先週(7月7日の週)の動き:関税発動続き貿易戦争への懸念再燃、米ドル建て・円建てともに週末にかけ上昇
先週(7月7日の週)のニューヨーク金先物価格(NY金)は、連日おおむね3,300ドルを上回る水準で推移し、週足は2週続伸した。週初はイスラエルとイスラム組織ハマス間で停戦と人質の解放を巡り週内に合意見通しと伝わった。イスラエルとイラン間の停戦も守られていることもあり、地政学リスクの後退から、週初NY金は売られやすかった。しかし、3,300ドル割れの水準では押し目買い意欲も強く3,290ドル台が週を通しての安値となった。
4月9日に相互関税上乗せ分の発動が3ヶ月延期され、その期限が7月9日に到来するのを前に、トランプ米大統領は7月7日に14ヶ国宛に税率を記した書簡を送付するとともに、日韓2国については25%の関税を課すとし、自身のSNS上にそのまま公開した。発動は8月1日で交渉の余地はあるものの再度の延期はないと断言した。
トランプ政権による関税書簡と内容の発表が週末にかけ続く中で、市場では貿易戦争への警戒感が再燃し、金市場ではリスク回避の買いが復活した。
カナダに35%、メキシコ・EUに30%
トランプ米大統領は7月10日、カナダからの輸入品の一部に8月1日から35%の関税を適用するとする書簡を自身のSNSに公表。NBCニュースのインタビューでは、新たな関税率を提示していない大多数の貿易相手国・地域に対し、15%ないし20%の関税を一律に課すとした。
欧州連合(EU)にも7月11日までに書簡が送られるとみられたが、メキシコと欧州連合(EU)に対し30%の関税を課すと表明し、実際に7月12日に両国に向けた新たな税率を通告する書簡をSNS上で公開した。交渉で条件が改善されなければ8月1日から適用する内容となっている。
関税交渉最大の注目は米中協議
こうした中で目を引いたのは中国政府が7月8日、8月から自国製品への関税を復活させることで貿易摩擦を再燃させないようトランプ政権に警告したとロイターが報じたことである。
米中協議では中国側の強気スタンスが目立っている。中国は先端分野に必要不可欠な素材であるレアアース(希土類)を世界生産シェアの約70%、精錬・分離では約90%握っており、対米協議の切り札にして、有利に交渉を進めようとしているとみられる。6月には米中首脳の電話会談が持たれ、相互訪問の話があったとされている。
7月11日はマレーシアにて米中外相会談が初めて持たれており、米中首脳の直接会談の地ならしとみられた。足元の米国による関税協議の最大の注目点は米中協議がどのように着地するかにある。双方が100%を超える関税を掛け合い、対立が先鋭化した4月にNY金は3,500ドル超の最高値を記録した経緯がある。その後も、3,300ドル超の高値圏で滞留が続くのは両国の協議が定まらないためである。
NY金、3,300ドル台後半に水準切り上げ
こうした中で7月11日のNY金は終値ベースとしては6月23日以来、約3週間ぶりの高値水準となる3,364.00ドルで終了した。週足は前週末比21.10ドル0.63%高で続伸した。レンジは3,290.20~3,381.60ドルで、値幅は91.40ドルと約126ドルあった前週(6月30日週)からは縮小した。
国内金価格、円安を追い風に3週間ぶり高値
一方、先週(7月7日週)の国内金価格は、週末にかけて水準を切り上げた。日米関税交渉の進展が見られない中で25%の追加関税が一方的に発せられたことを受け、円安が進んだことからNY金上昇と円安のダブルの押し上げ効果が働いた。
週末7月11日の大阪取引所の金先物価格(JPX金)の終値は1万5889円で週足は前週末比245円1.56%上昇で続伸した。米ドル/円相場が週初の144円台半ばから147円半ばまで約3円2%円安方向に進んだことが、水準を大きく押し上げた。レンジは1万5479~1万5915円で値幅は436円と前週(410円)並みだった。
なお7月11日の大阪取引所夜間取引では一時1万6053円まで買われ、6月24日以来となる1万6000円台を付けている。
今週(7月14日の週)の動き:7月15日(火)発表の6月米消費者物価指数(CPI)、16日(水)ベージュブック、ウォラー理事の発言に注目 NY金3,340~3,420ドル、JPX金1万5850~1万6250円
ここに来てのトランプ米大統領による矢継ぎ早の書簡の公開や税率の公表は、ここまで高関税をちらつかせても土壇場で引っ込めると市場に見られてきた、いわゆる「TACO(Trump Always Chickens Out=トランプはいつもビビッて後ずさりする)」と揶揄(やゆ)されていることに対する反発との指摘もある。
いずれにしても、強硬度合を強めていることに市場は身構え始めている。最高値を更新していたS&P500種平均やナスダック総合指数もさすがに先週は一服で主要株式指標は軒並み反落した。米ドルは買われたものの、米国債は売られ利回りは2日連続で上昇した。
米企業の四半期決算に注目
7月9日、トランプ米大統領はブラジルに対し50%の相互関税を発表したが、盟友関係にあったボルソナロ前大統領に対する起訴を理由のひとつに挙げており、個人的な感情も政策動機になっていることを示した。なお米国の貿易収支はブラジルに対し黒字となっている。
二転三転する関税政策が米国の主要企業にどのような影響を及ぼしているか見るために、今週から始まる米国企業の四半期決算に注目したい。
7月15日(火)発表:6月米CPI(消費者物価指数)
7月29~30日にはFOMC(連邦公開市場委員会)が控えているが、関税措置が物価に及ぼす影響を見極めるため、FRB(連邦準備制度理事会)は金利を現行水準に据え置くとの見方が大勢となっている。ポイントは輸入関税がどの程度価格転嫁され物価を押し上げているかだが、7月15日(火)に発表される6月の米消費者物価指数(CPI)は最大の注目点指標となる。
パウエルFRB議長は6月の議会公聴会にて、「6月のインフレ率から学び7月の数値も確認する」と述べこの夏には関税の影響がわかるとした。FRBが注視する変動の大きい食品とエネルギーを除いたコアCPIは、市場予想(ダウ・ジョーンズ)では前月比0.3%上昇と、5ヶ月ぶりの大きな伸びになるとみられている。なお5月は0.1%上昇だった。前年同月比でも1月以来の加速になるとみられ、3.0%上昇と予想(同)されている。
地区経済報告「ベージュブック」とFRB理事の発言
7月16日(水)にはFOMCの基礎資料となる地区経済報告「ベージュブック」が公表される。各地区で販売価格への関税転嫁の状況がどうなっているかに注目したい。ウォラー、クーグラー、クック各FRB理事らの発言も予定されているが、特に7月利下げに支持を表明しているウォラー理事の発言に注目したい。
こうした中でNY金はレンジ切り上げを想定し3,340~3,420ドル、JPX金については最高値更新を含む1万5850~1万6250円を想定している。
