先週の動き:ニューヨーク金先物価格2,000ドル割れも早期に復帰
先週のニューヨーク金先物価格(NY金)は週間ベースで続落となった。多くの米連邦準備制度理事会(FRB)高官による早期の利下げ実施に対する否定的な発言に加え、1月の米消費者物価指数(CPI)が予想比上振れの結果となったためだ。利下げ先送りの見通しが醸成されつつある中、米長期金利の上昇とドル指数の上昇が金ETF(上場投資信託)からの資金流出とともに、NY金先物におけるファンドの買い建て(ロング)の手じまい売りを促し、価格水準を引き下げたのだ。
週末2月16日のNY金の終値は2,024.10ドルと前週末比14.60ドル、0.71%安の続落となった。米CPIが発表された翌14日のNY金は、前日比2.90ドル安の2,004.30ドルで終了した。これは昨年12月13日以来2カ月ぶりの安値となる。この日はNY時間外のロンドンの早朝、またNYの午前中盤には2,000ドル割れまで売り込まれ、安値は1,996.40ドルまで見たが、いずれも短時間に買い戻され2,000ドル超に復帰した。
2,000ドル割れが持続することでテクニカル要因の悪化も考えられたが、週末の引け状況から判断すれば、回避されたと言えるだろう。利下げのタイミングが後ずれはするものの、実施される方向にあり、さらに2024年は下半期にリスク要因が控えているとみられる。このため、下げ局面を拾う投資家が存在し、異例の底堅さが持続しているのだろう。
先週は「やや売りが先行し下値を試す可能性」を想定し、NY金の予想レンジを2,015~2,045ドルとしたが、実際には1,996.40~2,047.30ドルとなった。想定より下振れしたが、すぐに買い戻され2,020ドル前後で終了したことから、想定内と言える。
一方、国内金価格は米CPIの予想比上振れで日米金利差が広がったことを受け、米ドル円相場が1ドル=150円台と円安方向に流れたことで、NY金の下げが円建てでは相殺された。国内金価格の週足は81円安(0.82%安)の9,681円と続落した。想定レンジを9,600~9,800円としたが、実際には9,615~9,770円と想定通りの動きであった。
米CPIは予想比上振れだったが
米国のインフレ指標は、以前から「last 1 mile(最後の1マイル)」という表現で語られてきたものの、順調に低下してきた。ただ、2%の目標に戻るのは容易ではなく、賃金との相関性が強いサービスインフレの鈍化には時間がかかると指摘されていた。
1月のCPIは前年同月比の上昇率が3.1%と2023年12月の3.4%から鈍化したものの、市場予想の2.9%を上回った。家賃が想定以上に伸びたことなどから、高めの数値となった。1月は価格改定が多いことからデータの振れが生じやすいとされる。今回の住居費の伸び率加速は一過性なのか、今後、複数月のデータを基に判断することになる。
この点については、前週、リッチモンド地区連銀のバーキン総裁とボストン地区連銀のコリンズ総裁が、利下げのタイミングを測るためにはインフレ鈍化が継続するだけでなく、住宅や他のサービス分野に広がることが望ましい、との考えを示唆していた。バーキン総裁は2月8日のブルームバーグTVのインタビューで、「年末年始近辺の数字には大幅な季節調整が加わるため、私は常に慎重になる」とし、いかなる単月のデータも深読みしない、との考えを示していた。なお、同総裁は今年の連邦公開市場委員会(FOMC)で投票権を持っている。
個人消費の一服感示すデータ
先週発表の米経済指標でもう一つ目を引いたのが、2月15日発表の1月の小売売上高だった。結果は前月比0.8%減と、2023年3月以来10カ月ぶりの大幅な落ち込みとなった。市場予想は0.1%減だった。単月のデータだけで決めつけることはできないが、賃金上昇が続く中で値上げに耐えてきた個人消費が、そろそろ転機を迎えているのかもしれない。
判断の参考になるのは消費関連企業の決算発表だ。2月8日に発表された飲料大手ペプシコ[PEP]の2023年10-12月期決算は、3年半ぶりの減収だった。北米市場での値上げによる客離れが理由とされた。2月16日にはスポーツ用品のナイキ[NKE]の株価の下げが目立った。2023年12月に発表した9-11月期決算で、主力の北米部門の売上減が響き、2024年5月期通期の業績見通しを下方修正していた。改めて売られたのは、今回の小売売上高の結果を見てのものと思われる。
消費関連企業の業績や株価に注目するのは、米長期金利やドルの先行き、ひいてはゴールドの見通しに関係するからだ。
今週の見通し:NY金2,020~2,050ドル、国内は9,620~9,820円
今週は2月21日に1月の米連邦公開市場委員会(FOMC)の議事要旨が発表される。インフレの今後の見通しに加え、利下げに関してどのような話し合いがされたのかが注目される。2月22日には2月PMI(購買担当者景気指数)速報値が発表される。足元の状況を知る最も早いデータのひとつでもあり、注目したい。さらに今週もFRB高官数名の発言が予定されている。なかでも22日のミネアポリス地区連銀のカシュカリ総裁の発言に注目している。前々週に、現在の米経済にとっての適正金利水準を意味する中立金利についての発言内容が目を引いた経緯がある。
今週はNY金が2,020~2,050ドル、国内金価格は9,620~9,820円と比較的狭いレンジを想定している。