先週(8月11日週)の動き:関税騒動で前週末に最高値更新のNY金が急反落、9月利下げ見通しの中で下値切り下げ、JPX金は2週間ぶりに1万6000円割れに
先週(8月11日週)のニューヨーク市場の金先物価格(NY金)は大きく反落した。週末8月15日のNY金の終値は3,382.60ドルと節目の3,400ドル割れとなった。
前週末8月8日には、英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)が「米国が金地金に関税を課した」と報じたことを受け、アジア時間の取引で急伸し一時3,534.10ドルを付け、取引時間中の最高値を更新した。同日の終値も3,491.30ドルと連日で終値ベースでの最高値を更新していた。
報道は米関税・国境取締局(CBP)が、ウェブサイトで1キロと100トロイオンスの金地金について「未加工の金地金」ではなく、関税対象の「半製品」に当たるとの見解を示したことを報じたものだった。米政府の関税窓口の部署で関税賦課品目の統一・分類が未整備であることが背景とみられるが、その後、ホワイトハウスにより非課税であることが改めて確認されることになった。
米国に輸入される金地金価格と指標となるロンドンの価格間に格差が生まれることを見越し、NY金には目先筋の買いが急増して一時値が飛んだが、週明け8月11日には3,400ドル前後まで急落し、通常の状態に収束することになった。
強弱相半ばの米経済指標
9月のFOMC(米連邦公開市場委員会)にてFRB(米連邦準備制度理事会)が利下げに転じることは、月初の雇用統計の内容から確実視されている。その中で、週末にかけて利下げ幅を読む上での参考指標とされていた8月12日の米7月消費者物価指数(CPI)、8月14日の同生産者物価指数(PPI)、8月15日の7月米小売売上高の結果は、利下げ観測に対し強弱両方向の結果となった。
それを受け、週末8月15日にかけてNY金は節目の3,400ドルを挟んだレンジ相場を形成しつつも、次第に下値を切り下げる展開となった。8月14日は一時3,375.50ドルまで売られ8月15日の引値は前述のように3,382.60ドルとなった。
NY金の週足は関税騒動で一時的に切り上がった前週末比108.70ドル(3.11%)安の大幅反落となった。レンジは3,375.50~3,466.30ドルで値幅は90.80ドルと大きくなった。
関税のインフレへの影響は未だ限定的
先週発表されたインフレ指標は関税発動後の影響を見る上でも注目度は高かった。8月12日の7月CPIは変動の大きい食品とエネルギーを除くコア指数の伸びは加速した。コア指数は前月比0.3%上昇した。伸びは前月の0.2%から加速し、1月以来の大幅な伸びを記録した。前年比では3.1%上昇で前月の2.9%上昇から加速し、予想の3.0%上昇を上回った。この結果からFRBの利下げを示唆するとの受け止め方が生まれた。
ただし、総合指数は前年比2.7%上昇と、伸びは前月から横ばいで、市場予想の2.8%を下回った。こちらは関税措置によるインフレへの影響が依然限定的との受け止め方から、FRBが利下げに向かうとの根拠とされた。つまり、立ち位置によりどちらの主張も可能ということになる。
PPI、業者間取引では価格上昇
一方、8月14日発表の7月PPIは前月比0.9%上昇と、3年ぶりの大幅上昇となった。前年同月比では3.3%上昇と、市場予想の2.5%を上回った。
関税に関連する輸入コストの上昇を企業が価格に転嫁しつつあることを示唆していると解釈され、FRBによる大幅利下げ観測は後退した。週末にかけてNY金が下値を切り下げたのは、こうした見方から米10年債利回りが2週間ぶりの高水準まで上昇したことによる。
駆け込み需要が押し上げる小売売上高
企業による関税の価格転嫁の側面からも注目された7月の小売売上高は、前月比0.5%増加と市場予想に沿った結果となり2ヶ月連続で増加した。6月分の改定値は前月比0.9%増と、速報値の0.6%増から上方修正された。自動車や日用品などで価格転嫁は遅れており、消費者の駆け込み購入が長引いていることが、売り上げ増加の背景として指摘されている。ただしこれは9月利下げ観測の後退につながるものではなかった。
JPX金は2週間ぶりの安値
こうした環境の中で、国内金価格はNY金の下落を映す形で、週足ベースで反落した。やはり週末にかけて水準を切り下げ、大阪取引所の金先物価格(JPX金)の8月15日の終値は1万5957円と2週間ぶりの安値で終了した。週足は前週末比228円(1.4%)安の反落となった。レンジは1万5890~1万6247円で値幅は357円と3週間ぶりの大きさとなった。関税騒動によるNY金の乱高下を映したものと言える。
今週(8月18日週)の動き:22日パウエル議長講演、20日7月FOMC議事要旨に注目 NY金3,350~3,420ドル、JPX金1万5850~1万6150円を想定
ジャクソンホール会合でのパウエル議長講演、NY金には節目に
今週(8月18日週)は何と言っても8月21~23日にカンザスシティー地区連銀主催で開かれる年次シンポジウム、ジャクソンホール会合が注目点となる。
トランプ政権から激しく非難されているパウエルFRB議長だが、今回の会合には不参加との一部事前情報があり懸念されたが、8月22日に講演が決まっている。2025年の会合のメインテーマは「金融政策の効果と波及の再評価」となっている。パウエル議長は、物価安定と雇用の目標達成に向けてFRBが取る新たな政策方針を発表するとみられる。
2024年はこの会合で利下げの準備が整っていることを示唆し、実際には9月FOMCにて0.5%の大幅利下げを実施した経緯がある。今回はトランプ大統領はじめ政権幹部からの利下げ圧力が高まる中で、どのような発言になるか。その内容如何で米金利、為替相場が影響を受けNY金も上下に振れが大きくなりそうだ。
ただし、市場は90%超の確率で利下げを織り込んだ状況にある。ここに来て雇用の悪化を指摘する向きからは0.5%の大幅利下げを求める声もあり、FRB内部の意見も割れているだけに、パウエル議長が今回の講演をどのようにまとめるか興味深い。
各国・地域中銀総裁による独立性への言及
ジャクソンホール会合には各国・地域の中央銀行総裁や学者、エコノミストが参加する。中央銀行の独立性に対しトランプ米大統領が続けている政治的攻撃を受け、他国・地域の中銀総裁がパウエル氏支持を表明する場にもなる可能性もありそうだ。
実際に7月にポルトガルのシントラで開催された欧州中銀(ECB)の年次フォーラムでは、政権からの圧力に対し「物価と雇用の安定という職務を忠実に遂行するのみ」と発言したパウエル議長に対し、会場は万雷の拍手に包まれたという。
7月FOMC議事要旨
FRB関連では8月20日(水)に7月のFOMCの議事要旨が公開される。FRB理事2名が金利据え置きに反対票を投じ、8月に入り辞任したクーグラー理事が欠席したことで話題となったが、意見の割れがどの程度だったのかも関心事となる。
今週は弱含みに推移か
米国関連の指標では7月住宅着工件数やS&Pグローバル発表の8月PMI速報値の発表に注目だが、金融政策関連のニュースがメインとなる。
こうした中で今週(8月18日週)のNY金は、関税騒動で買い付いたファンドのポジション整理も続くとみられること、また大幅利下げは現時点で可能性が小さいことから、弱含みに推移するとみられる。NY金は3,350~3,420ドル、JPX金は1万5850~1万6150円を想定している。
