投資の失敗のほとんどは「投資の解像度の低さ」にあります。「投資の解像度の低さ」=独りよがりな考え、思い込み、メンタルの弱さ、視野の狭さなどが挙げられます。
「投資の解像度を上げる」とは、投資の本質や、自分の感情・バイアスを理解し、リスク管理を踏まえて投資を継続できるようにすること。
今回は、「日経平均10万円台」は来るのかについて触れ、その上で、不確実性の高い時代の投資戦略について解像度を上げて一緒に考えていきましょう。
歴史的に見て、「株」の実質トータルリターンは堅調に右肩上がり
株式投資の名著として知られるジェレミー・シーゲル著『株式投資 第6版 長期投資で成功するための完全ガイド 』(日経BP)には、1802年から2021年までの200年以上にわたって1ドルを株・長期国債・短期国債・金・米ドルの5つの資産に投資した場合の年次の実質トータルリターン指数の推移が示されています。
上のグラフは変化率が一定だと直線になる対数目盛で示されています。実質リターンの違いは一目瞭然。株の年率リターンは6.9%で、他の資産クラスよりも圧倒的なリターンをあげています。歴史的に見て、お金を大きく増やせた投資先は株であることは事実です。
では、将来はどうなるのでしょうか。筆者はこれからも株価水準はどんどん高くなっていくと予想しています。
理由は2つ。1つは世界経済の発展、もう1つは持続的なインフレです。
人口増大→世界経済拡大→企業業績拡大→株価水準上昇
世界経済が成長するかどうかは、人口動態で考えるのがシンプルです。人口動態は中長期の未来を考える際、最も予測が立てやすく、予測のブレが小さい事象の1つです。2025年の世界人口は80億人を超えており、国連「世界人口推計(2022年)」によると、2058年には100億人を突破すると推計されています。
また、「世界人口推計(2024年)」では、2080年代半ばに人口が103億人に達してピークをつけると推計されています。
日本だけで見れば人口は減っていますが、世界的にはまだまだ人口が増える見通しです。人口が増えれば、消費が増え、その消費を支えるために生産も増え、経済は拡大していきます。「世界人口増大→経済拡大→企業業績拡大→株価上昇」という流れで世界全体は成長していくでしょう。
持続的なインフレ→株価水準の上昇
消費者目線では、インフレは厳しいものがありますが、インフレを転嫁して企業収益が上がれば、株価上昇という流れになるでしょう。今後は人手不足、材料費高騰、半導体の高騰、電気代の高騰などでインフレ傾向が続いていくことが予想されます。
ありとあらゆる原材料の価格が値上がりしています。原油価格の上昇は、電気やガス、紙製品などの値上がりに直結します。ウクライナやロシアは穀物の輸出国だったことから、小麦やとうもろこしなどの穀物も値上がりしました。また、飼料価格が値上がりしたことから、牛肉や鶏肉、卵などの価格も上昇。野菜や洋服なども値上がりしています。そして、原油の値上がりは、輸送費にもダイレクトに関わります。
最近の技術革新で注目されているのはAI(生成AI)でしょう。AIの性能を向上させるには、半導体の性能がとても重要な役割を果たします。AIが今後も普及すれば、電力需要はますます高まるでしょう。そうなると、電気代の高騰も懸念されます。
世界経済拡大&インフレによって、「日経平均10万円台」に到達する可能性
2024年2月22日、日経平均株価は1989年末につけたバブル期の最高値、3万8915円を34年ぶりに更新しました。バブル崩壊後の景気低迷期を指す「失われた10年」がやがて「失われた20年」「失われた30年」になるなか、もう2度と届くことはないかもしれないという天井を破った瞬間でした。その後も市場は堅調で、本稿執筆時点の2025年9月17日の終値は4万4790円となっています。
過去の市場に照らすと、日経平均株価は高値圏です。「これから投資をするのはもう遅いのでは」「高値つかみになってしまうのでは」と心配になる人もいるかもしれません。
日本は人口減少&少子高齢化が進展していくため、日本経済が勢いよく成長していくのは難しいかもしれません。しかし、日本企業の多くは日本国内だけを相手にして商売をしていません。商売の相手は世界です。今後も世界経済が拡大&インフレ傾向となっていくならば、近い将来「日経平均10万円台」に到達することはなんら不思議ではありません。
