企業業績のモメンタムを測る指標
今回は、企業が四半期決算で公表する営業利益の伸びを投資尺度として用いる投資戦略を紹介します。
企業業績のモメンタムを測る指標として、シンプルで分かりやすいものの一つが「四半期営業利益の前年比」です。これは、四半期決算で公表される直近3ヶカ月分の営業利益が、前年同期と比べてどの程度伸びているのかを見るものです。
「成長モメンタム」を捉えるうえで有効な指標である「四半期営業利益の前年比」
企業業績の伸びを測る方法としては、本決算ベースの営業利益の前年比を見る方法もあります。ただし、例えば3月期決算企業の場合、足元の時点で確認できる本決算の営業利益は前年3月期までの1年間の実績となります。そのため、直近の業績動向というよりは、やや過去の情報を反映した指標になりやすいという側面があります。
一方、四半期営業利益の前年比は、より直近の業績動向を反映する指標です。企業の足元の業績がどの程度の勢いで伸びているのか、いわば「成長モメンタム」を捉えるうえで有効な指標といえます。
そこで今回は、単に四半期営業利益の前年比を見るだけでなく、その伸び率がさらに加速しているかどうかにも着目します。具体的には、四半期の前年比の伸びが、期初からの累計利益の伸びを上回っているかどうかという「加速度」の概念を取り入れた銘柄選別手法を紹介します。こうした視点を取り入れることで、足元で業績の伸びが強まっている企業を、より効率的に抽出できる可能性があります。
新年度とガイダンスリスク
新年度入りが近づくと、市場では新年度の企業業績がどのように回復・成長していくのかに注目が集まります。3月期決算企業の場合、決算発表は例年4月中旬から本格化します。企業は当期の決算実績を公表すると同時に、来期の業績計画も発表します。
投資家の間では、とりわけ企業の本業の収益力を示す営業利益の見通しが注目されます。しかし、例年この時期には「ガイダンスリスク」と呼ばれる現象が意識されます。ガイダンスリスクとは、企業が公表する業績ガイダンス(業績見通し)が市場の期待より慎重な内容となることで、株価の下落要因となる可能性があることを指します。企業としては強気の見通しを示した後に未達となり、下方修正を行うことが市場でネガティブに評価されやすいため、当初はやや保守的な業績計画を公表する傾向があるといわれています。
さらに足元では、イスラエルとアメリカによるイランへの攻撃を巡る情勢が不透明で、原油価格の先行きも見通しにくい状況となっています。原油価格の動向は企業の生産コストや輸送コストに影響を与えるため、企業側にとってコスト見通しを立てにくい環境です。このような状況も、企業が業績計画をより慎重に公表する要因になり得ます。
もっとも、企業が当初は保守的な業績見通しを示していても、その後は業績予想が上方修正されていくのであれば、株価はポジティブに反応する傾向があります。その意味では、会社予想の数値そのものよりも、実際の企業業績がどの方向に向かっているのか、いわば業績モメンタムを見極めることが重要になります。
四半期営業利益「加速度」という考え方
今回、四半期営業利益の前年比に加えて紹介する指標が「四半期営業利益加速度」です。この四半期営業利益加速度の計算方法を紹介します。
図表1は、2026年3月時点で四半期営業利益加速度の計算に用いる利益の範囲をイメージ図で示したものです。四半期営業利益加速度を計算するためには、その前提として四半期営業利益の前年比を算出する必要があります。
足元が3月中旬であるとすると、3月期決算企業の直近の四半期決算は、1月中旬から2月中旬頃に公表される2025年10月―12月期の決算となります。この直近3ヶ月間の営業利益が、前年同期の営業利益と比較してどの程度伸びているのかを示したものが、四半期営業利益の前年比です。
一方、加速度を計算するためには、2025年4月から12月までの9ヶ月間、すなわち3四半期累計の営業利益の情報も用います。この累計営業利益について前年同期比を計算し、それを直近3カ月間の四半期前年比と比較します。もし直近四半期の前年比が累計の前年比を上回っていれば、利益成長の勢いが足元で強まっている、すなわち利益成長が「加速」していると判断できます。
