先週の動き:週末に想定外の買い ニューヨーク金先物価格3週間ぶり高値 国内金価格はNY金上昇を映し終値ベースでの最高値接近

先週の当コラムで、主要な米経済指標の発表がない「静かなる週(quiet week)」と表現したように、注目点は連日予定されていた米連邦準備制度理事会(FRB)高官の講演などでの発言内容だった。温度差はあったものの、総じて高金利長期化を示唆する発言が相次いだ。その一方で、中東情勢を巡ってはパレスチナ自治区ガザでのイスラエルとハマスの戦闘休止と、人質解放に向けたエジプトを仲介国とする交渉の進展具合も関心事となっていた。米国はじめ国際的な反対論の中で、イスラエルは南部ラファへの攻撃を進めようとしており、その場合一般人にさらに多数の犠牲者が出ることが懸念された。近隣諸国の世論の方向によっては、中東での戦域の拡大の可能性も考えられることによる。

こうした環境の中で先週のニューヨーク金先物価格(NY金)は、5月9日までの4営業日は方向感なく2,300~2,340ドルのレンジ取引となった。前週まで2週間ほど100ドルを超える値幅の調整局面に入っていたが、それがようやく落ち着き、値固めという展開と言えた。

ただし、5月10日は流れの変化を思わせた。NY時間外のアジア市場からロンドン、さらにNY早朝にかけて買い優勢の展開が続き、NYの早朝に一時2,385.30ドルまで付けた。その後、NYの通常取引の時間帯はむしろ売りが先行し、2,360ドル方向まで押し戻される売り買い交錯状態となった。結局、終盤に買い戻され、引けは2,375.00ドルで前日比34.70ドル高となった。水準としては終値ベースで最高値を記録した4月19日以来3週間ぶりの高値水準となる。上値追いという点で、やや想定外と言えた。NY金の調整も一巡感が出てきたとみる。

5月10日のアジア早朝からNY早朝に至る上昇の手掛かり材料として思い当たるのは、中東情勢のみになる。イスラエルとハマスの戦闘休止と人質解放に向け、5月7日から仲介国エジプトの首都カイロで開かれていた交渉は合意に至らず、9日に物別れで終了した。イスラエルはガザ南部ラファへの攻撃を開始したと伝えられた。限定的な攻撃とするものの、エジプトとの国境はイスラエル軍が封鎖しており、食料や水の搬入はできないと伝わり懸念が高まっている。事態の進展(悪化)如何では、米国内世論を刺激し、米大統領選へのさらなる影響も考えられそうだ。10日は金融経済要因よりも地政学リスクへの関心がNY金を最高値圏近くまで押し上げた。内容的には先週の見通しで示したものと言える。

NY金の週足は66.40ドル、2.9%の上昇で3週間ぶりの反発となった。レンジは2,300.60~2,385.30ドルとなった。想定レンジを2,310~2,360ドルとしていたが、やや上振れということになった。

一方、国内金価格は、前々週は政府・日銀によるドル売り円買い介入で一時151円台まで見たドル円相場も、先週後半は155円台半ばで滞留したことで、NY金の値動きをそのまま映すことになった。ドル円相場のレンジは、152.79~155.96円で、週末の引け値は155.75円だった。大阪取引所の国内金価格は、前々週の円急伸を映し、夜間取引で1万1180円を先行して付けており、この価格が先週の安値となった。連休の関係で4営業日となったが週末に向け3営業日続伸となった。特に5月10日は、NY金がアジア時間に水準を切り上げたことから国内金価格の終値は前日比206円高の1万1816円となり、ほぼ週足の上げ幅と重なることになった。国内金価格の週足は前週末比244円、2.1%高で3週間ぶりの反発となった。なお、終値ベースの過去最高値は4月19日の1万1837円で、先週末の引け値は最高値水準に接近している。

FRB高官発言 高金利長期維持を示唆も温度差

先週は連日FRB高官の発言が続いた。発言内容としては総じて高金利の長期維持を示唆するものとなったが、個別には温度差がある。先週の当コラムで5月7日のミネアポリス地区連銀カシュカリ総裁、同9日のサンフランシスコ地区連銀デイリー総裁などの発言に注目しているとした。

タカ派で知られるミネアポリス地区連銀カシュカリ総裁は、堅調な住宅市場が一部要因となりインフレ低下が停滞しており、「現行政策を長期にわたって続けるというのが最も可能性の高いシナリオだ」とした。その上で利上げの可能性にも言及。「インフレが3%で定着し、金利を引き上げる必要があると最終的に確信した場合は、必要に応じてそうするだろう」とも指摘。それは最も可能性の高いシナリオではなく、追加利上げを実施するハードルはかなり高いが、可能性は排除しないとした。

サンフランシスコ地区連銀のデイリー総裁は今後数ヶ月の米インフレの動向について「相当な」不確実性があるとしながらも、依然として物価圧力は緩和し続けているとの認識を示した。前週発表の4月雇用統計が多くの項目が減速傾向を示す中で、雇用の伸びが鈍化している可能性はあるものの、利下げを正当化し得るほど労働市場が悪化している証拠はないとした。年内の利下げについて自身は「様子見モード」とした。同総裁は2024年の米連邦公開市場委員会(FOMC)で投票権を持っている。

先週、利下げに慎重なタカ派の姿勢を示したのはカシュカリ総裁以外で、ボウマンFRB理事、ダラス地区連銀のローガン総裁がいた。先週はFRB内の見通しの割れを感じさせることになった。現在、データ次第という政策運営のFRBだけに、今後発表される指標結果を注視ということになる。

今週の見通し:NY金調整に一巡感、米CPI、小売売上高に注目 NY金2,348~2,408ドル、国内金価格1万1750~1万2000円を想定

今週は5月14日に4月の米生産者物価指数(PPI)、同15日に同消費者物価指数(CPI)と4月の小売売上高が発表される。特にCPIはFRBの利下げタイミングを計る手掛かりとして注目度が高い。CPIについては総合指数の伸びが前年同月比3.4%と、3月分の3.5%からわずかな鈍化が見込まれている。ここまで3ヶ月連続で前月比伸びが予想を上振れし、利下げ観測が大きく後退し、一部に利上げ観測まで浮上しただけに、減速予想とはいえ決め打ちはできない。CPIとともに小売売上高も、小売価格への価格転嫁は一巡したとされるものの、消費者が選別消費に走っているとされるだけに、下振れの可能性を読んでいる。

こうした中で今週のNY金の見通しは、調整に一巡感と前述したが2,350ドル割れの水準は買い拾われるとみて、2,348~2,408ドルを想定している。仮に節目の2,400ドルを超えた際に、戻り売りが出るのか、逆に追随買いのモメンタム復活かは、注目データの下振れの程度によるとみる。

国内金価格については米ドル円水準が155円に膠着あるいはやや円高方向を読み、1万1750~1万2000円と上値での最高値更新を読んでいる。

【図表】金 縦軸:円建て金/グラム(単位:円)
出所:マネックス証券