株式市場には、投資家にとって一見すると意外に感じられるアノマリーが存在します。その代表的なものの1つが「アセットグロース」アノマリーです。日本語では「総資産成長アノマリー」と呼ばれ、総資産を大きく増やしている企業ほど、その後の株価パフォーマンスが相対的に低くなりやすいという傾向を指します。

逆に言えば、総資産の減少率が大きい企業ほど、株価が上昇しやすい傾向がみられるということです。今回は、この資産成長アノマリーに着目し、銘柄選別における留意点について考えていきます。

総資産成長アノマリーとは何か?

企業は成長に伴って事業規模が拡大すれば、それに応じて工場や設備、営業拠点などを増やし、総資産も大きくなっていくのが一般的です。こうした姿からは、「成長している企業ほど株価も上昇しやすい」というイメージを持つ方も多いのではないでしょうか。

しかし、総資産成長アノマリーは、こうした直感とは異なるものです。すなわち、資産を大きく増やしている企業ほど、その後の株価パフォーマンスが相対的に伸びにくい可能性があるという点です。

では、本当にこのような傾向は確認されるのでしょうか。まずは実際のデータをもとに、その検証結果から見ていきます。

分析対象とする総資産成長は次式で表されます。つまり、直近で公表されている会社の本決算で、前年と比べて資産がどの程度成長しているかを計算するものです。総資産は減る場合もあるので、その場合には資産減少率ですが、これらを合わせて資産変化率とまとめて呼ぶこともできます。

 

データで確認する資産成長と株価の関係

そこで、実際に総資産変化率が大きい銘柄のリターンがどのように推移するかを確認しました。分析対象は、金融業を除くTOPIX(東証株価指数)構成銘柄としています。金融業は、銀行や保険会社のように資産そのものがビジネスの中核であり、預金や貸出、運用資産の増減が業務上大きく変動するため、製造業やサービス業など一般事業会社と同じ基準で資産成長を評価すると、指標の意味合いが大きく異なってしまうためです。

そのうえで、毎月末時点のデータを用い、総資産変化率がプラスに大きい、すなわち総資産成長率が大きい銘柄を選別します。具体的には、母集団のうち総資産変化率がプラスに大きい方から上位2割に該当する銘柄に均等投資し、その翌月以降のリターンを積み上げています。そして選定銘柄群のリターンから母集団全体(金融業を除くTOPIX構成銘柄)の平均リターンを差し引いた「超過リターン」の累積を示しています。

総資産を大きく増やしている企業に投資し続けた場合、徐々にリターンの差が広がっていく可能性

結果は図表1の紫線です。この超過リターンは右肩下がりの形状となっています。これは、総資産成長率の高い銘柄群が、市場平均と比較して継続的に劣後していることを意味します。言い換えれば、これらの銘柄は一時的にパフォーマンスが悪いのではなく、時間の経過とともに平均的に見てもリターンが積み重なりにくい傾向があるということです。

つまり、資産を大きく増やしている企業に投資し続けた場合、市場全体に投資した場合と比べて、徐々にリターンの差が広がっていく可能性があることを示唆しています。この点が、資産成長アノマリーの実務上の重要な示唆と言えます。

【図表1】総資産変化率別の株式累積超過パフォーマンス
注1:データ期間は2020年1月から2026年3月、データサイクルは月次
注2:母数はTOPIX構成銘柄(但し、金融業として「銀行業」「証券、商品先物取引業」「保険業」「その他金融業」に該当する銘柄は除く)
注3:「総資産変化率」は直近で明らかになっている本決算での総資産の変化をもとに算出。前期末と比較して、どの程度資産が増減したのかを測定し、その値をもとに銘柄を分類
注4:毎月末時点で明らかとなっている直近本決算ベースの総資産の変化率が母数のうちそれぞれの分類に該当する銘柄群を対象としている。超過リターンは各銘柄の配当込み収益率(月次)の単純平均を累積したものから母数に該当する全銘柄の平均リターンを控除した累積リターンを示す。
出所:QUICK Workstation Astra Managerを用いて、マネックス証券作成

