世界140ヶ国でビジネスを展開
レスメド[RMD]は、睡眠時無呼吸症候群(SAS)や慢性呼吸器疾患(COPD等)の医療機器を製造販売する医療機器メーカーです。カリフォルニア州サンディエゴに本社を置き、約9,980名の従業員を擁し、世界140ヶ国以上でビジネスを展開しています。
設立は1989年で、シドニー大学の研究者コリン・サリバン教授の弟子だったピーター・ファレル氏が、閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)というまだ認識されていない疾患領域に挑むべく設立されました。最初はわずか9名でスタートしましたが、「CPAP治療(持続的陽圧呼吸療法)」という非侵襲的治療を製品化することで急成長を遂げました。1995年にはナスダック上場を果たし、1999年にはNYSE(ニューヨーク証券取引所)に移り、その後は買収によって事業を強化しています。
製品は、CPAP装置から始まって、現在ではマスク、換気装置、さらにはコネクテッド医療や在宅ケア向けにSaaS事業と「呼吸・睡眠医療分野」に特化する形で強化拡大を遂げています。
粘着性強いストック型の事業基盤
現在、事業は2つの部門、睡眠と呼吸ケア部門(デバイス&マスク)とサービスとしてのソフトウェア(SaaS)セグメントで構成されます。
【1】睡眠と呼吸ケア部門(デバイス&マスク)
中核事業はCPAPなど呼吸支援装置の開発・販売です。代表機器には「AirSense 10」「AirSense 11」、さらには世界最小級のポータブルCPAP「AirMini」などがあり、いずれもクラウド連携型となっています。特に「AirSense 11」は2021年以降主力機種として売り上げを伸ばしています。また、マスクでは「AirFit F10 full face(全顔型)」「AirFit P10(鼻プレス)」「AirTouch N30i(布製フレーム、360度ホース可動型)」など、装着性や患者の快適性を追求したものがラインナップされています。マスクやフィルター、チューブなどの消耗品は収益基盤を支える重要な収益源となっています。
【2】SaaS・ソフトウェア
同社は買収によって事業を強化拡大してきた歴史があります。買収によって在宅医療市場への進出も果たしており、2016年のBrightree(米)、2018年のMatrixCare(米)、HealthcareFirst(米)、2022年のMedi-Fox Dan(独)などの買収を通じ院外ケア・在宅ケア向けのSaaS事業を強化してきました。中心となるのは「AirView」というクラウド管理プラットフォームで、患者の機器設定を遠隔でモニタリングおよび変更することができます。このほか、メールや双方向音声通話による自動患者コーチングを可能にする「U-Sleep」、睡眠コーチングと睡眠データに基づく毎日のスコアを提供する患者エンゲージメント・アプリケーション「myAir」などがあります。
呼吸・睡眠デバイスとマスク・消耗品で売上の約86%を構成します(呼吸・睡眠デバイスで52%、マスク消耗品が35%)。マスクやチューブは定期的に買い替えるため、継続的に需要が発生するストック型の収益基盤となっています。残りの約14%は、SaaS事業が構成します。デバイスと消耗品による安定的な基盤に加え、ソフトウェアでの拡張性という二本柱で収益を構築しています。
成長余地大きい睡眠時無呼吸症候群市場
同社のターゲット市場は巨大です。睡眠時無呼吸患者は世界最大で10億人以上、不眠症患者は8.6億人、COPD患者も4.8億人超と推定されています。ただし診断されているのはわずかな割合に過ぎず、特に睡眠時無呼吸においては未診断患者が80%にも上るとされます。米国については、アメリカ医師会によると、3,000万人以上が睡眠時無呼吸症に悩まされているものの、診断されているのは約600万人に過ぎないと言います。
事業機会は豊富に存在します。さらに、ウェアラブルデバイス(Apple Watch、Galaxy Watchなど)で睡眠時無呼吸症候群の検出が可能になったことで、潜在的な市場は今後更に拡大すると見られます。アメリカ人は睡眠の質向上への意識が高く、3人に1人が睡眠トラッカーを使用していると報告されています。
トップポジションを確固たるものに
この睡眠時無呼吸症候群(SAS)治療機器および人工呼吸器市場では、同社、フィリップス(Philips)とフィッシャー&パイケル・ヘルスケア(F&P)の3社で競合しています。
フィリップスが睡眠時無呼吸(CPAP機器)で最大手とされ、同社にとって最大の競合(2社とも、シェア40%)でしたが、2021年以降のリコール問題(CPAPの泡素材に発がんリスク)の長期化により、同社が大きくシェアを奪う形となりました。現在、CPAP機器市場における世界シェアは、同社が約60~65%(北米では70%以上)、フィリップスが約20~25%、F&Pが約5~10%と推定されます。他にも、DeVilbissやLowenstein Medical、また新興企業が存在しています。
