悪材料をこなしS&P500は史上最高値を更新、静かな「サマーラリー」
先週(8月10日週)の米国株マーケットを一言で表現するなら、材料が相次いだにもかかわらず、値動きは驚くほど穏やかで、株価は着実に上昇したサマーラリーの1週間だったと言えます。
S&P500は週間で0.36%上昇し、ナスダック100は1.09%上昇しました。株価指数は最高値圏で推移しながらも、投資家が一斉にリスクを取りに行くような熱狂は見られませんでした。むしろ、薄い夏場の商いのなかで、インフレ指標の改善、企業業績の底堅さ、AI関連株への期待、そして投資家ポジションの改善が少しずつ積み重なり、相場を押し上げたという印象が強いです。
S&P500は8月13日(木)に年初来27回目となる最高値更新を記録し、週間では3週連続の上昇となりました。ナスダックも3週連続で上昇し、テクノロジー株の地合いは引き続き良好でした。
CPI(消費者物価指数)発表前には高値警戒感から買いが鈍り、原油や米国債利回りの上昇が重しになる場面もありましたが、売りの連鎖が起きることはありませんでした。好材料に対しては株価が反応し、悪材料に対しては反応が小さかったと言えます。この下がりにくさこそが先週(8月10日週)の相場の強さと言えるでしょう。
「景気失速」懸念を払拭したインフレ鈍化と遠のく利上げリスク
今回の上昇で最も重要だったのは、米国経済が「景気失速」ではなく「インフレ鈍化」の方向に進んでいるとの安心感が広がったことです。
7月の消費者物価指数(前月比)は0.1%上昇、前年比では3.4%と6月の3.5%から鈍化しました。食品とエネルギーを除くコアCPI前月比は0.2%、前年比では2.5%と、前月の2.6%から低下。さらにPPI(生産者物価指数)は前月比で横ばいとなり、市場予想の0.2%上昇を下回りました。前年比でも4.7%と6月の5.5%から大きく減速。エネルギー価格が前月比3.1%下落したこともインフレ圧力の緩和につながりました。
この一連の数字は、FRB(米連邦準備制度理事会)が9月に再び利上げに動く必要性を低下させる材料になりました。市場では9月FOMC(米連邦公開市場委員会)で政策金利を据え置く確率が上昇。つまり、先週(8月10日週)の株高は単純な「利下げ期待」ではなく、「少なくとも追加利上げを急ぐ必要はない」という安心感が株式市場のバリュエーションを支えた面が大きいと言えます。米国企業の業績が伸びている一方で、金融政策が再び急激に引き締め方向へ向かうリスクが後退したのです。この組み合わせは株式にとって非常に居心地がよい環境です。
ただ、債券市場では、10年債利回りは週中に4.7%近辺と依然高い水準にあり、株式市場にとって金利環境が劇的に改善したわけではありません。それでも株価が最高値を更新したことは、金利が上がるから株は売りという単純な見方から、金利の水準と企業利益のバランスを見る冷静な姿勢に変わっていることを示しています。
半導体一強からソフトウェアなどへ裾野が広がるAI相場
もう一つの大きな特徴は、AI相場が再び市場の中心に戻りつつある一方、その中身が少し変化してきたことです。過去数年間のAI相場は半導体、特にGPUやデータセンター向け半導体銘柄が主役でした。しかし足元では、メモリー、NeoCloudと呼ばれるAI特化型クラウド、データインフラ、ネットワーク機器、ソフトウェア、セキュリティなどへ投資家の関心が広がっています。
興味深いのは、ソフトウェア株が半導体株を3週連続でアウトパフォームしていることです。ソフトウェア指数も持ち直し、年初来騰落率は再びほぼ横ばいの水準まで回復しました。一時は「AIの普及によってソフトウェア企業の存在意義が薄れる」との悲観論が広がりました。しかし現在では、サービスナウ[NOW]やマイクロソフト[MSFT]などは、企業がAIを導入・運用するための基盤として不可欠であり、むしろAI普及の恩恵を受けるとの見方へと変化しています。
ただ、それは半導体が弱くなったという意味ではありません。むしろ半導体への強気姿勢を維持しながら、AI相場の裾野が広がっているということでしょう。8月26日に予定されているエヌビディア[NVDA]の決算を前に、投資家はAI需要そのものが持続しているかだけでなく、その恩恵がどの業種まで波及しているかを見始めています。
「AIなら何でも買われる」わけではない、シビアな個別株選
個別株の値動きにも、この「選別色の強いAI・成長株相場」が表れていました。スーパー・マイクロ・コンピューター[SMCI]は好決算を受けて一時19%上昇し、ルメンタム・ホールディングス[LITE]も市場予想を大きく上回る決算がAI関連株を押し上げる材料となりました。データドッグ[DDOG]も11.5%上昇しました。
一方で、同じテクノロジー関連でもブロードコム[AVGO]は8月14日(金)に5.9%下落し、AIであるというだけで買われるマーケットではありません。
ソフトウェアではワークデイ[WDAY]が17.8%上昇する一方、消費関連では高級ファッションメーカーのタペストリー[TPR]が16.5%下落しました。企業業績への反応が非常に大きいことは、指数全体のボラティリティが低くても、個別株の選別が続いていることを示しています。
「静かすぎる」マーケットに潜む反動への警戒
一方、注意したいのはマーケットがあまりにも落ち着きすぎていることです。VIX指数は14.25まで低下し、2025年12月以来の低水準となりました。1990年以降の平均は19.45で、VIXが15を下回ったのは全取引日の約32%にすぎません。マーケットはまさに「静かすぎる」状態にあります。
低ボラティリティは株価上昇を支えますが、同時に投資家の警戒感が薄れていることも意味します。最高値圏で出来高が少なく、VIXも低い局面では、予想外のインフレ再加速、原油急騰、企業業績の失望などが出た場合、短期間で値動きが大きくなる可能性は意識しておく必要があります。
今週(8月17日週)はFOMC議事要旨と小売決算から消費動向を探る
今週(8月17日週)の米国株市場では、住宅着工などの住宅関連データに加え、7月FOMC議事要旨、S&Pグローバルの製造業・サービス業PMI速報値が発表されます。特にFOMC議事要旨では、インフレを警戒するメンバーと、景気や雇用への配慮を強めるメンバーの温度差を確認していきたいところです。
企業決算では小売企業が主役になります。ホームデポ[HD]、ロウズ・カンパニーズ[LOW]、ターゲット[TGT]、ティージェイエックス・カンパニーズ[TJX]、ウォルマート[WMT]が相次いで決算を発表します。7月の小売売上高が予想外に弱かったこともあり、消費者が高金利と物価高のなかでどこまで支出を維持できているかが最大のポイントになります。
特にウォルマートは幅広い所得層の消費動向を映すため、売上高だけでなく客数、平均購入単価、食品と一般商品の構成、会社側の今後の見通しに注目していきたいところです。ホームデポとロウズ・カンパニーズは住宅市場と大型耐久財支出の温度感を測る材料になります。
