大学の経済学部や経営学部、商学部で人気の履修科目といえば、ファイナンスです。ファイナンスとは、投資の価値やリスクを踏まえて、ポートフォリオ理論に基づいて資産の配分や評価を考える学問です。その基本の「キ」ともいえる理論が、CAPM(キャップエム:資本資産評価モデル)になります。

学問というと、「実際の投資とは離れた机上の空論」と感じる方も少なくないかもしれません。しかし、PBR(株価純資産倍率:株価÷1株当たり純資産)やROE(自己資本利益率)など、実際の投資で広く利用されている投資尺度の多くは、資産評価モデルの発展と深く関係しています。そのため、普段利用している投資尺度が、理論上どのような意味を持つのかを理解しておくことは重要です。

なぜなら「なぜその投資尺度が有効と考えられているのか」が理解できるからです。そして理論的な背景を把握しておけば、投資尺度を使って選んだ銘柄の投資について、マーケットが不安定な局面でも過度に相場に振り回されにくくなり、短期的な値動きに一喜一憂し過ぎず、中長期の視点で投資を継続しやすくなるでしょう。また、投資尺度ごとの特徴や弱点を理解することで、より納得感を持って銘柄選別に活用しやすくなります。

今回は、CAPMから始まる資産評価モデルの考え方を整理したうえで、実際の投資尺度との関係について解説します。

CAPMからファーマ・フレンチモデルへ―資産評価モデルの進化

市場リスクを取ることで長期では大きなリターンが見返りに得られる

CAPMでは、株式の期待リターンは「市場全体との連動性」によって決まると考えます。具体的には、日経平均株価やTOPIXなど、市場全体が上昇・下落する局面で、どれだけ大きく値動きするかという「市場リスク」が重要であり、その尺度としてベータ(β)が用いられます。

ベータとは、市場全体が1%動いた時に、その銘柄が平均的にどの程度値動きするかを示す指標です。例えばベータが2となる銘柄は市場が1%上昇した場合には、ベータ倍を乗じた分、つまり2倍となる2%上昇する銘柄です。一方、市場が下落する場面では、同じように市場の倍の下落をしてしまいます。

CAPMでは、こうした市場リスクを取ることで長期では大きなリターンが見返りに得られると考えられています。市場全体は経済成長などを背景に長期的な上昇が期待されるため、市場全体の変動に対してより大きく動く、すなわちベータが高い銘柄ほど、高いリターンが期待されるという考え方です。

もっとも、実際の株式市場では、高いリターンの理由が市場との連動性だけでは説明できません。ベータが高くなくても、業績が良かったり、将来成長が期待できたり、割安などの理由で長期的に日経平均株価を上回る銘柄は少なくないです。こうしたCAPMでは説明しきれない、すなわちベータだけで株価の変動が説明できないということを理論に盛り込んでいく流れで、学術的な資産評価モデルは発展してきました。これは、学術が理論にサヤ寄せしてきたと見られます。

6要因(ファクター)が株式リターンの説明に重要

学術界で広く用いられている発展型の資産評価モデルの一つが、ファーマ・フレンチの「6ファクターモデル」です。これは、2018年に米国のファーマとフレンチの2名のファイナンス学者によって考案されたものなので、このように呼ばれます。

実際のモデル式は本稿末尾の【参考】に示していますが、直感的には次のように理解すれば十分です。CAPMでは、市場全体との連動性だけが株式リターンを説明する要因とされていました。しかし、その後の研究では、それに加えて、小型株効果、バリュー(割安株)効果、好業績株の収益性効果、資産を増大させない効果、株価モメンタム効果の5つを加えた、合計6要因(ファクター)が株式リターンの説明に重要であることが明らかになってきました。つまり、市場リスクを含めた合計6つの要因(ファクター)によって、株式の期待リターンの大部分を説明しようとするのがファーマ・フレンチの6ファクターモデルです。

学術的には、ファーマ・フレンチの6ファクターモデルは、過去の実証結果に基づいて構築された経験的なモデルと位置づける見方もあります。しかし、その説明力の高さから、現在では株式リターンを理解するための代表的な資産評価モデルの一つとして、学術研究や運用実務の双方で広く利用されています。

各ファクターの意味を簡単に整理

・小型株効果(SMB:Small Minus Big)は、時価総額の小さい企業のリターンが相対的に高くなりやすい傾向を表します。

・バリュー効果(HML:High Minus Low)は、PBRの低い割安株のリターンが高くなりやすい傾向です。

・好業績株の収益性効果(RMW:Robust Minus Weak)は、ROEなどの収益性が高い企業のリターンが高くなりやすいことを示します。

・資産を増大させない効果(CMA: Conservative Minus Aggressive)は、総資産の増加率が低い、すなわち過度に資産を増やしていない企業のリターンが高くなりやすいことを意味します。このファクターの意味は分かりにくいかもしれませんが、資産の増加が必ずしも収益力の向上につながらないことや、総資産を大きく増やしている企業は、配当や自社株買いといった株主還元が相対的に抑制されやすく、株価の上昇につながりにくいということが背景となるものです。4月8日に公開した吉野貴晶のマーケットクオンツ分析『資産を増やすほど株価が伸びない?総資産成長アノマリーで見極める「避けるべき銘柄」』では、同ファクターを取り上げた銘柄選別の活用法を紹介していますので、ご参考ください。

