先週の動き:中東情勢は一服。FOMC、米雇用統計を受け米長期金利と米ドル安にサポートされたニューヨーク金先物価格、国内金価格はさらに最高値更新

先週のニューヨーク金先物価格(NY金)は、週間ベースでは前週とほぼ変わらずの0.70ドル高の1,999.20ドルで終了、4週続伸となった。高値は2,017.70ドルまでで、前週つけた約5ヶ月半ぶりの高値2,019.70ドルを超えることはなかった。

足元の懸案事項である中東情勢については、イスラエルのネタニヤフ首相がイスラム組織ハマスとの停戦はないと言明し、ハマスを掃討する計画を推進すると表明。徹底的に掃討する考えを強調し、いかなる戦争にも意図せぬ民間人の犠牲はあり得るとまで発言。国内世論を意識した発言と取られるものの、実際にハマスが実効支配するガザへのイスラエル軍の侵攻は進められ、空爆の標的などで人道上問題視される事態も発生している。

先週の金市場は、この地政学要因に一定の反応を示すものの、ガザ以外の地域への戦域の目立った拡大が見られないことから、材料性は織り込みが進んだ。その一方で、10月31日~11月1日の日程で開催された米連邦公開市場委員会(FOMC)や11月3日発表の10月米雇用統計など、米金融政策の今後の方向性や金融環境の行方を探る手掛かり材料に反応する値動きが続くことになった。

大方の予想通り2会合連続で金利水準を据え置いたFOMCは今回、声明文に「(家計・企業の)金融環境の引き締まり」という文言を新たに加え、9月以降に見られた米長期金利の急上昇で、追加利上げの必要性が低下しているとのシグナルを発した。

パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長は記者会見にて12月の次回FOMC会合で利上げを決定する可能性を否定しなかった。ただし一方で、「リスクが均衡した状態に近づきつつある」との見方を示し、引き締め局面が終了した可能性も認めた。パウエルFRB議長の発言に対する市場の受け止め方は、次回12月の会合でも金利水準は据え置きに傾くことになった。

さらに10月米雇用統計も就業者数の伸びが市場予想を下回り、失業率は3.9%と市場予想を上回った。労働市場の過熱感が和らぎ、インフレ圧力が緩むとの見方が広がり、米長期金利の指標となる10年債利回りは11月3日に一時4.481%と9月25日以来の水準に低下。終値でも4.519%と3営業日前の4.943%から大幅に水準を切り下げた。FRBによる一連の利上げサイクルの終了を織り込む形になった。

結局、先週のNY金のレンジは1,978.20~2,017.70ドルとなった。先週のコラムでは想定レンジを1,980~2,040ドルとしていたが、上値では利益確定の売りが控え、2,020ドル近辺での売りの厚さを思わせた。10月下旬にかけてファンドの買い建て(ロング)が大きく膨らんでおり、利益確定の売りが控えている。

その一方、円建て国内金価格の週足はプラスながら、前週比ほぼ変わらずで終了した。11月2日の日中取引終値は9,595円で前週比1円高となった。

先週は注目イベントとして、日銀の政策決定会合が10月30~31日の日程で開かれた。政策変更なしを読んだものの、結果は長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)を再修正した。長期金利の上限は1%をめどとした上で、1%を一定程度超えることを容認した。一般的には円高要因と捉えられるが、市場の想定に比べて慎重な変更にとどまったと受け止められ、むしろ円売りの手掛かりとされた。

米ドル/円は一時151.74円と2022年10月以来の安値を付けた。その後は週末にかけて、米長期金利の低下を映す形で、149円台前半で週末の取引を終了した。この円安の進行を受け、国内金価格は11月1日に一時9,743円と過去最高値を更新。終値ベースでも9,632円と高値を更新した。