これは、企業業績の変化をより早い段階で捉えるための考え方です。累計ベースの前年比は期初からの業績の平均的な伸びを反映する指標ですが、直近四半期の前年比は足元の業績動向をより強く反映します。したがって、直近四半期の伸びが累計ベースを上回っている場合、企業業績の成長モメンタムが強まっている可能性が高いと考えられます。
株式市場では、企業業績の水準そのものだけでなく、その変化の方向、すなわち成長モメンタムが株価に影響を与えることが少なくありません。特に、利益成長が加速している企業は、その後の業績上方修正やアナリストの業績予想引き上げにつながるケースも多く、株価が相対的に強い動きを示す傾向があります。そこでこの四半期営業利益の「加速度」に着目し、銘柄選別に活用する方法を検証していきます。
四半期営業利益の前年比と加速度を用いた銘柄選択効果の検証手順
検証期間と対象業界の前提
実際に、四半期営業利益の前年比と加速度を用いた銘柄選択効果の検証は次のように行います。検証期間は2019年から2025年までとし、毎年4月から6月の3ヶ月間を対象としました。対象銘柄の母集団は、一定の市場流動性を考慮してTOPIX500構成銘柄としています。そのうち3月期決算企業を対象としました。
ただし、銀行業、証券・商品先物取引業、保険業、その他金融業といった金融セクターの銘柄は除外しています。金融業では営業利益が一般事業会社のように本業の収益力を示す指標として使いにくく、他業種と同じ基準で比較することが難しいためです。
手順:四半期営業利益の前年比を算出、「絶対リターン」と「超過リターン」で比較
まず、四半期営業利益の前年比を算出します。直近の四半期の営業利益が前年同期と比べてどの程度伸びているのかを計算し、その伸び率が10%以上の増益となっている銘柄を抽出します。さらに、その四半期前年比が、期初から直近四半期までの累計営業利益の前年比を上回っているかどうかを確認します。
直近四半期の利益成長率が累計ベースの成長率を上回っている場合、利益成長が足元で加速していると判断し、これを「四半期利益成長加速度が大きい銘柄」と定義します。
実際のバックテストでは、毎年4月から6月について、前月末時点で公表されている決算情報を用いて上記の条件に該当する銘柄を抽出し、それらの銘柄に等金額投資した場合の翌月のリターンを算出します。例えば4月の投資では、3月末時点の決算情報を基に銘柄を選定し、その4月のリターンを計測します。同様に、5月は4月末時点の情報、6月は5月末時点の情報を用いて銘柄を選定します。
4月から6月までを検証期間としたのは、足元からおおむね3ヶ月程度の期間において、こうした業績モメンタムが株価パフォーマンスにどの程度反映されるのかを確認するためです。
こうして得られた4月から6月までの月次リターンの平均を「絶対リターン」とします。また、超過リターンは、同じ月に母集団全体に等金額投資した場合の平均リターンを差し引いたうえで、同様に4月から6月の平均を取ることで算出します。なお、いずれの数値も月次リターンを12倍して年率換算しています。
四半期営業利益の前年比と加速度を用いた銘柄選別が効果的
それでは、このような方法で銘柄を抽出した場合、実際にどのような投資成果となるのでしょうか。図表2では、こうした銘柄選択を行った場合のリターンを示しています。
注2:母数はTOPIX500構成銘柄(但し、金融業として「銀行業」「証券・商品先物取引業」「保険業」「その他金融業」に該当する銘柄は除く)の3月期決算企業を対象
注3: 四半期営業利益の前年比と加速度が大きい銘柄とは、営業利益の四半期前年比が10%以上の増益であり、かつ期初からの累計営業利益の前年比を上回る銘柄を指す。すなわち、直近四半期の利益成長率が、期初からの累計ベースの成長率よりも高く、利益成長が加速している企業である。
注4: 毎年4月から6月について、前月末時点で公表されている決算情報を基に、注3の条件に該当する銘柄に等金額投資した場合の翌月のリターンを算出し、4月から6月の平均を取ったものを絶対リターンとする。超過リターンは、同じ月にユニバース全体に等金額投資した場合のリターンを差し引いたうえで、4月から6月の平均を取ったものとする。いずれの数値も月次リターンを12倍して年率換算している。
