先週(2月24日週)の動き:内外金価格想定を上回る下げ、NY金ファンド手じまい売り加速、国内金価格は海外連動安
NY金は2月の上げ幅を失い「行って来い」に
先週(2月24 日週)のニューヨーク金先物価格(NY金)は想定外の大幅反落となり、週足で9週ぶりに反落した。2月に入って以降、トランプ政権の関税賦課を巡る不確実性の中で安全資産として逃避マネーを集め最高値の更新が続いた金市場だが、利益確定の売りに水準を切り下げることになった。前週(2月17日週)以降、折に触れ利益確定売りに乱高下し、週足の上下幅が100ドルを超えるなど荒れた動きが続いて来たが、旺盛な押し目買いに2,900ドル台半ばを維持してきた。
先週も週明け2月24日に取引時間中(2,974.00ドル)及び終値(2,963.20ドル)で最高値を更新したものの、大型テック株を中心に株式市場が大きな下げに見舞われる中で、翌25日以降週末にかけNY金にも売りが膨らんだ。株式市場のプレイヤーでもあるファンドの中には、ヘッジ目的でNY金の買いポジションを保有するところも増えており、株価急落の折にはNY金には資金捻出の売りが膨らむことがある。
週後半に掛けて、こうした利益の乗ったポジションを整理する売りが膨らんだ。それまで節目の2,900ドル割れを拾っていた買い方が崩れたところで、流れが逆転した。テクニカルの悪化もあり、下げに加速がつくモメンタム相場に転じ、売り方に順の回転が利いたことで下げ幅が想定外に拡大した。
2月27日に2,895.90ドルと約3週間ぶりに終値ベースで2,900ドルを割り込むと、翌28日はNY時間外のアジア時間早朝から売り先行で、2,889.00ドルで取引が始まり、ロンドン時間からNY時間の午前の中頃に至るまで水準を切り下げながら相場は進行した。一時2,844.10ドルまで付け、この日の安値になるとともに週足の安値となった。終盤に買い戻されたものの再び売られ、2,848.50ドルで終了した。終値では5週間ぶりの安値となる。
それに伴いNY金の週足は前週末比104.70ドル、3.55%の大幅安で9週間ぶりに反落した。レンジは2,844.10~2,974.00ドルと上下129.90ドルと大きく振れたが、これは2025年1月27日週の130.90ドル以来のことである。ただし、当時は上昇トレンドの中でのことだった。なお、先週末は月末と重なったが、月足では13.50ドル、0.48%高の続伸となった。2月に付けていた上げ幅をほぼ失い、値動きの表現で使われる「行って来い」ということに。
国内金価格も下げ幅を拡大
一方、国内金価格も先週は下げが拡大した。大阪取引所の金先物価格(JPX金)は、NY金の下げに連動する形で週末にかけて下げ幅を拡大した。2月28日は1万4000円割れから一時1万3845円まで付け1万3905円で終了。約1ヶ月ぶりの安値となった。JPX金の週足は前週末比355円、2.49%の続落となった。レンジは1万3845~1万4346円と上下の振幅は501円と拡大した。
NY金大きめの調整安、金ETFの残高に変化なし
内外金価格が大きく水準を切り下げる中で、興味深いのは前々週に残高を大きく伸ばした金ETF(上場投資信託)の残高が減っていないことである。最大銘柄の「SPDRゴールド・シェア(1326)」の残高は、重量ベースで(2月17日週)1週間で41.32トン増加したが、残高に変化は見られなかった(前週末比重量ベースの残高±0)。
つまり週足で3.55%のNY金の下げは、先物市場での短期筋ファンドの一斉手じまい売りが主導したものといえる。あくまで推定だが重量ベースで40トン超のロング(買い建て)ポジションが手じまいされたとみられる。こうした先物主導の大きめの下げ局面は、2024年以降の価格展開からは、押し目買いを入れるタイミングと判断される。
スタグフレーションへの懸念強める市場
先週は2月28日に注目の1月の米個人消費支出(PCE)およびその価格指数(デフレーター)が発表された。FRB(米連邦準備理事会)がインフレ指標として注目していることで知られる食品とエネルギーを除くコア価格指数(コアデフレーター)は前年同月比2.6%上昇と2024年12月(2.9%)から伸び率は縮小するとともに市場予想に一致した。
一方、1月のPCEは前月比0.2%減った。市場予想は0.1%増だった。2024年12月は0.8%増と、0.7%増から上方修正された。12月は関税導入で輸入品の価格が上昇するとの見方から消費が押し上げられたとみられる。1月の落ち込みは同月の小売売上高の際にも指摘されたが、全米各地での異例の寒波やカルフォルニア州での大規模火災の影響があるとされる。ただし、個人消費自体が落ちているとの見方もある。
28日は1月のモノ(財)の貿易赤字も発表され、前月比25.6%増の1533億ドルとなった。PCE(個人消費支出)の落ち込みと貿易赤字の拡大から、アトランタ地区連銀は、2月28日までに発表されたデータを基に1~3月期の実質GDP成長率予想値(GDPナウ)を前期比年率マイナス1.5%とした。2月19日時点ではプラス2.3%としていたので大幅な下方修正といえる。予想値は今後の主要指標の内容により変化する。
FRBの目標値を超える高インフレが持続する中で、成長が減速あるいは後退する経済状況はスタグフレーションと呼ばれるが、このところ個人を含むマインド系の指標の低下が目立っており、株式市場でも警戒感が高まっている。中央銀行にとって対応の難しいのがスタグフレーションであり、金価格が上昇しやすい経済環境として知られる。
今週(3月3日週)の見通し:ブラックアウト前のFRB高官発言、トランプ大統領の議会発言に注目 NY金2,900ドルの攻防、 JPX金1万4000円を挟んだレンジ相場
今週は月初のイベント週となる。3月3日に2月のISM(サプライマネジメント協会)製造業景況指数、5日(水)に同ISM非製造業景況指数、7日(金)に2月の米雇用統計の発表が控える。主要指標の減速・悪化が目立っているだけにいずれも注目となる。6日(木)の週次の失業保険新規申請件数は、米連邦政府関係の雇用削減が進行していることから当面の間注目データとなる。
なお今月は3月18~19日(水)の日程でFOMC(米連邦公開市場委員会)が開催される。今週はFRB高官が金融政策に関連する公式発言を自粛するブラックアウト期間に入る前の最後の週となる。7日(金)のパウエル議長はじめ、週初から連日主要メンバーの発言機会が予定されている。また、5日にはFOMCでの基礎資料となるベージュブック(地区連銀経済報告書)の公開も予定されている。経済環境も変化を見せる中で、どのような発言及び内容となるか。
一方で、関税を巡るトランプ政権の動向や相手国の反応など政治的要素も関心事となる。この点で4日(火)にトランプ大統領による上下両院合同会議での演説が予定されている。発言内容如何では市場の動きも大きくなりそうだ。
こうした中で、NY金、JPX金ともに先週はテクニカル面を含め想定を超えた下げからの反発の週となりそうだ。NY金は早期の2,900ドル台回復を目指すことになるが、下値サポートラインだった2,900ドルが抵抗ラインに転じており、どう消化するかがポイントに。JPX金については、1万4000円を挟んだレンジ相場となりそうだ。