2022年11月ChatGPTの公開でAIブームがスタート
米国株の上昇を牽引している最大のテーマはAI(人工知能)です。アメリカ発のAI関連投資が急拡大するなか、「AIはバブルだ」という見方が1年以上前から存在し、最近では1990年代のドットコム時代との比較をもとにした警鐘も増えています。
一見もっともらしい議論も多いのですが、私は必ずしもそうは考えていません。むしろ、現在はAIブームの真っ只中にあり、まだバブルの入り口にも達していない、むしろ「序章の半ば」にあるとみています。
生成AIが投資の中心テーマとなり、米国株を押し上げる直接のきっかけとなったのは、OpenAIによるChatGPTの登場です。2022年11月30日に公開されたChatGPTは、AIを誰もが体験できる存在にした「引き金」でした。この日を境にAIブームが始まり、テクノロジー企業が株価指数の構成を左右するようになります。
ナスダック100はその後、2023年10月20日までに109%上昇し、S&P500も同期間に65%の上昇を記録しました。なかでも注目すべきは、AIを可能にするGPUを提供するエヌビディア[NVDA]の株価です。ChatGPT公開からわずか3年足らずで、979%という驚異的な上昇を見せています。
企業群によるデータセンターへの投資に加え、国家レベルでも莫大なAIインフラ投資が進行
AIブームの波に火をつけたのは、企業群によるデータセンターへの投資が背景にあります。AIを「製造する工場」と言えるのが、アマゾン・ドットコム[AMZN]、マイクロソフト[MSFT]、アルファベット(グーグル)[GOOGL]といった「ハイパースケーラー」によるデータセンターです。データセンターは、私たち個人や企業、さらには政府のあらゆるデジタル活動を支えるインフラであり、生成AIの普及により爆発的に増える計算能力需要を支える存在です。
具体的には、メタ・プラットフォームズ[META]が660億~720億ドルの設備投資を計画し、アルファベット(グーグル)はその額を850億ドルへ引き上げ、アマゾン・ドットコムも約1,000億ドルをAWSデータセンターおよびAIインフラ強化に投じる方針を明らかにしています。
まさに、AI時代のインフラ整備競争は例を挙げればきりがないほどの広がりを見せています。さらに、国家レベルでも莫大なAIインフラ投資が進行しており、各国が戦略的な技術主権の確立を目指しています。これらの投資の中心的目的は、AIモデルのトレーニングや推論処理の高度化、クラウドサービスの拡張にあります。その結果、半導体供給網や電力インフラへの需要が急増し、テクノロジー産業全体の構造に劇的な変化をもたらしつつあります
2024年のデータセンター投資額はすでに4,550億ドルを超えており、マッキンゼーの予測では2030年までに累計7兆ドルの投資が見込まれています。このうち約4兆ドルがコンピューティング・ハードウェアに、残りは不動産や電力インフラに振り向けられるとされています。
1990年代のITバブルと現在のAIブーム、構造的な違いは?
こうした動きを背景に、「AIはドットコムのように崩壊する」という見方が出てきます。ただ、AI投資額は、米国のGDP比で現在まだ1%未満であり、過去の大規模テクノロジーサイクル時の2~5%と比べても小さい水準と言えます。
株式市場の視点で1990年代のITバブルと現在のAIブームを比較してみても、構造的な違いが明確に見えてきます。
インターネットブームは1994年12月19日、ネットスケープ社がインターネットブラウザーを公開したことに始まりました。それ以前もインターネットは存在していましたが、一般の人々が使えるものではなかったのです。
ネットスケープの登場により、誰もがオンラインの世界を体験できるようになり、そこで初めて「ネット時代」が始まりました。
ナスダック100は1994年12月19日に390.42ドルでしたが、5年後の2000年3月27日には(当時の)史上最高値をつけ、バブルの頂点に達しました。その上昇率は1,105%(約12倍)です。ドットコムブームはたった5年の間に株式市場の歴史を塗り替えたのです(図表1)。
では、1994年のネットスケープのリリースを、2022年のChatGPT登場に重ねるとどうなるでしょうか(図表2)。
AIブームはまだChatGPTの発表から3年も経っていません。上昇率を比較すると、インターネット黎明期の最初の1,050日間(約3年)で市場は169%上昇しましたが、AIブームにおけるナスダック100の上昇はまだ106%にとどまっています。つまり、今はまだ「ドットコムで言えば1997年頃」の位置にあり、成長の初期段階にあると言えます。
①ネットスケープのリリース後10年間(1994年12月19日~2004年12月31日)
② ChatGPT リリース後(2022年11月30日~2025年10月20日)
