将来の株価を予想する際、伝統的なチャート分析では、過去の株価の動きを一定のパターンとして整理し、足元の株価がそのいずれかのパターンに当てはまるかどうかを判断したうえで、その後の値動きを経験則にもとづいて予想します。

こうしたテクニカル分析の延長線上に位置づけられると言えるものとして、近年のデータ分析の分野では、足元の株価が過去のどの局面の株価と似ているかを定量的に探索し、その当時の株価がその後上昇したのか、あるいは下落したのかを手がかりに、将来の株価動向を予測する方法が投資実務でも用いられるようになっています。本稿では、このような考え方にもとづく株価予想手法を解説するとともに、将来の日経平均株価の動きを予想します。

株価の「似ている」をどう捉えるか

株価推移の類似性を調べる方法

「足元の株価が、過去のどの局面の株価の動きと似ているのか」といったように、株価推移の類似性を調べるには、どのような方法が考えられるでしょうか。専門知識のある方であれば、「相関係数を使えばよいのではないか」と思い浮かべるかもしれません。実際、相関係数は、2つのデータがどの程度同じ方向に動いているか、その関係の強さを数値で表す指標であり、筋の良い手法の1つです。

「水準の違いも含めて、2つのデータがどれだけ近いか」を測る

ただし、本稿では「似ている」という概念をより的確に捉えるために、「距離」という尺度を用います。相関係数が「動きの方向性がどれだけ似ているか」を示す指標であるのに対し、距離は「水準の違いも含めて、2つのデータがどれだけ近いか」を測る指標と位置づけることができます。

株価どうしの「距離」と言われても、直感的には分かりにくいかもしれません。私たちは日常生活の中で、「似ている」「近い」といった表現を、必ずしも空間的な意味だけで使っているわけではありません。

例えば、テストの点数や体重、気温などを比べる際にも、「平均との差がどのくらいあるか」「数値がどれだけ近いか」といった言い方をします。株価における距離も、これと同じ考え方です。空間の隔たりを示すものではなく、数値としての価格水準がどれだけ離れているかを表しています。例えば、株価が100円の銘柄と90円の銘柄があれば、その距離は価格差である10円になります。

足元の株価が過去のどの局面と似ているか

この考え方を用いると、足元の株価が過去のどの局面と似ているかを調べることができます。例えば、足元の6日間の株価推移を取り出し、それと過去のさまざまな期間における6日間の株価推移との間で、日々の価格差を合計した「距離」を計算します。過去について網羅的に期間をずらしながらこの距離を求め、距離の合計が最も小さくなる期間を、「足元と最も似ている過去の局面」と判断することができます。

図表1の左図では、説明を分かりやすくするため、例として示した6日間の株価データを用いて、この「距離」という考え方を具体的に確認してみましょう。まず1日目について、足元の局面(赤線グラフ)の株価が100円、過去の局面(青線グラフ)の株価が90円であれば、その距離は10円となります。

次に2日目を見ると、足元の株価は110円、過去の株価は100円であり、この場合も距離は10円です。このように、各日の株価差を順に計算し、6日間すべての距離を合計することで、2つの株価推移の近さを数値として捉えることができます。なお、2つの株価が期間を通じて完全に一致した動きを示す場合、この距離はゼロとなります。

【図表1】通常の距離とDTW距離の違いのイメージ
注: 黒矢印は距離を対応するペア
出所:マネックス証券作成

時間のズレを許容するDTW距離という発想

高値どうしの差に着目したほうが良い場合も

ただし近年では、株価どうしの距離を計算する方法として DTW距離 が用いられるケースが増えています。DTWとは Dynamic Time Warping の頭文字を取ったもので、「時間のズレを許容しながら類似性を測る手法」を意味します。

図表1を見ると、足元の局面では株価の高値が4日目に150円となっているのに対し、過去の局面では5日目に130円の高値をつけています。考え方にもよりますが、このように高値をつけるタイミングが1日程度ずれている場合には、同じ日付どうしを機械的に比較するよりも、高値どうしの差に着目したほうが、株価の動きが似ているかどうかをより妥当に評価できると考えられます。

値動きの特徴や形状の類似性を捉えるうえで有効だと考えられる理由

足元と過去を比較する事例から少し離れますが、例えば同じ業種内で2つの銘柄の株価の距離を計算する場面を考えてみましょう。決算発表日が1日ずれれば、それに対する株価の反応も1日ずれることは珍しくありません。このような場合、時間のズレを厳密にそろえて株価を比較すると、かえって類似性を見誤ってしまう可能性があります。

そのため、株価どうしの距離を計算する際には、こうした時間のズレをある程度許容したほうが、値動きの特徴や形状の類似性を捉えるうえで有効だと考えられます。

価格水準が近い安値どうしを対応させて距離を計算する

DTW距離の計算は、プログラミング言語のPythonを用いれば、dtaidistance ライブラリの distance モジュールによって比較的簡単に求めることができます。理論を厳密に理解しようとするとややハードルが高く感じられるかもしれませんが、図表1の右図に示したように、「どの時点の価格どうしが対応づけられて距離が計算されているのか」をイメージできれば、理解としては十分でしょう。図中の矢印は、距離の計測において対応づけられた価格の組み合わせを示しています。