資産の圧縮や効率化を進めている企業の方が、平均的に見てリターンが積み上がりやすい傾向

これに対して、総資産変化率がマイナスに大きい、すなわち資産の減少率が大きい方から上位2割に該当する銘柄群についても同様に確認しました。その累積超過リターンを示したものが、図表1の赤線です。結果を見ると、この赤線は右肩上がりの形状となっています。

これは、資産の減少率が大きい銘柄群が、市場平均と比較して継続的に上回るパフォーマンスを示していることを意味します。言い換えれば、資産を積極的に拡大している企業よりも、資産の圧縮や効率化を進めている企業の方が、平均的に見てリターンが積み上がりやすい傾向が確認されたと言えます。

この結果は、先に見た資産成長率の高い銘柄群のパフォーマンスと対照的であり、資産の増減と株価パフォーマンスの間に一定の関係があることを示唆しています。

さらに図表1の赤線グラフでは、選定銘柄群のリターンから母集団全体(金融業を除くTOPIX構成銘柄)の平均リターンを差し引いた「超過リターン」の累積を示しています。こちらも右肩上がりの形状となっており、本戦略が市場平均を継続的に上回る成果を上げてきたことが読み取れます。

総資産成長アノマリーが見られる背景、3つのポイントとは?

では、なぜこのような総資産成長アノマリーが見られるのでしょうか。その背景には、いくつかの要因が考えられます。

まず第1に、資産の増加が必ずしも収益力の向上につながらない点が挙げられます。企業が設備投資やM&Aなどを通じて総資産を拡大しても、その投資から十分な売上や利益が生み出されなければ、資産を活用する効率は低下します。結果として、総資産回転率が低下し、資本効率の悪化につながりやすくなります。

第2に、過剰投資の問題です。企業は将来の成長を見込んで積極的に投資を行うことがありますが、その期待が過大であった場合、投資規模に見合う収益を確保できないケースも少なくありません。このような場合、投資家の期待とのギャップが生じ、株価の下押し要因となる可能性があります。

第3に、株主還元との関係です。総資産を大きく増やしている企業は、その分だけ内部投資に資金を振り向けていることが多く、配当や自社株買いといった株主還元が相対的に抑制されやすい傾向があります。一方で、資産の圧縮を進めている企業は、余剰資金を株主還元に回しやすく、そのことが株価の下支えや上昇要因となることがあります。

このように、資産の拡大そのものが評価されるのではなく、その資産をどれだけ効率的に活用できているか、さらには資本配分が適切に行われているかといった点が、株価パフォーマンスを左右する重要な要素となっていると考えられます。

銘柄選別で「総資産成長アノマリー」を活用するには?

それでは、銘柄選別の上で総資産成長アノマリーをどのように活用すればよいのでしょうか。

実務的な観点からは、単純に「総資産の減少が大きい銘柄に投資する」という使い方よりも、「総資産の成長が大きい銘柄に対して注意を払う」というアプローチがより現実的と考えます。というのも、総資産の減少が大きい企業の中には、事業の縮小や不採算部門の切り離しといった前向きな構造改革によるものもあれば、業績悪化や資産の毀損といったネガティブな要因によるものも含まれており、一概に評価することが難しいためです。

一方で、総資産の成長が大きい企業については、資産の拡大が必ずしも株価のマイナス要因にならない可能性があるため、その質を見極めることが重要になります。たとえば、総資産を増やした結果として資本収益性や効率性の改善が見込まれるのであれば、前向きな投資として評価することができます。

ここでいう資本収益性とは、投下した資本に対してどれだけの利益を生み出しているかを示す指標であり、代表的なものとしてはROIC(投下資本利益率)やROA(総資産利益率)が挙げられます。これらの指標が将来に向けて改善していくと期待される場合には、資産拡大もポジティブに捉えることができるでしょう。

