月2日の7月米雇用統計前の話し合いではあるが、雇用の減速についてメンバーがどの程度の危機意識を持っていたのかを確認したい。

このような中、今週はジャクソンホール会合にて米利下げ後の政策見通しが示されることを前提に、NY金は新高値更新が続くと見ている。想定レンジはNY金が2,510~2,570ドル、国内金価格は1万1,760~1万2,060円を見込んでいる。