先週の振り返り=週後半に145円まで米ドル反発

米中首脳電話会談をきっかけに米ドル高・円安に

先週(6月2日週)の米ドル/円は142~144円中心の一進一退が続いていました。しかし、米中首脳の電話会談をきっかけに、米中貿易交渉の解決期待が高まりから米国株、米金利が上昇し、米ドル/円も一時145円台まで反発しました(図表1参照)。

【図表1】米ドル/円の日足チャート(2025年3月~)
出所:マネックストレーダーFX

米ドル/円が反発したのは、5月以降下限となってきた142円が先週(6月2日週)もサポートされたことの反動といった面もあったと考えられます。一方、米ドル/円の上昇は、5月以降146円を超える動きが一時的にとどまっています。そうした意味では、先週後半の流れを引き継ぎ、146円を大きく超えられるかが、目先の米ドル高・円安余地を考える上での分岐点になるのではないでしょうか。

日米長期金利差より短期金利差が目安に=米ドル/円

米ドル/円は、4月以降、日米10年債利回り差など長期金利差との関係が薄れている印象があります(図表2参照)。これは、トランプ米大統領の関税政策発表をきっかけに起こった「米国売り」や、米財政赤字拡大への懸念などから米長期金利上昇が米ドル買いを伴わない、いわゆる「悪い金利上昇」のケースも増えている影響などがあるのではないでしょうか。

【図表2】米ドル/円と日米10年債利回り差(2025年4月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

米ドル/円が146円を超えて一段高に向かうか、それとも改めてこの間の下限142円割れトライに向かうかを考える上では、日米2年債利回り差といった短期金利差がある程度手掛かりとして有効になるかもしれません(図表3参照)。

【図表3】米ドル/円と日米2年債利回り差(2025年4月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

日銀追加利上げ見通しの背後にちらつく米国の影

日本の2年債利回りは、5月初めにかけて一時0.6%を割れるまで低下しましたが、その後は急ピッチで0.75%程度まで上昇し、現行0.5%の政策金利の0.25%追加利上げを早期に織り込むような動きになっています(図表4参照)。

このような日銀追加利上げ観測の背景には、米国からの要請もあるのではないでしょうか。5日に公表された米財務省の為替報告書には、日本について言及した部分で、「金融政策引き締めは今後も継続されるべき」といった、異例とも言えそうな「追加利上げ推奨」がありました。

【図表4】日本の2年債利回り(2025年1月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

上記のように米政府からの「圧力」もあるなら、日銀の追加利上げ見通しを受けた日本の短期金利の上昇傾向は、4月の「関税ショック」のような世界的な金融市場の混乱でも起こらない限り変わらないのではないでしょうか。そうであれば、日米短期金利差(米ドル優位・円劣位)拡大にも自ずと限度があるでしょうから、それに伴う米ドル高・円安も限られる可能性が高いでしょう。

今週の注目点=米経済のスタグフレーション懸念は再浮上するか

CPI発表でインフレ懸念再燃?=トランプ関税の影響

今週(6月9日週)はCPI(消費者物価指数)など米国のインフレ指標発表が予定されています。5月CPIは前年比での上昇率が、今のところ前月より高まるとの予想となっています。トランプ米大統領の関税政策を受けてインフレ再燃への懸念はかねてからありましたが、それがいよいよ実際の数字で確認されることになるのかが注目されます。

トランプ米大統領の関税政策の影響は、インフレ再燃とともに景気を大きく減速させ、米経済を景気後退と物価上昇の同時進行、スタグフレーションに陥らせかねないとの警戒論がありましたが、それは4月までの米経済指標発表では確認されるに至りませんでした。

ただ先週(6月2日週)から始まった5月の経済指標は予想を大きく下回る結果も相次ぎました。ISM(米供給管理協会)の製造業景気指数は、予想の49.2に対し結果は48.5、そして非製造業景気指数も予想の52に対し結果は49.9と、ともに予想を比較的大きく下回る結果となりました。景気の悪化に加えインフレ再燃で、改めて米経済のスタグフレーション懸念が再浮上する可能性は注目されるところでしょう。

スタグフレーション懸念は、「米ドルの番人」でもある中央銀行の金融政策の対応を困難にさせることから、一般的には米ドル売り材料になります。その意味で新たな米ドル売り材料が追加されるのかといった観点でCPI等の結果が注目されそうです。

今週の予想レンジは142~146.5円

今週(6月9日週)も、米中貿易交渉解決などへの期待から株高に振れる局面などはあるかもしれません。しかし、米景気減速の兆候も出始めてきたことを考えると、米短期金利上昇は自ずと限られます。

一方で日銀の追加利上げ見通しに伴う日本の短期金利上昇傾向が変わらない可能性が高いことから、日米短期金利差拡大に伴う米ドル高・円安が、テクニカルな分岐点である146円を大きく超える可能性は低いのではないでしょうか。以上を踏まえ、今週の米ドル/円は142~146.5円で予想します。