先週(8月18日週)の動き:パウエル議長予想外のハト派発言でNY金は週末に急伸、JPX金は一時1ヶ月ぶり安値から回復

先週(8月18日週)のニューヨーク金先物価格(NY金)は週足ベースで反発し3,400ドル台を回復して終了した。8月21~23日開催の米ワイオミング州ジャクソンホールでの経済シンポジウム「ジャクソンホール会議」(カンザスシティー地区連銀主催)にて、8月22日に予定されていた、パウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長の講演を前に、週を通して様子見モードで相場は進行した。

主要な経済指標の発表は限られたものの、総じて米経済が堅調に推移していることを示し、米ドルや米長期金利(10年債利回り)が強含みに推移する中で、NY金は連日売りが先行する流れが続いた。終値は週初から4日連続で節目の3,400ドル割れが続いた。

7月FOMCの議事要旨公開

8月20日に発表された7月開催のFOMC(米連邦公開市場委員会)の議事要旨では、過半数の参加者が雇用の減速よりインフレ再燃のリスクの方が大きいと指摘していた。この認識は7月の雇用統計発表に際し、過去のデータが大きく下方修正されたことで、すでに変化している可能性があるものの、FOMCメンバーのインフレ警戒の根強さを思わせた。

一方で、何人か(some)の参加者が、関税政策が物価に与える影響を見極める前に利下げを始める考えを示していたことが判明した。市場には過去のデータとの認識が強いものの、(主にトランプ政権が主張する)9月の積極利下げは元より利下げ観測自体がやや後退したこともNY金の値動きを重くした。

9月利下げに消極的な発言目立つ

8月21日から始まったジャクソンホール会議への参加に際し、複数の米地区連銀総裁がメディアのインタビューに応じたが、総じて9月利下げに消極的なものが目立った。

アトランタ地区連銀のボスティック総裁は「FRBが2025年1回金利目標を引き下げることは可能だと、依然として考えている」としつつ、「いかなる予測も不確実性を伴う」とした。

カンザスシティー地区連銀のシュミッド総裁(2025年の投票権を保有)は、「現時点ではインフレを巡るリスクの方が、労働市場が悪化するリスクを上回っている」との見方を示し、「FRBは利下げを急ぐ必要はない」と発言。クリーブランド連銀のハマック総裁は「足元の経済情勢を踏まえるとFRBが利下げに踏み出す時期ではない」という認識を示した。

パウエル議長の発言を受けてNY金は急騰

こうした中で現地時間8月22日の午前10時に始まったパウエルFRB議長の講演は、早い段階で内容が利下げに前向きと受け止められたことで、市場横断的に反応は早く、かつ大きくなった。米ドルも米国債利回りも下落に転じ、株価は急騰した。

講演開始前にやや動意付いていたNY金は、3,380ドル前後から40ドルほど急騰し3,420ドル超に達し、売り買い交錯状態に。そのまま終盤まで水準を維持し、通常取引は3,418.50ドルで終了した。8月8日に付けた終値ベースでの過去最高値(3,491.30ドル)以来2週間ぶりの高値水準となる。週足では前週末比35.90ドル(1.06%)高の反発となった。レンジは3,353.40~3,423.40ドルで値幅は70ドル。前回指摘した想定通りとなった。

JPX金は一時1ヶ月ぶり安値を付けるも1万6000円台回復

一方、国内金価格は8月22日のパウエルFRB議長発言を受けたNY金の反発までは、弱含みに推移した。大阪取引所の金先物価格(JPX金)は、8月20日一時約1ヶ月ぶりの安値となる1万5855円まで付けた。それでも米ドル/円相場が148円台中盤まで進んだ円安にサポートされたこともあり、NY金に比較して下値は浅かった。

8月22日のJPX金の終値は1万6022円となったが、時差の関係でパウエル発言に関連した値動きは含まれていない。それでも円安効果もあり、1万6000円台を回復して終了した。JPX金の週足は前週末比65円(0.4%)高の反発となった。レンジは1万5855~1万6089円で値幅は234円と前週より100円ほど縮小した。

9月利下げに道を開いたパウエル議長

パウエルFRB議長は講演で雇用への「下振れリスクの高まり」に言及し、「政策は引き締め的な領域にある」とした上で、「リスクバランスの変化を踏まえると、政策スタンスの調整が正当化される可能性がある」とした。これは雇用面に考慮する必要が高まったことで、インフレとのリスクのバランスが変化した結果、利下げの必要性も生まれていることを意味する。

議長はさらに「労働市場は均衡しているように見えるものの、これは労働力の供給と需要の双方が著しく減速していることから生じる奇妙な均衡だ」と指摘。トランプ政権による不法移民の強制送還など供給サイドの問題と、関税の影響を懸念する採用の見合わせ(需要の減速)などによる均衡の可能性を指摘した。雇用の下振れリスクの高まりを示しており「これらのリスクは顕在化すれば、急速に進む可能性がある」とした。

この辺りは7月のFOMC(米連邦公開市場委員会)時には語っていなかった視点であり、9月利下げに道を開いたと言える。ただし、「金融政策は既定のコースにはない」として、政策判断は「データのみに基づいて決定を下す」と強調した。

今週(8月25日週)の動き:PCEコア価格指数、FRB高官発言に注目 NY金は3,380~3,450ドル、JPX金は1万5950~1万6250円を想定

PCEコア価格指数に注目

市場横断的に最大の注目点となっていたイベント(パウエルFRB議長講演)を終えて、今週(8月25日週)は主要指標の発表が控える。

注目指標は8月29日(金)に発表される7月の米個人消費支出(PCE)価格指数(PCEデフレーター)である。主要なインフレ指標としてFRBが重視するのが、変動の大きい食品とエネルギーを除いたコア指数(PCEコア)だが、7月は前年同月比2.9%上昇と5ヶ月ぶりの高い伸びが見込まれている。減速を示す雇用の一方で高止まりから加速の様相を示す物価。パウエルFRB議長は難しいかじ取りを迫られている。

FRB高官発言に注目

一方、経済指標以外では8月22日のパウエル発言を受け9月FOMCを見通す上で、FRB高官の講演などでの発言にも注意を怠れない。

中でも8月25日(月)のニューヨーク地区連銀のウィリアムズ総裁、8月28日(木)のウォラーFRB理事の発言は注目度が高い。他にもダラス連銀のローガン総裁、リッチモンド連銀のバーキン総裁の発言機会が予定されている。FRBを巡ってはトランプ大統領によるクックFRB理事に対する辞任要求の動きも要注意となる。

ウクライナを巡る和平交渉に注目

ウクライナとロシアを巡る和平あるいは停戦合意の話し合いは難航が予想される。トランプ米大統領の楽観発言などから月内にも一定の方向性が見えるとされたが、どうなるか。長期化の様相に変化なしとみられるものの、どの程度の進展を見せるか引き続き注意したい。

こうした中で今週(8月25日週)のNY金は3,380~3,450ドル、JPX金は1万5950~1万6250円を想定している。