ところで、現在の日経平均株価4万4790円という数字はバブルなのでしょうか。筆者は実態を伴った株価水準だと考えています。
株価はEPS×PERで表すことができます。日経平均採用銘柄の平均予想EPSは2400円~2550円です。PERの推移を見ると、12~18倍のレンジで推移しています。よって、日経平均株価は2万8800円~4万5900円になると予想でき、現在の4万4790円はレンジ内に収まっています。
バブル期の日経平均株価のPERは60倍、平均EPSは481円でしたので、その時よりは、日本企業の稼ぎ力は大きく拡大しています。現在の株価水準は実態を伴ったものであることがわかります。
不確実性の高い時代の投資戦略「パーマネントポートフォリオ」
インフレ下では、お金の価値は目減りしていくため、自分の資産を守るためには「投資を継続する」ことが大切になってきます。資産を増やすメインは当然「株」です。しかし、その株は時に暴落するのが難点。暴落は投資を継続できなくなる大きな要因です。
将来の市場がどうなるかは誰にも予測ができません。それであれば、株だけでなく、複数の資産を組み合わせておくのがベターです。
保有し続けているだけで、資産を堅実に増やしていくことを目指す資産配分戦略に「パーマネントポートフォリオ」があります。「パーマネント」とは「半永久的な、長持ちする」といった意味です。
パーマネントポートフォリオは、米国の経済評論家、ハリー・ブラウン氏によって開発されました。ブラウン氏は、資産を現金(ドル)、米国株、米国債、金(ゴールド)の4つの資産に25%ずつ均等投資を推奨しています。
それぞれの資産の役割は、次の通りです。
・現金(ドル)…景気後退に備えて保有。株価暴落しても価値は変わらない。
・米国株…歴史的に見ても、株は経済成長に合わせて大きなリターンを上げてきたので資産を増やすなら欠かせない資産。
・米国債…景気が悪く、金利が下がる時に値上がりする傾向。株と反対の値動きをする傾向がある点、保有中に利息というリターンがある点から保有する意味のある資産。
・金(ゴールド)…金自体が価値のある実物資産。インフレや世情が不安定なときに値上がりする傾向。株価下落のヘッジ資産としても有効。
ある資産が値下がりしても、他の資産が値下がりしない、あるいは値上がりするといった具合に補い合いながら、資産配分を維持していけば、全方向に備えながら資産を増やせるという考え方は良いと思います。
より堅実なリターンを目指すなら「日本版パーマネントポートフォリオ」
ただ、「パーマネント」と言うならば、現金比率が25%というのは少なく感じます。心の安定度を考えると、もっと高い方がベターです。
そこで日本人が実践できるように、より安心して堅実にリターンを目指すために、「日本版パーマネントポートフォリオ」を考えてみました。
「120の法則」を活用して、現金とパーマネントポートフォリオ(=リスク資産)の配分比率を決定します。120の法則は、無リスク資産(現預金・個人向け国債)とリスク資産(株・投資信託など)の割合を「自分の年齢」と「120から自分の年齢を引いた数字」に対応させて保有する考え方です。
たとえば、現在40歳で資産が900万円ある方ならば、「現金:パーマネントポートフォリオ」=「40:80」=「300万円:600万円」と振り分けるイメージです。
現金だけでなく「個人向け国債」も含めてOKです。個人向け国債は元本保証があります。円金利上昇の恩恵を受けるなら「変動10年国債」がベター。リスク資産は、わかりやすさを重視し、「世界株」「米国債」「金(円ベース)」の3つの資産に均等配分します。
「世界株」と「米国株」はどちらが良いかの議論がよくありますが、過去の運用実績で考えるならば米国株です。しかし、この先、それが保証されているわけではありません。どちらが負けにくいかを考えれば、世界株の方がベターでしょう。
米国債を残した理由は債券としてもっとも安全で流動性が高く、取引量が世界一。それでいて金利も高いためです。利付債は定期的に利息という形でキャッシュフローが得られるので、株式相場が暴落中の我慢の時期においても心の安定剤として力を発揮します。
不確実性のあるマーケットにおいて、どのような状況でも安定したリターンを目指す戦略「日本版パーマネントポートフォリオ」が参考になれば幸いです。
