日本の長期金利は3.5%が警戒ゾーン、4%を大きく超えたら「悪い金利上昇」を疑うべき
日本の長期金利が3%を超えた。新発10年国債利回りが3%台に乗せるのは1996年以来、約30年ぶりである。原油高によるインフレ懸念に加え、財政への警戒感や日銀の追加利上げ観測などが重なった結果だ。
そのあたりの話を先週、BSテレビ東京の「NIKKEI NEWS NEXT」に出演して解説してきた。前回のストラテジーレポートは、実はその番組で語った内容をまとめたものである。
メインキャスターの八木さんから「どこまでの金利上昇に日本株は耐えられるのでしょうか?」という質問をもらって、僕は「3.5%」と答えた。その場ではパッと即答したのだが、改めて考えてみると、3.5%あたりからが警戒ゾーンで、その先、4%程度までは金利上昇の中身次第ではあり得る、というのがより正確だろう。ただし、4%を大きく超えて上昇していくようなら、もはや通常の金利正常化だけでは説明しにくい。日本株にとっても許容できない「悪い金利上昇」を疑うべき局面になる。詳しく説明しよう。
まず、長期金利が上昇したからといって、それだけで日本株に弱気になる必要はない。問題は金利が「なぜ上がっているのか」、そして「どこまで上がるのか」である。僕は、日本株が金利正常化の延長として十分に耐えられるひとつの目安を、10年金利3.5%程度と考えている。
日本の金利上昇の源流をたどると、コロナ禍に行き着く。2020年のコロナショックは需要を消失させ、金利を押し下げるデフレショックだった。しかし、その後に各国が実施した巨額の財政出動と金融緩和が需要を支える一方、供給網の寸断が供給制約を生んだ。経済活動が再開すると世界的なインフレが発生し、そこへウクライナ戦争による資源高が重なった。
日本もその影響を免れなかった。輸入物価の上昇から始まったインフレは次第に国内物価や賃金に波及し、長年続いた「物価も賃金も上がらない」というノルムが変わり始めた。2024年にはマイナス金利政策とYCCが終了し、長年、金融政策によって押さえ込まれていた日本の長期金利も、ようやく名目経済の姿に追いつき始めた。それは前回のレポートでグラフ付きで解説した通りである。
日本のタームプレミアムの水準は高すぎるのか
ここで、ちょっとだけ「理屈」っぽいことを述べる。長期金利は何によって決まるのだろうか、ということだ。
長期金利の基本的な考え方は、将来の短期金利の予想を平均したものに「タームプレミアム」を加えたもの、と整理できる。タームプレミアムとは、長い期間にわたって債券を保有することで負う金利変動やインフレ、国債需給などの不確実性に対して投資家が要求する上乗せ金利である。
さらに長い目で見れば、短期金利の水準には実質的な経済成長力とインフレ率が影響する。日本の潜在成長率を0.5%程度、中長期の期待インフレ率を2%程度とすれば、名目経済の基礎的な成長力は2.5%程度と考えることができる。
ただし、ここで「0.5%+2%+タームプレミアム=適正な10年金利」と単純に計算することはできない。タームプレミアムは市場で直接観察できる数字ではなく、モデルによって推計するしかないうえ、その推計値にもかなり幅があるからだ。
大和証券のモデルでは、足元の日本のタームプレミアムは1.8%程度まで上昇している。一方、ACMモデルを日本に応用した推計では1.2%程度とされるなど、モデルによって水準は異なる。
重要なのは、その絶対水準以上に、これまでの推移である。
大和証券の推計を見ると、日本のタームプレミアムは1990年代には2%を超え、時には3%台まで上昇していた。その後、長期的に低下し、日銀が大規模金融緩和やYCCを実施した時期にはゼロ近辺、あるいはマイナスまで圧縮された。それが金融政策の正常化とともに反転し、現在は1.8%程度まで戻ってきている。
つまり、現在のタームプレミアムは確かに高い。しかし歴史的に見れば、直ちに「異常」と呼べる水準ではない。
むしろ、YCCという強力な金利抑制策によって人為的に圧縮されていたタームプレミアムが、金融政策の正常化と市場機能の回復に伴って、通常の水準へ戻ってきたと見ることができる。
政策金利と10年国債利回りのスプレッドからも同じことが言える。2000年代前半の利上げ局面では両者の差は平均1.3%程度だったが、現在は2%近くまで拡大している。もっとも、さらに過去に遡れば2%を超えるスプレッドは珍しいものではなかった。
平均は2000年-2007年にて試算
したがって、現在の大きな長短金利差だけを見て、「日本国債に異常なリスクプレミアムが乗っている」と判断するのも早計だろう。
現在の3%という10年金利には、デフレ脱却、2%程度のインフレ定着、日銀の金融政策正常化に加えて、YCCの下で極端に圧縮されていたタームプレミアムの正常化も相当程度織り込まれている。
言い換えれば、3%までの長期金利上昇は、まだ「日本経済と金融市場の正常化」というストーリーで説明することができる。
では、日本株はその先、どこまで耐えられるのだろうか。
僕は3.5%程度をひとつの目安と考えている。
