先週(10月6日週)の動き:米中対立再燃懸念でNY金4,000ドル超へ加速、JPX金は1263円(6.83%)高の8週続伸

先週(10月6日週)のニューヨーク先物市場の金価格(NY金)は、前週に続き上値追いの展開で週足は続伸した。週前半に3営業日連続で取引時間中の最高値を更新し、心理的節目の4,000ドルを突破した。10月8日には一時4,081.00ドルと4,100ドルに接近。終値ベースでも前週末10月3日から4営業日連続で最高値を更新し、10月8日の終値4,070.50ドルがこれまでの最高値となった。

米政府機関閉鎖の長期化懸念、FRB利下げ継続、米株大幅調整への警戒

新年度(2026年度)の米予算協議がまとまらず一部政府機関の閉鎖が2週目に入り長期化の様相を帯びている。さらに過去の政府機関閉鎖と異なるのは、トランプ米政権がこの機会を捉え連邦職員の人員整理を進め、歩み寄りを見せない民主党にその責めを負わせる政争の具にしようとしていることがある。妥協の糸口が見えず今後様々な分野に悪影響が必至の様相だ。根本に政治分断があることから、仮につなぎ予算が成立しても不透明要因は継続するとみられ金の買い手掛かりとなっている。

一方で、政府機関閉鎖のため経済データの発表が見送られるなかでも、民間データをもとに雇用は減速しているとの声は多く、FRB(連邦準備制度理事会)による追加利下げの見込みが高いことが、株式市場と同様に金市場でも買い手掛かりとなっている。

その株式市場ではエヌビディア[NVDA]などAI(人工知能)関連の中心銘柄以外に、その周辺のクラウド事業や電力供給などインフラを手掛ける企業が急騰を続けるなど過熱を指摘する声も高まっている。流れに付こうとリスク覚悟で関連銘柄を買う投資家の中に、急落時のヘッジのために金の買いを同時に進める機関投資家も増えているとされる。

米中対立再燃懸念でNY金4000ドル超へ加速

当然ながらNY金の上昇ピッチの速さに対する警戒感も高まっている。10月9日のNY金は5営業日ぶりに反落し、前日比では97.90ドル安の3,972.60ドルで終了した。下げ幅としては5月6日の100.50ドル以来の規模となった。

ところが翌10月10日にトランプ米大統領が中国によるレアアース(希土類)の輸出規制強化に反発し、11月から100%の対中追加関税を課すと表明。10月31日から始まるアジア太平洋経済協力会議(APEC)にあわせ、米中首脳会談を調整していたが、それも「今はそうする理由がなくなった」とした。この意向表明に一気にリスクオフの動きが広がり、株価は大きく下げた一方で、安全資産と目される米国債と金は買われていた。S&P500種株価指数は2.7%下落し4月以来の大幅安となった。ナスダック総合指数も3.5%安で取引を終了した。そのなかでNY金は前日の大幅反落から反発し、通常取引は4000.40ドルで終了した。

結局、NY金の週足は前週末比91.50ドル(2.34%)高の8週連騰となった。レンジは3909.20~4081.00ドルで値幅は171.80ドルと3週連続で100ドル超となるとともに、過去3週の中では最大となった。

JPX金は1263円(6.83%)高の8週続伸

こうした中で国内金価格も最高値更新が続いた。NY金の最高値更新に加え、自民党総裁選にて高市新総裁が誕生、財政拡大が懸念された結果、週前半を中心に米ドル/円相場が大きく円安に傾き、NY金の上昇率を上回ることになった。

大阪取引所の金先物価格(JPX金)は、週前半から4営業日連続で取引時間中および終値ベースでの最高値を更新し、10月9日の2万130円、2万41円がそれぞれ最高値となった。ただし、前述のように10月9日のNY金の大幅下落により、10月10日のJPX金は大きく売られ1万9758円で終了。それでも週足は前週末比1,263円(6.83%)高の8週続伸となった。

レンジは1万8454~2万130円で値幅は1676円と前週(449円)の3倍超に拡大した。これは上昇ピッチの速さを映したものと言える。なお金現物の標準的な店頭小売価格(10%税込み)も10月8日に2万1805円と最高値を更新している。