出所:QUICK Workstation Astra Managerを用いて、マネックス証券作成
図表2は毎年の4月から6月までの月次リターンの平均について、年ごとに絶対リターンと超過リターンをグラフ化したもので、2019年と2021年は絶対リターンがマイナスとなっていますが、これは市場全体が厳しかったからです。超過リターンはいずれの年でプラスとなりました。つまり、四半期営業利益の前年比と加速度を用いた銘柄選別が効果的であったことが分かります。
四半期営業利益の前年比と加速度の2つの観点を満たす銘柄:銘柄スクリーニング結果は?JX金属や三井E&Sなど20選
マネックス証券のウェブサイトで提供している「銘柄スカウター」の10年スクリーニング機能を筆者が利用し、四半期営業利益の前年比と加速度の2つの観点を満たす銘柄抽出しました。
対象は、金融業(「銀行業」「証券・商品先物取引業」「保険業」「その他金融業」)を除く企業とし、流動性を考慮して東証プライム市場に上場し、時価総額3,000億円以上の3月期決算企業に限定しています。
また、業績面で一定の健全性を確保するため、実績ROEが8.00%以上とします。
四半期営業利益の前年比と加速度のスクリーニング基準は以下です。
(2)加速度:四半期営業利益の前年比が、期初からの累計営業利益の前年比を上回る
結果は図表3に示しました。(2)の条件については図表3の最も右の列「加速度がプラス」に示されるようにExcel上で判定処理をしています。更に、[四半期]前年同期比(営業利益)(%)が高い順に並べ替えており、上位20社までに絞っています(スクリーニング基準は「四半期営業利益の前年比が10%以上」としていますが、ここでは上位に絞っています。)。投資の参考にしてみてください。
さらに加速度がプラスを意味する「四半期営業利益の前年比が、期初からの累計営業利益の前年比を上回る」の条件を満たすかの判定をExcelで算出して、[四半期]前年同期比(営業利益)(%)が高い順に20位までを出力。
出所:マネックス証券ウェブサイト マネックス銘柄スカウター(2026年3月10日時点)を用いてマネックス証券作成
銘柄スクリーニング方法を解説
ここからは補足的な説明です。読者の皆さんが、ご自身のタイミングや最新データで図表3のスクリーニングを行いたい場合の具体的なスクリーニング入力項目を示しました(図表4)。詳細条件の設定中の[四半期累積]前年同期比(営業利益)は、後の処理で必要な指標なので表示のみで条件入力は不要です。
この結果、図表5のような銘柄一覧が画面に出力されます。ここまででは「(1)前年比:四半期営業利益の前年比が10%以上」の条件のみが満たされているため、これらの出力銘柄を更に、「(2)加速度:四半期営業利益の前年比が、期初からの累計営業利益の前年比を上回る」の条件で絞り込む必要があります。そこで右上の「CSVダウンロード(図表5の〇印)」から銘柄リストを取得して、Excelで処理します。
ここで注意点があります。後に、Excel処理のために行う「csvダウンロード」は200銘柄までの制限があります。そこで対象銘柄数が200銘柄以内であることを確認します。仮に、200銘柄を超えていたら、3,000億円で設定している時価総額の最低基準を少し増やして、対象銘柄を200銘柄までに抑えるようにしてください。
図表6は図表5でダウンロードして取得したcsvファイルをExcelで開いた画面です。まず、「(2)加速度:四半期営業利益の前年比が、期初からの累計営業利益の前年比を上回る」の条件を判別するため、K列に「H列>I列」という数式を入力します。” >”は「より大きい」という意味です。条件をクリア行のK列のセルは“TRUE”と表示されます。
そして、Excelのメニュー「データ」→「フィルター」を使い、TRUEのみに絞り込みます。最後に、「[四半期]前年同期比(営業利益)(%)」が高い順に並べ替えると、図表3の銘柄リストになります。