銘柄選別で実践したい2段階チェック

そこで、実際の銘柄選別においては、次のような2段階でのチェックが有効と考えられます。

第1チェック:資産成長率の水準を確認

図表1でも示した通り、「総資産成長率がプラスに大きい銘柄」、すなわち資産の増加率が高い銘柄群は、上位2割に限らず、上位4割程度まで広げても累積超過リターンが低迷する傾向が確認されました。

このことから、母集団の中で資産成長率が高い上位4割に該当する銘柄については、一定の注意が必要と考えられます。実際に、2026年3月末時点では、この上位4割に該当する資産成長率の閾値は4.8%となっており、前年と比べてこの水準を上回るペースで資産を増加させている企業は、慎重に評価する必要があります。

第2チェック:収益性の改善余地を確認

仮に資産成長率が4.8%を上回る企業であっても、その資産拡大が将来の収益性向上につながるのであれば、必ずしもネガティブに捉える必要はありません。具体的には、ROA(総資産利益率)などの指標が将来に向けて改善していくと見込まれる場合には、成長投資が利益成長へと結びつく可能性があり、株価にとってもプラスに作用する余地があります。

このように、資産成長そのものを単純に評価するのではなく、その背景にある資本配分の質や、将来の収益性の方向性と組み合わせて判断することが、実務的な銘柄選別においては重要となります。

そこで、総資産成長アノマリーの観点から、投資対象として除外を検討すべき銘柄の条件として、以下の2つを同時に満たす場合を一つの目安とします。投資の参考としてご活用ください。

第1条件:前年と比べて、直近実績本決算における資産成長率が4.8%以上であること
第2条件:直近実績本決算のROAに対して、予想ROAが下回っていること

マネックス証券のウェブサイトで総資産成長アノマリーの観点から注意銘柄なのかを確認する方法
ここからは補足的な説明です。読者の皆さんが、投資対象の候補とした銘柄が総資産成長アノマリーの観点から注意銘柄なのかを確認する方法を紹介します。

マネックス証券のウェブサイトの「銘柄スカウター」を利用できる方は、図表2の赤丸印の検索欄に銘柄コード、あるいは銘柄名を入力すると、銘柄の基本情報を確認することができます。

【図表2】マネックス証券のウェブサイトの「銘柄スカウター」
出所:マネックス証券のウェブサイトの「銘柄スカウター」(2026年4月7日時点)

ここではある銘柄を取り上げます。銘柄ページが表示された後、下の方にスクロールすると、「貸借対照表」が表示されます。ここで「第1条件:前年と比べて、直近実績本決算における資産成長率が4.8%以上であること」のチェックをします。

資産の表を見ます。直近の資産(総資産)は青丸印の2025/3の13,284,813百万円なので、1年前実績である2024/03の12,221,284百万円と比べると8.7%(=(13,284,813百万円―12,221,284百万円)÷12,221,284百万円)の資産の増大です。従って、第1条件の4.8%以上を満たしています。

【図表3】マネックス証券のウェブサイトの「銘柄スカウター」「貸借対照表」
出所:マネックス証券のウェブサイトの「銘柄スカウター」(2026年4月7日時点)

そこで「第2条件:直近実績本決算のROAに対して、予想ROAが下回っていること」のチェックをします。「通期業績推移」の項目で、「利益率」タブとすると、図表4のROAの時系列推移が表示されます。ここでは紫印に示される予想ROAと直近実績ROAを比較します。2026/03予のROAは5.18%となっており、2025/03の4.83%を上回っています。従って、第2条件を満たしていないため、同銘柄は総資産成長アノマリーから投資対象の除外は不要です。

皆さんが注目している銘柄についても、こうした観点からチェックしてみることをおすすめします。

【図表4】マネックス証券のウェブサイトの「銘柄スカウター」「通期業績推移」
出所:マネックス証券のウェブサイトの「銘柄スカウター」(2026年4月7日時点)