今週(10月13日週)の動き:ベージュブック、FRB高官の発言、IMF世界経済見通し、隠れた買い手の存在も MY金4,100~4,250ドルJPX金1万9709~2万850円を想定

週明け10月13日から大きく高値更新のNY金

日本が祝日となった10月13日のNY金は、前週末比132.60ドルの大幅続伸の4,133.00ドルで終了した。前述したようにトランプ米大統領の対中強硬発言で、先週末に切り上げた流れを引き継ぐ形でアジア時間から買いが先行し、早々に4050ドルを突破。その後も利益確定の売りを消化しながら時間の経過とともに静かに水準を切り上げ、4,100ドル超の水準を維持し最高値の更新が続いている。

トランプ米大統領は自らのSNS投稿に端を発した先週末の株式市場の急落など市場の反応に驚いたのだろう、週末にかけて発言のトーンを軟化させた。2025年4月を代表例に自らの発言に市場が混乱すると慌てて前言を撤回することを繰り返し、市場では「TACO(Trump Always chickens out=トランプは波乱にいつも尻込みする)」との言葉が生まれたが、今回も同様の道を辿る様相にある。週末には中国との関係について「心配はいらない」とし、米国は中国を「傷つけたくない」と投稿した。10月13日にはベッセント米財務長官が、「トランプ米大統領は中国の習近平国家主席と10月下旬に韓国で会談する方針を変えていない」と述べたが、今回の発言撤回も同財務長官の進言によるものと思われる。

興味深いのは、一連の流れに対する10月13日の株式市場と金市場の反応の違いだ。株式市場はトランプ米大統領の対中スタンスのトーンダウンを好感し、週明け10月13日に大きく反発。S&P500種株価指数は5月以来の大幅高となるなど、主要指数は前週末の下げのほぼ3分の2を戻した。一方のNY金は米株式市場とは異なり、リスク回避モードの資金移動が続き高値を更新する大幅続伸に。本日10月14日のアジア時間も買いが先行し、日本時間午前11時の時点までで4168.40ドルまで買われ、最高値をさらに更新している。

ベージュブック、FRB高官の発言、IMF世界経済見通し

米政府機関の閉鎖が長引く中で今週(10月13日週)も米主要指標の発表は見送りになると見られる。本来であれば10月15日(水)の9月消費者物価指数(CPI)、10月16日(木)同生産者物価指数と小売売上高が注目指標だった。

代わって今週はFRB(米連邦準備制度理事会)がベージュブック(地区連銀経済報告書)を発表する。月末のFOMC(米連邦公開市場委員会)の基礎データとなり、各12地区の雇用やインフレなどが盛り込まれるため注目したい。

さらにFRB高官の発言機会も多く予定されている。本日10月14日(火)はパウエル議長の講演とウォラー理事のパネル登壇が予定されている。10月16日にはウォラー理事、ボウマンFRB副議長の講演も予定されている。

なお10月13日から18日まで国際通貨基金(IMF)・世界銀行の年次総会がワシントンで開かれている。本日10月14日はIMFが世界経済の見通しの発表を予定している。米トランプ政権が保護主義に大きく舵を切る中で、どのような影響が出ており、また出ると予想されているのか注目したい。

隠れた買い手の存在も レンジはMY金4,100~4,250ドルJPX金1万9709~2万850円

足元で新値街道をひた走るNY金のモメンタム相場のレンジ予測は困難を極める。水面下に隠れた中央銀行などの大量買いすら疑いたくなるような展開だ。

モメンタム相場の上げ足を止めるのは、株式市場が大きく調整する局面での現金捻出(キャッシュアウト)のまとまった売りが一つ。さらにFRBの連続利下げ観測が後退するマクロ環境の変化(インフレの再加速)。あるいはウクライナ戦争が停戦に向け交渉が大きく進展することが考えられる。新規資金の流入と先物市場でのファンドの買い建て(ロング)の回転が利いている

足元では、今週はこのまま4,250ドル程度の上値の可能性がありそうだ。レンジは4,100~4,250ドルを想定。もちろん100、200ドル程度の急反落の可能性もある。JPX金はその中で、すでに付けている安値1万9709円から2万850円のレンジを想定する。