直感的には、時点の一致に厳密にこだわるのではなく、価格水準の差が小さい箇所どうしを対応させ、その距離を積み重ねていくイメージです。特徴的なのは、右図に示した太い矢印が、高値どうしの差(距離)を計算に用いられている点にあります。安値についても同様で、安値をつけた時点が多少ずれていたとしても、価格水準が近い安値どうしを対応させて距離を計算することで、株価の動きの類似性を捉えようとします。

類似局面から将来を読む ― 日経平均への応用

ここからは、DTW距離を用いた分析結果を、将来の株価動向の予想にどのように生かすかを解説します。

75立会日間の日経平均株価の動きに対して、過去のどの期間が似ているか

図表1では説明を簡単にするために6日間の例を用いましたが、実際の分析では、75立会日(約3ヶ月)を1つのタイムスパンとして設定します。足元直近の2025年12月26日から75立会日さかのぼると、起点は2025年9月8日となります。この75立会日間の日経平均株価の動きに対して、過去のどの期間が似ているかを探索的に調べていきます。

具体的には、東京証券取引所が第2次世界大戦後に取引を再開した1949年5月16日を起点とし、そこから75立会日間の日経平均株価と、足元の75立会日間の株価との間でDTW距離を計算します。この際、株価水準そのものの違いではなく、値動きの形状を比較するため、いずれの期間についても起点の株価を1とする指数化を行った上でDTW距離を計測します。

その後、探索対象となる過去の期間の起点を1日ずつずらしながら、同様のDTW距離の計算を繰り返します。こうして、過去の期間の終点が足元局面の起点である2025年9月8日の1日前に到達するまで、合計で1万9,835期間すべてとの間でDTW距離を算出しました。その結果、DTW距離が最も小さかったのは、2023年4月14日から2023年8月2日までの75立会日間であり、この期間の日経平均株価の推移が、足元の局面と最も似ていると判定されました(図表2の青線グラフ)。

実際に2本の株価推移を見比べると、上昇局面や一時的な調整局面の現れ方などがよく連動しており、DTW距離が小さくなる理由も視覚的に確認できます。そこで、足元の日経平均株価の今後を考えるにあたっては、この類似局面において株価がその後どのような動きをたどったのかを検証することが重要になります。

【図表2】足元(2025年12月26日)までの日経平均株価と最も変動が近い過去の日経平均株価
注1:データサイクルは日次の90日立会日数
注2:起点=1となるように指数化している
出所:QUICK Workstation Astra Managerを用いて、マネックス証券作成

マクロ経済環境の類似性を議論するのは難しく、分析の客観性が損なわれやすい

もっとも、当時の経済環境を振り返ると、外国人投資家の積極的な投資が株価上昇を支えた点は共通しているものの、金融政策の方向性には大きな違いがありました。米国が金融引き締め局面にあった一方で、日本はマイナス金利政策を維持するなど、金融緩和が継続していました。足元で見られる米国の利下げ期待や日本の利上げ観測とは、当時はまったく異なる環境にあったと言えます。

こうした外部環境の違いを踏まえると、今後の日経平均株価が当時と同様の変動パターンをたどるのかについては、疑問を抱く向きもあるでしょう。ただし、マクロ経済環境の類似性を議論しようとすると、評価基準を一意に定めることが難しく、分析の客観性が損なわれやすいという課題があります。

株価推移の類似性のみに着目、目先の相場の方向感を把握するための補助的なツールとして活用を

そこで本分析では、マクロ環境そのものの比較は行わず、株価推移の類似性のみに着目したデータ分析を行います。具体的には、過去に最も株価推移が似ている1期間だけに依存するのではなく、DTW距離が小さい上位10期間を抽出し、それらの期間におけるその後の株価変動の平均的な動きを、将来の株価予想として用いることにしました。これにより、特定の1局面に分析結果が左右されるリスクを抑えることができます。

その結果、2025年12月26日後(12月29日以降)の10立会日先の日経平均株価は、1.1%上昇するとの予測値が得られました。目先の株価については、堅調な推移が示唆されます。

もっとも、このような予想手法については、どの程度の的中率があるのかを検証することが欠かせません。そこで、前月末までの過去36ヶ月間について、毎月末時点で同様の方法による予想を行い、その後の株価が上昇すると予想した場合に実際に上昇したか、あるいは下落すると予想した場合に実際に下落したかを検証しました。その結果、10立会日後の予想については、正解率(accuracy)が66.7%と、一定の予測力が確認されました。

一方で、正解率だけで予想手法の頑健性を判断することには注意が必要です。加えて、予測期間を20立会日先まで延ばすと、正解率は4割を下回りました。この点を踏まえると、本手法は中長期の相場予測には適していないものの、目先の相場の方向感を把握するための補助的なツールとして活用することが妥当だと考えられます。