・そして最後のモメンタム効果(WML: Winners Minus Losers)は、過去12ヶ月の株価パフォーマンスが良好だった銘柄が、その後も相対的に強い傾向を示すというものです(厳密には、直近1ヶ月を除いた11ヶ月のリターンを用います)。

日本株で各ファクターはプラス方向に寄与したか

ファーマ・フレンチの6ファクターモデルは、主として米国株式市場のデータに基づいて構築されたものです。そこで、実際に日本株でもこれらのファクターがどのような動きを示してきたのかを確認しました。

図表1では、SMB、HML、RMW、CMA、WMLといった各ファクターのリターン(ファクターリターン)を示しています。ここでは、それぞれのファクターがプラス方向に寄与してきたのか、それともマイナス方向に作用してきたのかという傾向を把握しやすくするため、月次のファクターリターンを累和した推移を載せています。

【図表1】ファーマ・フレンチの市場ファクターを除く5ファクターリターン推移
注1:データ期間は2021年4月から2026年4月、データサイクルは月次
注2:母数はTOPIX構成銘柄(但し、金融業として「銀行業」「証券、商品先物取引業」「保険業」「その他金融業」に該当する銘柄は除く)
注3:各指標の計算方法はKen French Data Libraryに準拠
注4:2021年3月末を基準として、トレンドを捉える趣旨で、前月までの値に当月のファクターリターンを累和している
出所:QUICK Workstation Astra Managerを用いて、マネックス証券作成

低PBR銘柄を対象としたスクリーニングは、引き続き有効な銘柄選別手法として有効各ファクターは短期的には上下に変動しながら推移しています。しかし、累和したグラフのトレンドが右肩上がりとなっているファクターは、長期的にみてプラスのリターンを生み出してきた、すなわち有効なファクターと考えられます。

なかでも、ブルーの線で示した低PBR効果を表すHMLは、2026年4月末時点の累和の水準が最も高く、日本株市場において特に効果の大きいファクターであったことが分かります。また、WMLで示される株価モメンタム効果についても右肩上がりのトレンドを描いており、有効性が確認できます。

足元では、AI半導体関連銘柄への資金集中が市場の大きなテーマとなっていますが、市場全体を俯瞰すると、依然として低PBR株の優位性が根強く続いている点が特徴的です。さらに、【参考2】に示した1993年10月以降の長期データを見ても、わが国の株式市場では低PBR効果が一貫して確認されています。このことから、中長期の投資戦略としては、低PBR銘柄を対象としたスクリーニングは、引き続き有効な銘柄選別手法の一つと考えられます。

【参考1】ファーマフレンチの6ファクターモデル

◆モデル

 

ここで、青太字の部分が株式のリターンを市場リターンのみで説明できるというCAPM式となる。 ファーマフレンチの6ファクターモデルでは、更に5ファクターを加えて拡張したもの。

◆各記号の意味

E(R_(i,t)-R_(f,t)):銘柄iのt時点における期待超過リターン
R_(i,t):銘柄iのt時点におけるリターン
R_(f,t):t時点における無リスク金利(国債利回りなどが用いられる)
R_(m,t):t時点における市場ポートフォリオ(TOPIX等が用いられる)のリターン
E(R_(m,t)-R_(f,t)):市場超過リターンの期待値
SMB_t:小型株効果(SmallMinusBig):小型株リターン-大型株リターン
HML_t:割安株効果(HighMinusLow):低PBR株リターンー高PBR株リターン: 
RMW_t:収益性効果(RobustMinusWeak):高収益性株リターン-低収益性株リターン
CMA_t:投資効果(ConservativeMinusAggressive):低資産増大株リターン-高資産増大株リターン
WML_t:モメンタム効果(WinnersMinusLosers):株価モメンタムリターン-株価リバーサルリターン
β_i:市場ファクターに対する感応度(ベータ)
s_i:SMBファクターに対する感応度
h_i:HMLファクターに対する感応度
r_i:RMWファクターに対する感応度
c_i:CMAファクターに対する感応度
w_i: WMLファクターに対する感応度

【参考2】ファーマ・フレンチの市場ファクターを除く5ファクターリターン推移(1993年10月以降)
注1:データ期間は1993年10月から2026年4月、データサイクルは月次
注2:母数はTOPIX構成銘柄(但し、金融業として「銀行業」「証券、商品先物取引業」「保険業」「その他金融業」に該当する銘柄は除く)
注3:各指標の計算方法はKen French Data Libraryに準拠
注4:2021年3月末を基準として、トレンドを捉える趣旨で、前月までの値に当月のファクターリターンを累和している
出所:QUICK Workstation Astra Managerを用いて、マネックス証券作成