財務官「介入は特定の水準ではなく値動きに注目」=5年MAかい離率など参考に

2022年の円安阻止介入の開始水準は、145円程度だった。これに対して2024年の介入開始水準は160円程度だった。つまり、介入開始の水準は2022年と2024年ではかなり差があるが(図表1参照)、これを長期移動平均、5年MA(移動平均線)との関係で見ると違った印象になる。

【図表1】米ドル/円の推移(1990年~)
出所:LSEG社データよりマネックス証券が作成

実は、2022年も2024年も、円安阻止介入の開始は、米ドル/円が5年MAを3割前後と大きく上回る水準で実現したものだった(図表2参照)。以上のように見ると、当局の介入判断は実勢レートよりも、移動平均かい離率などを参考に「行き過ぎ」を意識している可能性がありそうだ。為替介入の実質的責任者である財務官は、介入判断について「特定の水準を目標にしているのではなく、値動きに注目している」と説明をしている。その説明とも符合するのではないか。

【図表2】米ドル/円の5年MAかい離率(1990年~)
出所:LSEG社データよりマネックス証券が作成

中長期と短期で別々に「行き過ぎ」意識の可能性

2022年以降の米ドル高・円安に対する通貨当局の介入において、いくつかの「謎」がある。その1つが、2024年4月、それ以前の米ドル高・円安のピークだった151円台を更新しても米ドル売り・円買い介入に動かなかったことだ。当時の米ドル/円は、5年MAを25%程度と大きく上回っていた。この当時、米ドル高・円安がこの間のピークを越えたら当局は米ドル売り・円買い介入に出動するとの見方が多かったが、そうならなかったのはなぜか。

この2024年4月下旬、米ドル/円の過去半年平均、120日MAは148円台前半で推移していた。このため、当時の高値の151円を更新しても、120日MAを2%程度と小幅に上回るに過ぎなかった。

実は、2022年、2024年の円安阻止介入局面は、すべて米ドル/円が120日MAを5%以上と大きく上回る中で行われた(図表3参照)。以上から、円安阻止の為替介入には、5年MAを2割以上と大きく上回るという中長期的な「行き過ぎ」の目安とともに、120日MAを5%以上上回るという短期的な「行き過ぎ」の目安もあった可能性が考えられる。

【図表3】米ドル/円の120日MAかい離率(2022年~)
出所:LSEG社データよりマネックス証券が作成

2024年、「イエレン発言」後の介入中断の謎を解く

2024年4月に日本の通貨当局が160円で米ドル売り・円買い介入を再開すると、米ドル/円は一時150円割れ近くまで大きく下落した。しかしその後、当時の米イエレン財務長官の「為替介入はまれであるべき」との発言が、日本の為替介入へのけん制と受け止められると米ドル高・円安が再燃した。

ただ、その円安は、この年の7月に日本の当局が米ドル売り・円買い介入を再開したことをきっかけに終了、円高へ反転した。このように円安から円高へ反転するきっかけとなった日本の介入再開は、まさに米ドル/円が120日MAを改めて5%以上と大きく上回る中でのものだった。

以上からすると、日本の当局が2024年5月初めから7月にかけて約2ヶ月、米ドル売り・円買い介入を中断したのは、「イエレン発言」を受けて介入ができなくなったからではなく、米ドル/円の120日MAかい離率が一時的に5%以下に縮小し、短期的な米ドル高・円安の「行き過ぎ」懸念が後退したことが大きかったのではないか。そう考えると、7月にかけて米ドル/円が改めて120日MAを5%以上と大きく上回り、短期的な米ドル高・円安の「行き過ぎ」懸念が再燃した局面で、介入を再開したこととも辻褄が合うだろう。

これまでの「ルール」が変わらなければ円安170円超まで介入なし?

円安阻止介入の判断「ルール」の1つは、米ドル/円が5年MAを2割以上と大きく上回ること。その上でさらに120日MAを5%以上上回るというのが2つ目の「ルール」だったと考えられる。

以上を踏まえ、当面の円安阻止介入について考えてみる。これまでのところで最後の円安阻止介入が行われた2024年7月当時の米ドル/円の5年MAは124円台だった。その後、150円前後での推移が続く中、足下の5年MAは139円台まで上昇した。この結果、160円という水準は、2024年7月当時は5年MAを3割近くと大きく上回っていたが、足下では15%程度上回るに過ぎなくなった。

なお、足下では5年MAの139円を2割上回る水準は166円、3割上回る水準は180円という計算になる。これまでの介入判断の「ルール」を参考にした場合、円安阻止介入の再開は170円を超えるような局面になるのではないか。