出所:ブルームバーグよりマネックス証券作成
AI関連株が大きな調整局面を迎えるのは驚くことではない
しかし、「バブルではない=株価は下がらない」ということではありません。90年代後半のナスダック100も、バブル頂点までに10~20%の調整を何度も繰り返しながら12倍になったのです。
AI関連株も、過去の相場と同様に途中で大きな調整局面を迎えることは普通のことです。実際、2025年1月には中国のスタートアップ DeepSeek が、低コストかつ高効率の新モデル「DeepSeek R1」を発表したことを受け、米国のAI関連株は一斉に下落しました。この発表は、「少ない計算資源でも高性能なAIが実現可能になる」というメッセージとして市場に受け止められ、AI半導体需要の成長持続性に対する懸念を呼び起こしました。
その後、2025年4月にトランプ政権が新たな関税政策を発表したことをきっかけに、AI関連株は底打ちしました。それまでの間、エヌビディアの株価は最大で約34%の調整を経験しています。
そもそも、エヌビディアのような高成長株は上昇が急である分、調整局面もまた大きくなる傾向があります。図表3のチャートは、同社の株価が高値をつけた後にどの程度の下落率を示してきたかを視覚化したものですが、その変動の大きさと頻度を見ると、この点がよく理解できるはずです。
さらに言えば、S&P500指数も例外ではありません。1953年以降、S&P500は平均して毎年1回は10%前後の調整を経験し、年におよそ3回は5%程度の下落を繰り返しています。それでも、長期的には一貫して史上最高値を更新し続けてきました。言い換えれば、調整は米国株式市場の成長サイクルの一部であり、むしろ健全な循環過程の証拠なのです。
株価の一時的な下落は「バブルが弾けた」のではなく、むしろ買いの機会
したがって、株価が一時的に下がり始めたからといって、「バブルが弾けた」と結論づけるのは早計と言え、むしろ買いの機会と捉えるべきだと考えています。
ドットコム時代の代表的なインターネット銘柄であるシスコシステムズ[CSCO]を見てみると、1994年の1.83ドルから2000年の80ドルまで4,259%上昇しました。PER(株価収益率)は30倍前後で推移していましたが、ブームの最終局面では90倍近くまで急上昇し、バリュエーションの過熱が明らかでした(図表4)。
一方、AIブームの主役であるエヌビディアの現行PER(過去12ヶ月ベース)は53.5倍、来年度予想ベースでは32倍程度です。これはむしろ合理的な水準と言え、明らかにバブルとは言い難い数値です。
さらに、当時と異なるのは企業の財務構造です。現在のAI分野の成長を支えているのは、極めて健全なバランスシートを持つ企業群です。資金の多くは、高収益な本業から得られる営業キャッシュフローであり、過度な借入やレバレッジを伴っていません。また、トランプ米大統領による「壮大な包括的経済法案」(One Big Beautiful Bill)により、企業のR&D(研究開発)や設備投資が即時償却の対象となり、実質的な減税効果をもたらしている点も、AI投資を支える重要な追い風です。
株式市場におけるAIブームは少なくとも今後2年程度は拡大か
つまり、現在のAI設備投資は、ドットコム期のように赤字企業がIPOや公募増資で資金を調達していた構図とはまったく異なり、構造的リスクは大幅に低いと言えます。当時は「社名に『.com』とつけるだけで株価が上がる時代」でしたが、今のAIブームは、収益とキャッシュフローに裏打ちされた現実的な成長なのです。
エヌビディアのジェンセン・ファンCEOは、10月8日のインタビューで、過去6ヶ月でコンピューティング需要の大幅な増加が起きており、私たちは今、新しい産業革命の始まりに立っていると思うと発言しています。AIがもたらす効率性・収益性改善がすでに現実のものとなってきているようです。
目先年末までの株式市場を展望すると、関税不安の後退、FRBの利下げサイクル、堅調な企業収益、そして季節的に強い第4四半期という要因が重なり、市場上昇の下支えになると考えられます。
AIブームに対しては慎重論も根強くありますが、歴史的に見て「慎重論が多いうちはバブルは終わらない」という鉄則も存在します。株式市場でのAIブームは少なくとも今後2年くらいは拡大を続けると予想しています。いずれバブル的な過熱を迎えるかもしれませんが、その時はまだ先のことであり、今後もAIテーマの投資は有効だと考えています。
AI関連注目銘柄:
アドバンスト・マイクロ・デバイシズ[AMD]
アップル[AAPL]
ASMLホールディング[ASML]
ブロードコム[AVGO]
コアウィーブ[CRWV]
イートン[ETN]
GEベルノバ[GEV]
エヌビディア[NVDA]
クアンタ・サービシズ[PWR]
テスラ[TSLA]
バーティブ・ホールディングス[VRT]
