雇用指標の弱さが市場心理の重荷となるも上昇トレンドに大きな変化なし
米国株は夏休み明け最初の取引週を終えましたが、週の前半は大きな材料に乏しく、相場は様子見姿勢が続きました。
一方でS&P500は9月4日(木)に6,502.08と年初来21回目の史上最高値を更新しました。しかし翌5日(金)の取引では、予想を下回る雇用統計を受けて売りが先行し、一時的に下落圧力が強まり、市場は一気に神経質な展開となりました。S&P500は最終的には6,481.50で週末を迎え、前週比では+0.33%と上昇を維持しています。
短期的には雇用指標の弱さが市場心理の重荷となったものの、週間ベースではプラスを確保しており、上昇トレンド自体に大きな変化は見られません。
ハイテク株の比重の多いナスダック100については1.01%の上昇となりました。加えて、大型IT10銘柄で構成されるNYSE FANG+指数は2.7%高と、米国10年債利回りが先々週末の4.2284%から4.0742%へと15ベーシスポイント(BP)下落するなか、メガテックへの資金流入が際立ちました。
雇用統計が示した減速と「悪いニュース=良いニュース」の反応
先週(9月1日週)注目された8月の雇用統計では、非農業部門雇用者数が+2.2万人と市場予想レンジの+75,000 ~110,000人を大きく下回りました。さらに、7月分も減少に下方修正され、新型コロナのパンデミック初年以来となる雇用減が確認されました。これにより労働市場の減速感が鮮明となり、FRB(米連邦準備制度理事会)による利下げ期待が急速に高まりました。先週10年債利回りが下落したのはこれが理由です。
また、今回の雇用統計を受けCME FedWatchでは、9月のFOMC(米連邦公開市場委員会)で0.25%の利下げがほぼ織り込まれたほか、0.5%の大幅利下げの可能性も14%程度織り込まれました。市場は年内の利下げ回数見通しをこれまでの2回から3回に引き上げ、政策金利が2026年末には現在の4.5%から3%以下に低下するとの見方も強まりました。
株式市場ではしばしば「悪いニュース=良いニュース」という反応が見られてきました。景気の減速や雇用の悪化といった指標は、企業収益の先行きに不安を与えるため、本来なら株式市場にとってマイナス要因です。ところが金融政策の観点では、景気の弱さはFRBによる利下げの確率を高め、金利低下が株式のバリュエーション拡大につながります。特にテクノロジー株のようなグロース銘柄にとってはプラス材料となります。
ただし今回は、投資家が単純に「悪いニュース=良いニュース」と割り切ることができませんでした。雇用の減速は消費や企業投資の鈍化につながりかねず、景気そのものへの懸念が残ったため、株価の上値は抑えられる格好となりました。
米メガテックに追い風、アルファベット司法判断を好感やブロードコムAI受注、テスラ史上最大報酬案も
先週9月2日(火)にはアルファベット[GOOGL]は独占禁止訴訟の一部制限を受けつつも、主力事業が維持できるとの司法判断を好感し、この日+9%以上と急伸しました。
また4日(木)引け後に決算発表をした半導体銘柄のブロードコム[AVGO]はカスタムAIチップで100億ドルの新規受注を獲得したと発表し、株価は5日(金)には+9.4%急騰。来期以降のAI需要取り込み期待が膨らみました。
テスラ[TSLA]はイーロン・マスクCEOに対し、最大で約1兆ドル(約148兆円)規模となる前例のない報酬パッケージを提示しました。自動運転タクシー事業の拡大や企業価値を1兆ドルから8.5兆ドルへ引き上げるなどの目標達成が条件で、期間は10年間とされています。この報道を受け、テスラ株は金曜日3.6%上昇しました。
今週(9月8日週)はイベント集中で試される市場
今週(9月8日週)はテック関連イベントやインフレ指標、政策リスクが重なる重要な週となります。
米大手証券会社ゴールドマン・サックス[GS]は今週恒例のCommunacopia & Technologyカンファレンスを開催。数多くのテック大手や通信、メディア企業が登壇する予定です。四半期末を数週間後に控える中で、需要動向や価格設定、インフレ見通し、新たな関税の影響について経営陣がどう語るかが注目されます。
特に、トランプ米大統領が「かなり substantial(大幅)」と表現した半導体関税を「まもなく」導入すると発言したことが焦点となります。米国内に製造拠点を移す企業は免除対象となり、アップル[AAPL]がその例として挙げられました。サプライチェーン再編が加速する可能性があり、各社の発言は市場インパクトが大きいと考えられます。
また、トランプ政権は半導体に加えて、中国製ドローンや中大型車両の輸入規制を打ち出す方針です。国家安全保障を理由とした制限強化は関連銘柄にボラティリティをもたらし、市場全体の不透明感を強める要因になる可能性もあります。
アップルは米国時間9月9日(日本時間9月10日)に、新製品を発表する予定です。ここ数年は小幅改良が中心ですが、今回は生成AIを活用した「Apple Intelligence」やSiriの強化が注目されています。サプライズがあれば、株価や業界全体のAI期待を一段と押し上げる可能性があります。イベント後には目標株価の引き上げや引き下げが相次ぐ公算もあります。
今週は米国時間9月10日(水)に8月の生産者物価指数(PPI)、11日(木)に消費者物価指数(CPI)が発表される予定です。雇用統計を受けて利下げ期待が高まるなか、インフレが再び加速していないかが最大の注目点となります。特に、トランプ政権の関税方針を背景に一時的な物価上昇が生じていないかの確認が焦点であり、結果次第で市場は神経質に反応するでしょう。仮にCPI・PPIがそろって予想を上回った場合、9月FOMCでの利下げ幅は0.25%にとどまる可能性があり、株式市場にとっては一時的な逆風となり得ます。
