先週の動き:FRB高官による早期利下げ牽制発言と堅調な経済指標、一方で中東紛争拡大懸念の綱引き相場

先週のニューヨーク金先物価格(NY金)は、週を通して続いた米連邦準備制度理事会(FRB)高官らの早期利下げ牽制発言に加え、発表された12月小売売上高など米経済指標も堅調なものが目立ったことから、売りが先行した。

その一方で、先週はイランとパキスタンの関係が急速に悪化するなど、中東地域の紛争拡大への警戒感から地政学リスクへの対応といった安全資産としての買いが下支え要因となった。週初の2,050ドル超から週中には一旦2,000ドル方向に下値を試し、安値は2,004.60ドルまで見たものの、2,000ドル割れは回避した。

週末にかけては米長期金利が4%以上で高止まりしたにも関わらず、下げ幅を縮小して取引を終了し、1月19日の終値は2029.30ドルで週足は22.30ドル、1.09%安となった。

先週のコラムで注目イベントとして1月16日に予定されていたウォラーFRB理事の講演会を挙げた。講演会では、「FRBが2%とするインフレ目標の達成は「射程圏内」にある」との見方を示す一方で、「インフレ率の低下が持続すると明確になるまで利下げを急ぐべきでない」と話した。市場はこの発言内容を「早期利下げには慎重スタンス」との受け止め方をすることになった。

この日のNY金は21.40ドル安。また、翌1月17日に発表された12月小売売上高が前月比で0.6%増(7098億9000万ドル=約103兆円)と2ヶ月連続で増加し、市場予想(0.4%増)も上回ったことから、23.70ドル下げ、2営業日で45.10ドル安を記録することになった。週末にかけては中東情勢を手掛かりとする地政学リスクに対応した買いに下げ幅を縮小した。

一方で、想定以上の底堅さを見せる米国経済は株価を押し上げ、週末1月19日にダウ30種平均株価は37,863.80ドルと過去最高値を更新して終了。多くの機関投資家が運用指標としているS&P500種平均株価も4,839.81と2022年1月3日の高値を上回り過去最高値を更新して終了。市場環境はリスクオンということだが、同時にリスク回避の買いが金に入りバランスを取るような形になっている。

先週のコラムではNY金の想定レンジを2,040~2,080ドルと強めに見積もっていたが、これは小売売上高の減少を想定したものだった。米個人消費の強さが示され長期金利が押し上げられ、金の上値を抑えた。レンジは2,007.70~2,060.40ドルと下値が深くなった。ただし、2,000ドル割れは回避され、テクニカル面での売り加速には至らなかった。

こうした米経済指標の強さを映した米長期金利の上昇は、そのまま先週の米ドル円相場に反映され、週末にかけて148円台後半まで円は売られた。2023年11月末以来2ヶ月ぶりの米ドル高/円安水準を付けたことから、円建て金は為替要因で押し上げられることになった。国内金価格の週足は164円(1.72%)高の9,666円で終了。レンジは9,500~9,666円となったが、先週のコラムで想定レンジを9,450~9,700円と一定の円安を読んでいたことから、上下約50円幅の誤差に収まった。

FRBに時間的余裕:必要に迫られる利下げでなく、できるから利下げするFRB

1月16日、米ブルッキングス研究所のオンラインイベントでのウォラーFRB理事の講演は、注目度が高かった。同理事は2023年11月28日、「インフレ率が低下方向に向かっていると確信が持てれば、景気回復などとは無関係に、インフレ率が低下したという理由のみで政策金利を引き下げ始めることができる」と発言をしていた。

元々タカ派で知られていた同理事だけに、利下げ転換を見込むこの発言の影響力は大きく、その後米長期金利は大幅に低下した(10年債4.3%台から一時3.7%台)。結局、NY金も翌週の2023年12月4日に一時2,152.30ドルと史上最高値を塗り替えた経緯がある。

1月16日の講演では、利下げに関し「過去の利下げ局面で見られたように、早期にまたは急速に進める理由がない」と語り、「政策の軌道修正は慎重に判断する必要がある」とした。

この日の発言内容は、結果的に3月の利下げを前のめりに織り込んだ市場に対するけん制発言と受け止められたが、発言のトーンは前回2023年11月時点でのものと大きな差はなかった印象だった。

そもそも、2023年11月においてはタカ派理事による利下げ転換見通しという点にサプライズ感が先行し、市場の反応が大きくなった。基調的には、その後のパウエル議長などFRB中枢部の発言に共通するインフレが確実に鈍化傾向を示す中で、この流れが続くなら(ここまでの歴史的利上げもあり)実質金利が上がり、むしろ引き締め策が利きすぎてしまう可能性がある。したがって、2024年は利下げ余地が生まれているということなのだろう。

ポイントは、利下げする必要に迫られて利下げするのではなく、利下げできるからするという点である。政策転換に余裕がある、つまりそれほど現時点で米国経済の足元は堅いということを表している。

思ったほどに減速しない米経済、再評価迫られる利下げ見通し

1月17日に発表された米12月小売売上高は2ヶ月連続で増加し、市場予想(0.4%増)を上回った。個人消費が伸びていることが確認されたことは、基調的なインフレ圧力が長期化する可能性を示唆するとの指摘がある。したがって、最初の利下げの時期を年央まで後ずれ(6月あるいは7月)させると同時に、利下げペースは予想より緩慢になる(利下げ幅見通しの縮小)との見方が出ることになった。

今週は1月25日に10~12月期実質GDP速報値の発表が控える。市場予想は前期比年率1.7%の伸びと前期(確報値)4.9%からの減速を読むが、アトランタ連銀が示すGDP予測値(GDPナウ)では1月19日時点で2.4%の伸びが予想されている。思ったほどに減速しない米経済に対する評価の揺れが、利下げ見通しにどう影響するかが、今後のポイントになりそうだ。

今週の見通し:1月25日の第4四半期GDP速報値、1月26日のコアPECデフレーターに注目。NY金2,015~2,060ドル、国内金価格9,550~9,750円を想定

今週はこの1月25日の第4四半期GDP速報値に加え、1月26日(金)に発表される個人消費支出価格指数(PECデフレーター)、特に(エネルギーと食品を除いた)コアPECデフレーターに注目したい。

2023年11月は前年同月比3.2%上昇と伸びは2023年10月の3.4%から縮小し、2021年4月以降で最小となった。2023年12月分について、市場予想(ダウ・ジョーンズ調べ)は3.0%とさらに減速となっている。11月までを6ヶ月間の年率ベースで見ると上昇率が1.9%とFRBが目標とする2%を若干ながら下回っており、今回も減速傾向が認められれば、再び市場の早期利下げ見通しが息を吹き返すことになりそうだ。

国内では1月22日から1月23日と日銀金融政策決定会合が開かれる。政策変更なしが織り込み済みだが、インフレ見通しに修正が加えられるとの見方もある。すでに米ドル/円相場は先週時点でFRBの早期利下げ期待の後退により円安方向に進んでおり、これ以上の動きはないと見ている。

このような理由から、NY金は2,015~2,060ドル、国内金価格は9,550~9,750円を想定している。

【図表】ゴールド 縦軸:円建て金/グラム(単位:円)
出所:マネックス証券