フィリップスが復活してくる可能性もありますが、同社はフィリップス不在の間にシェアを獲得しただけでなく、クラウドベースの患者管理システム「AirView」による在宅医療、睡眠アプリ「myAir」などによる患者エンゲージメントの強化、といったところで競争力を高めることで、地位を確固たるものにしてきました。医療機関や保険会社との関係性も強化しており、なかなか同社のシェアは揺るがないのでは、と思います。
蓄積された睡眠データが強みに
また、同社には、「AirView」や「myAir」を通じて蓄積されてきた睡眠データがあります。現在、「AirView」を介して接続している患者は3,200万人、「myAir」のアクティブユーザーは980万人、収集された睡眠データは220億夜を超えます。こうしたクラウド接続とデータ戦略は、今後、競合との差別化要因となって強みを発揮してくる可能性があります。もはや、単なるCPAP機器メーカーではなく、多くの睡眠データが集まるデジタルヘルスプラットフォームとなってきたと言えます。
同社は毎年売上高の約6~7%を研究開発に投資しています。現在、9,711件の特許を保有またはライセンス供与を受けています(出願中も含む)。なお、今後5年間で米国特許612件、外国特許1,507件が失効します。AirSense 11など改良版や、小型ポータブル化は早期に実を結んでおり、ROIC(投下資本利益率)は19%で業界平均の8%の倍以上の資本効率を誇ります。未診断患者の特定や治療の個別化、診断の効率化を支援するAIへの投資も進めています。一方で、ウェアラブルとのインターフェース整備(Apple Vision Pro用ヘッドストラップ提供やAppleWatchとの提携、SamsungのGalaxy Watchとの連携など)にも取り組んでおり、デジタルヘルスサービスの領域を拡大しています。
強い収益基盤活かした成長投資と株主還元の両立を評価
業績は好調。2019年以降、売上高は年平均12%で成長し、利益改善により、営業利益率は17%で成長を遂げてきました。またEPSは年16%のペースで成長してきました。同社では、今後2030年まで年10%以上の売上成長が続くと見ています。一時、GLP-1薬の登場によって、需要が落ち込むとの見方もありましたが(株価は大幅下落)、過去18ヶ月間、GLP-1阻害薬はRMDの機器の需要に影響を与えなかったことが報告されています。むしろGLP-1を処方された人は、CPAP陽圧呼吸療法を開始する可能性が10.8ポイント高くなることが判明しており、新たなユーザー獲得の道となる可能性が高まったというように見ることができます。
年10%以上での売上成長の見通しには、これまでそうであったように買収戦略が含まれると思われます。その資金については、市場トップポジションで獲得する「製品+消耗品+SaaS」によるキャッシュ創出力と健全な財務基盤によってカバーできます。2025年第3四半期末時点での財務状況は、現金等に9億3200万ドルを保有しており、有利子負債は6億7300万ドルと実質無借金。自己資本比率は73.3%、流動比率は3.34倍と健全な内容でした。
またキャッシュフローも良好で、営業キャッシュフロー、フリーキャッシュフローいずれもプラスで推移しています。これを成長投資と株主還元両方に振り分けており、例えば過去3年間を見ると、研究開発に28%、M&Aに35%、配当に26%、自社株買いに11%と、バランスが取れたキャッシュアロケーションが行われてきました。株主還元は、配当と自社株買いで行われています。この第3四半期には、7,800万ドルを配当で、7,500万ドルを自社株買いで還元しました。配当利回りは0.8%と低いですが、2013年度の初回配当以来、毎年増配されてきた実績は評価されるところです。増配率は直近1年間で10%、3年間では年間8%でした。配当利回りには魅力度は正直感じられませんが、安定かつ強固な収益基盤と成長ポテンシャルは評価されるところです。
睡眠・呼吸障害を抱える23億人以上のTAM(潜在的な市場規模)に加え、ウェアラブル機器やGLP1薬をきっかけとする患者の発見が見込まれる中、AirSense11やAirMiniなどの改良製品、AirViewやmyAirなどクラウド接続されたデジタルプラットフォーム、院外治療のSaaS事業という3本柱がオーガニックベースでのドライバーとなると思います。睡眠時無呼吸症候群の治療は開始すると基本的にやめない粘着性があること、TAMが大きくまた再編余地も大きくトップ企業の同社にとってチャンスが多く存在すること、さらに景気後退の影響や関税リスクもほとんどないことなどが評価されると思います。
