日本からの要請ではなかった?=円安阻止への米国の協力
これまでの基本的な見方は、次のとおりだ。日米金利差(米ドル優位・円劣位)縮小を尻目に160円に迫った米ドル高・円安は、日本の財政リスクへの懸念が主因であり、この動きはあくまで日本政府が懸念してきたものだろう(図表1、2参照)。
このため、通貨当局が為替市場に介入する前段階で行う「レートチェック」が、1月23日に日米協調の形で実現したのは、「単独での円安阻止に自信のなかった日本の当局が米当局に協力を要請した結果」との理解が基本だった。
ところが、2月25日付の日経新聞は、「(レートチェックについて)複数の米政府高官は、日本側の要請ではなくベッセント財務長官が主導したことを明らかにした」と報じた。160円に迫った米ドル高・円安をけん制した日米協調が、日本ではなくベッセント長官の主導だったというのは本当だろうか。
自らの意図に反する理解は「リーク」で修正する?=ベッセントの流儀
この情報のニュースソースが、「複数の米政府高官」となっている点は注目される。ベッセント長官は、自らの意図に反した理解が広がっている場合、いわゆる「リーク」により軌道修正に動く傾向がありそうだからだ。
例えば2025年10月27日に行われた日米財務相会談の後、片山財務相が「金融政策について話題にならなかった」と説明したのに対し、米財務省は「金融政策について議論した」と、片山氏の説明と反するような内容を公表した。また何度かの植田日銀総裁とベッセント長官のオンライン会談なども、ベッセント長官周辺からその事実が公表された。
以上を踏まえると、今回の「レートチェック」は、日本からの円安阻止への協力要請に米国が対応したということではなく、ベッセント長官が自らの意思で行ったことを伝える目的が強かったと考えられる。では、その意味するところは何だったのか。
高市総理が追加利上げに難色=円安への危機感は薄い?
同じ2月25日付の毎日新聞は、2月16日に行われた植田日銀総裁との会談で、高市総理が追加利上げに難色を示していたことが、「複数の関係者」によって明らかにされたと報じた。
早期の日銀による追加利上げという見方の背景には、円安の阻止・是正という目的もあっただろう。もし高市総理が追加利上げに難色を示したのが事実なら、それでも円安阻止のための為替介入だけは行うのだろうか。さらに、すでに見てきたように、1月の円安けん制の「レートチェック」も、日本ではなく、ベッセント長官が主導した可能性が浮上してきた。
2月23日付の日経新聞では、1月にスイス・ダボスで行われた非公式な片山財務相との会談で、ベッセント長官が「高市首相はこのままではトラスになるか、メイになってしまうのではないか」と述べたことが紹介されていた。これが示すのは、ベッセント長官が高市総理の政策を強く不安視している可能性だ。
高市総理の政策を不安視=米国への悪影響は自ら阻止する?
その上での、今回の「レートチェック」はベッセント長官が主導との報道。以上からすると、高市政権の政策を受けた円安や長期金利上昇が米国に悪影響となることを阻止するべく、ベッセント長官が自らの意思で、円安阻止介入の前段階である「レートチェック」に動いたと伝えることが目的だったのではないか。そうであればそれは、「米政府管理下の円安阻止」という意味になるのではないか。
上述の2月25日付の日経新聞では、「日本からの要請があれば実際に米ドル売り協調介入に動いた可能性もあった」と、「ベッセント氏に近い高官」が明らかにしたと報じていた。ただし、「レートチェック」だけでも、その後、米ドルは円以外の通貨に対しても急落した。ベッセント長官は「断じて米ドル売り介入していない」と火消しを余儀なくされた。それを考えると、米当局による米ドル売り介入は米ドル暴落トリガーの懸念も秘めているようで、簡単ではなさそうだ。
ただし、円安や日本の長期金利上昇が米国に悪影響をもたらしそうな局面では、米国の管理下でその歯止めに動く可能性が、この先もあるのかもしれない。