ただし、3.5%は何らかの精密な金利モデルから導き出した「理論的な上限」ではない。まして3.5%を1ベーシスポイントでも超えれば株価が下落する、という意味でもない。
3%から3.5%程度までなら、日銀の追加利上げ、名目成長率の上昇、インフレ期待の変化、そしてタームプレミアムの正常化といった要因による金利上昇を、日本株はなお吸収できる可能性が高いと考えるからである。
なぜなら、こうした金利上昇の裏側には、物価上昇、賃金上昇、名目GDPの拡大、企業の売上高や利益の増加が存在するからだ。
金利上昇は株式の割引率を高めるため、理論上はPERの押し下げ要因になる。しかし同時に企業利益が増えているなら、必ずしも株価下落を意味しない。簡単な話、割り算の分子に当たる利益が、分母に当たる割引率の上昇を補って余りあるほど増えれば、答えである「株価」は上がる。
日本企業は長年のデフレから脱し、価格転嫁や賃上げ、資本効率改善を進めている。3-3.5%程度までの金利上昇なら、こうした名目経済の拡大を伴う「良い金利上昇」として、株式市場が吸収できる可能性が高い。
問題は、その先である。
10年金利が4%まで上昇すると仮定してみよう。
重要なのは、4%という数字そのものではない。何が10年金利をそこまで押し上げているのかである。
仮に日本の潜在成長率が高まり、賃金と物価の好循環が一段と強くなって期待インフレ率が上昇し、それを受けて日銀の政策金利の最終到達点も切り上がった結果として10年金利が4%になったのであれば、4%にも経済合理的な説明は可能である。
その場合には、名目GDPや企業利益もそれに応じて増加している可能性が高い。したがって「10年金利4%=日本株下落」と機械的に考える必要はない。
しかし、そうではなく、成長期待やインフレ期待が大きく変わらないまま、すでに正常化してきたタームプレミアムがさらに大きく上昇することで10年金利が4%へ向かうのであれば、話はまったく違ってくる。
市場が日本国債を長期間保有することに対して、さらに大きなリスク補償を要求し始めたということだからだ。
市場が日本政府の債務持続可能性に対する懸念を意識し始めれば、長期金利の上昇はもはや「正常化」と説明できない
そこで問題になるのが、「なぜ市場は、さらに大きなプレミアムを要求するのか」である。
その理由が国債需給の一時的な悪化なら、まだ市場の調整の範囲かもしれない。しかし、その背景に日本政府の債務持続可能性に対する懸念があるのなら、金利上昇の意味はまったく変わってくる。
日本には巨額の政府債務がある。もっとも、国債の平均残存期間は長く、金利上昇が直ちに政府の利払い費全体に反映されるわけではない。低金利時代に発行した国債が大量に残っているからである。そのため、「10年金利4%=直ちに財政危機」という話ではない。
しかし、金利上昇が続けば、低金利で発行した国債が順次償還を迎え、より高い金利で借り換えられていく。政府の平均調達金利は徐々に上昇し、利払い費も膨らむ。
日本の債務残高が極めて大きいだけに、市場が
金利上昇
→ 利払い費増加
→ 財政悪化
→ タームプレミアム上昇
→ さらなる金利上昇
という悪循環を意識し始めれば、長期金利の上昇はもはや「正常化」ではない。
ここに3.5%と4%の大きな違いがある。
3.5%までは、名目経済の正常化やタームプレミアムの正常化という「良い金利上昇」として日本株が吸収できる可能性が高い。
しかし、その先の上昇、特に4%へ向かう動きが財政懸念によるタームプレミアムのさらなる拡大によって起きるのであれば、それは「悪い金利上昇」への転換である。
そうなれば、「金利上昇だから銀行株を買えばよい」といった単純な業種ローテーションの話では済まない。
国債が売られ、金利が上がる。財政への信認が低下すれば円も売られる。株式についても、割引率上昇だけでなく、日本という国全体に要求されるリスクプレミアムが上昇する。
海外投資家から見れば、日本国債、日本円、日本株を同時に減らす合理性が生じる。
いわゆる「トリプル安」、すなわち債券安・円安・株安という「日本売り」である。
日本株を見る上で、今後重要なのは金利上昇の水準ではなく中身
したがって、これから日本株を見る上では、「長期金利が何%になったか」だけを見ても意味がない。重要なのは、その金利上昇の中身である。
現在の3%までは、金融政策正常化とタームプレミアムの正常化で説明できる。3.5%程度までは、名目成長や企業利益の拡大を伴う限り、日本株はなお吸収できると考える。
しかし4%が視野に入ってきたら、見るべきものが変わる。
期待インフレ率が上がっているのか。日銀のターミナルレートが上方修正されているのか。それともタームプレミアムだけが急上昇しているのか。
さらに、円が同時に売られているか、国債入札が不調になっているか、株式市場から海外資金が流出しているかを見る必要がある。
4%という数字が危険なのではない。4%へ向かう理由が危険なのである。
もしタームプレミアムのさらなる上昇を伴って10年金利が4%へ向かい、同時に円も株も売られるのであれば、それはもはや「金利正常化の続き」ではない。
日本の債務持続性に対する市場の信認が揺らぎ始めた、「日本売り」の入り口に立った可能性を疑うべきだろう。