先週のレンジは9,517~9,743円となったが、先週のコラムで解説した最高値更新を見込む9,480~9,720円に置いた想定レンジに、ほぼ沿った動きとなった。

米景気の転機を示唆したFOMC直後の10月雇用統計

11月3日に発表された10月の米雇用統計は米労働市場の過熱感の和らぎを示し、インフレ圧力が緩む予見を持たせることになった。非農業部門の雇用者数(NFP)は前月比15万人増と予想以上に伸びが鈍化した。下方修正された9月(29万7,000人)から大きく減速し、市場予想(17万人増、ダウ・ジョーンズ調べ)も下回った。失業率も予想外に3.9%へと上昇、約2年ぶりの高水準となった。

旺盛な米労働需要も、ここにきて冷え込みつつある兆候を示した。また、賃金の伸びも縮小した。平均時給は前年比4.1%増と、伸びは9月の4.3%から縮小し、2021年6月以来最小となった。前月比では0.2%増と、9月の0.3%から鈍化した。

市場では、賃金上昇圧力を高めないペースでの雇用の伸びが続くとの期待が強まった。11月1日のFOMCにて金利水準が据え置かれた後でもあり、債券市場は買いが先行、利回りは急激に低下し、金利を生まないゴールドのサポート要因となった。

指標となる10年債利回りは前述のように9月25日以来の水準に低下。11月3日の終値ベースの4.519%は、週間の下げ幅(32.2bp、0.322%)としては約8ヶ月ぶりの大きさとなった。長期金利の低下はそのまま為替相場に反映され、米ドルは主要通貨に対し売られ、ドル指数(DXY)は急落した。

一時104.941と9月20日以来6週間ぶりの安値に沈み、11月1日の下げ(1.103ポイント安)としては7月以来の大きさとなった。直前のFOMCにて12月会合での金利据え置きの織り込みが広がったことも、市場の反応を大きくしたとみられる。

中央銀行による金購入、年初来9月までで過去最高の約800トンに

日本時間10月31日15時に国際的な金の調査機関ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)が7~9月期需給統計を発表。その内容で目に付いたのは中央銀行の高水準の買いが続いていることだった。

7~9月期は337.1トンとなり、前期までの累計(462.5トン)と合わせ、年初来9月までの累計は799.1トンに上った。前年同期(7~9月)が異例の458.8トンにも上ったことから、前年同期比では見劣りする(27%減)ものの、9月までで約800トンは記録づくめで、前年同期(1~9月)比14%増と驚きの数字と言える。

WGCも2022年通年のデータを公表した2023年2月には、2022年の(下方修正された)年間1,082トンは異例の数字で、2023年も買いは継続されるものの数量は低下が見込まれるとしていた。大きく低下という印象だったが、9月までの結果は前年を上回る可能性すら否めないレベルと言える。

米長期金利とドル指数の上昇という逆風の中で、9月下旬まで1,900ドル台を維持していたNY金だが、その背景として現物市場での中央銀行による買い継続が指摘されていた。それがデータとして裏付けられることになった。

今週の見通し:パウエルFRB議長の講演や高官発言に注目。NY金は1,978.00~2,018.00ドル、国内金価格は9,470~9,680円を想定

人的被害の拡大が伝えられる中東情勢だが、市場ではここまで一連の動きは織り込みつつある。今週は米国関連で主要統計の発表も予定されておらず、やや手掛かり難の週となる。
NY金は2,000ドルを挟んだレンジ取引となりそうだ。

そのような中、今週は11月7日以降、米地区連銀総裁の発言が多く予定されており、その内容が注目される。特に11月9日にはパウエルFRB議長の講演が予定されている。先週の雇用統計の内容を受け、変化が見られるのか否か。また、11月8日には米10年国債の入札が予定されている。先週は長期金利が急激に低下しただけに、需要を確認する上で入札は注目されそうだ。

概ね今週は静かな週と想定するが、波乱があるとすれば中東など地政学リスクによるものとなりそうだ。今週のレンジはNY金が1,978.00~2,018.00ドル、国内金価格については9,470~9,680円を想定している。

【図表】ゴールド 縦軸:円建てゴールド/グラム(単位:円)
出所:マネックス証券