先週(8月25日週)の動き:NY金は終値ベース最高値更新、JPX金も最高値接近、FRBの独立性への懸念から金現物取得に向かう逃避資金

先週(8月25日週)のニューヨーク金先物価格(NY金)は、週足で大きく続伸した。前週(8月18日週)のパウエルFRB(米連邦準備理事会)議長による9月利下げに前向きな発言を手掛かりとした米ドル安とともに、(利下げ期待を表す)米2年債利回りが低下する中でNY金は買われた。一方、先週(8月25日週)はトランプ米政権によるFRBに対する政治的圧力の高まりが金市場の警戒心を高めさせた。

金ETFに逃避資金流入

週初にトランプ米大統領がFRBのクック理事の解任を発表し、週後半には同理事がこれを不服として連邦裁判所に提訴するという、FRBの独立性を揺るがす前代未聞の動きが浮上した。FRBの独立性を侵食し、時の政権が金融政策に影響力を強めると、インフレをはじめ経済混乱が生じやすいというのが、歴史的教訓でもある。

米金融経済に対する政治リスクへの対応として、金ETF(上場投信)を買う動きが先週(8月25日週)初めから活発化し、週後半に向けその規模を拡大させたのは、最大銘柄「SPDR(スパイダー)ゴールド・シェア」の残高推移からも確認できた(5営業日連続で残高増加、計20.91トン増)。

その流れが8月29日にはNYコメックスにも波及し、NY時間に入りNY金は上値追いに転じ、午前中にさしたる抵抗もなく節目の3,500ドルを突破した。3,510ドル台まで水準を切り上げたところで上昇は一巡したが、切り上げた水準を維持し前日比41.80ドル高の3516.10ドルで終了した。

NY金、8月8日関税騒動時の最高値を更新

終値ベースで3.500ドル台乗せは初めてのことである。8月8日に米税関・国境取締局が金地金に対する関税賦課の誤情報をウェブサイトに掲載した際に、目先筋のファンドの買いで付けた最高値を更新した。この日のポイントは、金市場に特段の買い手掛かりが浮上したわけではなく、中長期を見越した安全資産の取得という流れの中での高値更新ということである。

週足は前週末比97.60ドル(2.86%)高と2週連続で上昇した。レンジは3,396.10~3,518.50ドルで値幅は122.40ドルとなった。月間ベースでは前月末比167.50ドル(5.0%)高となった。なお主要通貨に対し相対的な米ドルの強さを見るドル指数(DXY)は8月月間で2.2%下落した。FRBを巡るトランプ政権の動きが米ドル安につながっている。

JPX金もNY金の上昇を映し水準切り上げ

一方、NY金の上昇を映し国内金価格も水準を切り上げた。大阪取引所の金先物価格(JPX金)は、週初から5営業日続伸し8月29日の終値は1万6283円で終了した。米ドル/円相場が週末にかけてやや円高気味に推移したものの、おおむね147円台前半を中心に安定していたことから、NY金の上昇を反映させた値動きとなった。

JPX金の週足は前週末261円(1.63%)高で2週連続の上昇となった。レンジは1万6200~1万6324円で値幅は124円となった。レンジの上限1万6324円は7月23日に記録した過去最高値1万6326円に後2円まで迫る水準だった。なお8月29日のNY金の通常取引の3,500ドル超を映すJPX金の夜間取引は一時1万6441円まで買われ、最高値を更新した。

FRB人事が法廷に持ち込まれる異例の事態

8月下旬にかけて、にわかに浮上したのがトランプ米大統領によるリサ・クックFRB理事に対する攻撃だ。

トランプ米大統領は8月25日、住宅ローン申請書に不正な情報を記載したとして、同理事の解任を突如発表した。FRBで初の黒人女性理事であるクック氏について、8月20日に事前に辞任を要求、同氏が従わないことから解任を発表したものだった。腹心の米連邦住宅金融局(FHFA)トップの進言を検証もせず「正当な理由」としたものだった。

第1次政権時に指名したウォラー理事、ボウマン理事に加え、8月に自己都合で退任したクーグラー理事の後任にスティーブン・ミラン大統領経済諮問委員会(CEA)委員長を指名し、上院の承認待ちとなっている。7名の理事の内、3名を自らの息のかかった人物を据えており、さらにクック理事の後任理事が就任となれば、FRB執行部人事にてトランプ派が多数を占めるというわけだ。

トランプ米大統領本人が「我々はまもなく過半数を握る。素晴らしいことだ」と公言してはばからず、党派性など無関係であるべきFRBに色付けをすること自体が、信認を大きく傷つけるものとして懸念が高まっている。

当然と言うべきだろう。クック理事は8月28日、解任通告が違法だとして職務継続の確認を求め、ワシントンの連邦裁判所に提訴した。過去最大のFRB攻撃とされる事態は、FRB人事が法廷に持ち込まれる異例の展開となっている。最高裁までもつれ込むとの見方が多いのが現状となっている。

先週(8月25日週)の金市場では金ETFへの資金流入が目立ったとしたが、FRBの独立性が侵食されることに危機感を持った投資家が、目先でなく中長期的視点でゴールドへの資金移動をしたものとみられる。新規というよりも、追加、配分比率の拡大と考えられる。

今週(9月1日週)の動き:イベント週、雇用関連データとFRB高官発言に注目、最高値更新のモメンタム相場

9月5日発表の8月雇用統計とFRB高官発言に注目

今週(9月1日週)は月初恒例の米雇用関係を中心に、重要指標の発表が続くイベント週となる。8月1日(金)発表の7月分の雇用統計は過去データが大きく下方修正されるなどサプライズとなったこともあり、引き続き注目度は高い。8月の雇用者数の伸びは約7万5000人増と低調で、失業率は4.3%とほぼ4年ぶりの高水準となる見通しとなっている。前回は過去分のデータ修正結果に不満を強めたトランプ大統領が雇用統計を政治目的で利用したとして、証拠を示さずに非難し、責任者である米労働省労働統計局(BLS)の局長を解任するという異例の事態となった。大統領の行動が政府発表のデータの信認性を傷つけたのは否めず、問題は尾を引きそうだ。

FRB高官の発言機会も多く、注目したい。9月16~17日のFOMC(連邦公開市場委員会)を前に、9月6日から政策関連の発言を控えるブラックアウト期間に入ることから、今週(9月1日週)が会合前の最後の機会となる。トランプ政権の影響力が地区連銀にまで及んでいるとの指摘があるのも気がかりだ。セントルイス地区連銀のムサレム総裁やニューヨーク地区連銀のウィリアムズ総裁、シカゴ地区連銀のグールズビー総裁らが発言する機会がある。

また9月3日には、FOMC討議の基礎資料となる地区連銀経済報告(ベージュブック)も公表される。利下げ判断を探る上でも注目となる。

週明け9月1日最高値を更新した内外金価格

なお先週末8月29日のNY金が終値ベースで最高値を更新したことから、今週(9月1日週)は8月8日に付けた取引時間中の最高値3534.20ドルを超えられるか否かが、テクニカル上の注目点となっていた。本稿執筆中の日本時間9月1日午前の段階で、NY金は時間外のアジア時間の取引でこれを突破している。またJPX金も1万6000円台半ばまで上昇し、過去最高値を更新している。本日のNY市場はレイバーデーの祭日で休場となる。

こうした中でいわゆる青天井状態につき、目先のモメンタム相場の価格見通しは困難だ。筆者は年末のNY金の着地点を3,700~3,900ドルのゾーンに置いており、JPX金については1万7200~1万8200円を想定している。