先週(9月9日週)の動き:ニューヨーク金先物価格(NY金)は年初から34回目の高値更新で2,600ドル台、国内金価格は円高に抑えられる

NY金、観測記事が高値ブースターに

先週のニューヨーク金先物価格(NY金)は週末にかけて上値追いに転じ、過熱感を感じさせない流れの中で、取引時間中および終値ベースともに過去最高値を更新。9月13日の終値は2,610.60ドルと初めて2,600ドルを突破した。週足は前週末比86.10ドル、3.4%高の大幅反発となった。NY金は8月12日に初めて終値で2,500ドル台に乗せ、その後も静かに水準を切り上げ、同20日には一時2,570.40ドルと、取引時間中の高値を更新していた。前日9月12日に、この高値を上回っていた(2,588.50ドル)が13日は時間外のロンドンの時間帯(NY早朝)に一時2,600ドルを突破しさらに更新。取引終盤には一時2,614.60ドルまで買われた。終値で2,500ドル台に乗せてから1ヶ月で大台替えの2,600ドルに到達したことになる。終値ベースでの最高値更新は年始以降34回目となる(FactSet調べ)。世界の金融経済に影響を及ぼす特定の事件や事故あるいは金融危機といったイベントを手掛かりとしない、ゆえに過熱感のないゴールドの最高値更新が続いている。

9月17~18日の日程で開催される米連邦公開市場委員会(FOMC)については、すでにパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長の発言から、利下げが確実視されている。先週の市場は、予定されていた複数の主要なインフレ指標の結果から利下げ幅を読む手掛かりにしようとしていたが、前月比では加速するなど、通常ペース(0.25%)を上回る利下げ幅を読むには難があった。

9月11日に発表された8月の消費者物価指数(CPI)は、変動の大きいエネルギーと食品を除くコア指数の伸びが市場予想に反して加速。住居費の伸び率が高まったことなどが押し上げ要因となった。基調的なインフレ圧力が残る粘着型のインフレの実態を表した。この結果を受けNY金は一時2,520ドル台まで下落。9月12日発表の8月生産者物価指数(PPI)は市場予想の前月比0.1%上昇をわずかに上回る0.2%伸びにやや加速したものの、前月分は横ばいに下方修正された。すでにインフレより雇用に政策の重心を移したFRBではあるものの、大幅利下げを読むにはやはり力不足であり、この時点で次週の0.5%利上げ観測は後退。発表後のNY金は2,550ドルをやや上回る水準で推移した。ただし、PPIの細目でFRBが重視するインフレ指標(PCEコアデフレーター)に反映される項目は総じて抑制された水準だったことが判明すると、上値追いに転じ2,580ドルに接近し前述のように高値を更新していた。

ところがNY時間の午後に入り、価格展開で、ある種のブースター(加速要因)が登場した。13時に米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)電子版に掲載された記事である。同紙の著名フェドウォッチャー(FRB担当)ニック・ティミラオス記者による、「利上げ幅が0.25%あるいは0.5%になるかは際どい判断」というFOMC観測記事で、ほぼ消えかけていた大幅利下げ観測が復活。翌13日の2,600ドル超への上昇につながることになった。

その結果、先週のNY金のレンジは2,514.20~2,614.60ドルと100ドルの拡大レンジとなった。WSJ観測記事を受け週末にかけて大きく水準を切り上げたことになる。想定レンジをFOMC前の模様眺めで2,505~2,545ドルとしていたが、観測記事1本で市場の景色が変わることになった。前々週に当欄のタイトルを「2,600ドルを視野に入れるニューヨーク金先物」としたが、結果的に1週早かったことになる。

国内金価格、消えた円安プレミアム

一方、国内金価格はこの間のドル円相場の円高方向への動きに押し下げられることになった。先週のドル円相場は、9月13日に140.20円と昨年12月28日以来の安値を付けた。次週のFOMCにて前述のように大幅利下げ観測が復活し、日米金利格差縮小を見込むドル売りが出た結果の円急伸となった。国内金価格の13日の終値は1万1667円で前週末比84円、0.72%の上昇となった。NY金の週足が3.4%の上昇となる一方で、日中取引の終値とはいえ、ドル建て価格の上昇分を為替要因(円高)で相殺されたことを意味する。7月初めまで続いた国内価格に乗っていた円安プレミアムは消え、為替要因は円建て価格の押し下げ要因に変わっている。

過去にも市場を動かしたWSJ観測記事

先週(9月9日週)はFRBの政策方針の観測記事で定評のある、米紙ウォールストリートジャーナル(WSJ)のニック・ティミラウス記者の観測記事が市場を動かすことになった。

そもそも同記者が注目されるようになったきっかけは、2022年6月14~15日のFOMC直前の13日に書いた観測記事にある。当時は0.5%の利上げ実施がフルに織り込まれていたが、直前に発表されたニューヨーク地区連銀の消費者調査にて、米消費者の1年先のインフレ期待が前月から0.3%ポイント上昇し6.6%となったと報告された。

その内容を受け同記者は、「予想を上回る75bp(0.75%)の利上げで市場を驚かせることを検討する可能性が高い」と書いたのだった。「市場を驚かせる」という表現は、まさにインフレマインドを沈静化させるためのサプライズを演出するということと私は受け止めた。しかし、いきなり0.75%の利上げ発表では、株価の急落などさらなる混乱は避けられないとみられた。

果たしてFOMCの結果は0.75%、通常の3倍速の利上げとなった。この報道を受け、複数の大手投資銀行はFOMC直前に利上げ見通しを0.75%に切り上げた経緯がある。当時、この報道は、FRBによるリークではないかとの憶測を呼んだのだった。今回、当時のことを思い出した市場関係者は多いと思う。

今週(9月16日週)の見通し:FOMC利上げ幅と同時に金利見通しに注目、日銀植田総裁発言にも注目 想定レンジNY金2,580~2,660ドル、国内金価格1万1650~1万1850円

今週は言うまでもなくFOMCの利下げ幅がどうなるかが目先の手掛かり材料となる。前述のようにWSJ紙の「利下げ幅拡大も視野に入れる」との観測記事により、市場の見方は二分されることになった。仮に0.5%に拡大した場合でも、すでにその可能性を織り込みNY金は買われており、このまま2,650ドルを超えて上昇という動きにはなりにくいとみられる。仮に超えたとしても2,600ドル台前半に押し戻されるとみる。

ポイントになるのは、FOMCメンバー全員が示す経済見通しにある。ドット・プロットと呼ばれる予測値の中心値の分布図だが、とくに金利水準の見通しは今後の利下げサイクルの見通しを示すことから、NY金への影響は大きい。

週明け9月16日の米債市場ではFRBの政策方針を映し出すことで知られる2年債の利回りは、2022年9月以来の低水準となる一時3.536%(FactSet)をつけた。10年債の利回りも一時3.614%まで低下しており、債券市場は年内のFOMCでの連続利下げを織り込んでいる。

金融政策の関連では、今週9月19~20日に日銀の金融政策決定会合も注目点となる。ドル円相場を通し国内金価格への影響が大きくなっていることがある。政策変更はないとみられるが、植田総裁の発言内容が注目される。週明けの市場でドル円相場が一時140円割れに至っており、FOMCを経て落ち着きを見せるか否かがポイントだ。

こうした中で今週のNY金のレンジは2,580~2,660ドルを見込んでいる。利下げ幅の拡大を含めレンジを広く想定した。一方、国内金価格は、1万1650~1万1850円を見込んでいる。