5月27日午前の東京株式市場で、日経平均は取引時間中の高値として6万6000円を上回り、史上最高値をさらに更新しました。いったんは5日続落を記録するなど調整をうかがわせる局面もありましたが、イラン情勢の沈静化期待やAI半導体企業の好調などを背景に反転。相場の底堅さを示す展開となっています。

依然としてAIや半導体などのテクノロジー関連が相場を牽引していることを見れば、期待の大きさが感じ取れるでしょう。実際、少なくない企業は(人手不足とされるご時世にもかかわらず)新卒採用を減らし始めました。AI・DXによって業務量の削減が視野に入ってくる中、それら企業は少数の優秀な人材で事足りると考え始めた可能性があります。着実に、株式市場はAI・DXによって社会構造が変わってくるということを織り込んできているのかもしれません。

とはいえ、かつてインターネット相場がそうであったように、期待は必ずオーバーシュートするものです。嫌なサインもあるのです。直近は金利が急ピッチで上昇し始めていますが、金利上昇は大原則として株価には逆風です。前回、ご紹介したジョン・テンプルトンの格言の通り、全員が疑うことなく楽観論を共有し始めたところが相場の転換点となるのかもしれません。こうした警戒感は常に頭の片隅に残しておきたいところです。

送電ロスを防ぐ電力インフラのかなめ「変圧器(トランス)」

さて、今回は「変圧器」をテーマに取り上げてみたいと思います。変圧器は一般にトランスとも呼ばれていますが、こちらの方をよく耳にするという方も多いかと思います。変圧器は文字通り、電圧を引き上げたり引き下げたりする機器であり、受電した電力の電圧を使いやすいように調整するというのが主たる役割になります。

海外旅行を考えていただければわかりやすいかもしれません。日本の電化製品は日本の電圧仕様となっているため、電圧が異なる国に行けば、(極論すると)日本から持ち込んだ電化製品は役に立ちません。そこで変圧器を使って電圧を日本基準に調整すれば、製品が使えるようになるというわけです。

こうした例は国内でもたくさんあり、発電所から各変電所などへ高圧で送電する一方、需要地に近づくにしたがって電圧を下げ、各家庭には低圧電力を提供するという構造になっています。その都度、変圧器が必要とされているのです。

変圧器の設置と送電ロスはトレードオフ

ならば、最初から低圧で送電すればよいではないかと思われるかもしれませんが、そうなると今度は膨大な送電ロスの発生が避けられません。送電ロスは電流の2乗に比例するので、電流を増やせば増やすほど、ロスは加速度的に増えてしまうのです。電力は電圧と電流の積である以上、電圧が下がれば、その分は電流を大量に流さなければ一定の電力を提供できなくなってしまいます。

つまり、変圧器の設置と送電ロスはトレードオフの関係にあるのです。そして、この関係においては、変圧器を使って電圧を都度変更する方が圧倒的に効率的です。変圧器は送電ロスを抑制して効率を引き上げ、かつ川下領域の使い勝手をよくするという役割を担っていると言えるのです。

データセンターや半導体工場の増設で、変圧器ニーズが急拡大

変圧器は現在、需要が好調に推移しています。その理由は、半導体や電子部品の工場増設やデータセンターの建設増加などにあります。日本電機工業会の調べによると、工場など向けの標準変圧器の受注額はコロナ禍下の2020年度を直近の底に、現在は約3700億円と5年で約2倍に急増しています。2022年以降の出荷額は2500億円程度と受注額を下回っている状態が続いていますから、足元はかなりの受注残が積み上がっている可能性があります。

データセンターなどに使われる大型変圧器のデータは不明ですが、世界最大級の電力インフラ企業である日立エナジーが開示している受注残は、過去3年で3倍近い数字が積み上がっています。AI・DXの浸透に伴って電力需要が急拡大する中、電力を効率よく調達するための変圧器にもそのニーズが急速に高まっていると言えるでしょう。半導体や光ファイバーに比べて派手さには欠けるものの、変圧器もAI・DXという大きな流れを支える重要なピースであると言えるのかもしれません。

シンプルな構造ながら高い参入障壁、カギを握る「電磁鋼板」

なお、変圧器そのものは実はとても簡単な構造をしており、可動部を持っていない「静止器」と分類されています。そのため、何かを動かすための動力も必要がありません。変圧プロセスは「ファラデーの電磁誘導の法則」そのものであり、また「エネルギー保存の法則」が概ね成立するため、変圧器を通せば、いわば「上から下に水が流れる」ように勝手に変圧されるというシロモノなのです(ただし、実際には熱などによって一部エネルギーの損失は不可避です)。

とはいえ、そのようなシンプルな構造だからこそ、企業の参入障壁が高いのも事実です。苛烈な外部環境や経年劣化に耐えるための設計・製造ノウハウ、エネルギーロス抑制のノウハウなどです。変圧器の重要部品となる鉄心材料には電磁鋼板が用いられますが、中でもエネルギーロス抑制に大きく寄与する高機能電磁鋼板が製造できる企業も世界では限定的な状況にあるのです。

専業メーカーから関連部材・エンジニアリングまで、「変圧器(トランス)」関連銘柄

では、変圧器関連ではどのような企業がその対象となるのでしょうか。

まずは標準変圧器を主に取り扱う専業メーカー群です。国内トップのダイヘン(6622)を筆頭に、東光高岳(6617)などが挙げられます。

また、大型変圧器を主力とするのは、世界トップクラスのシェアを有すると目される日立製作所(6501)に加え、三菱電機(6503)、富士電機(6504)などの名前が挙がってきます。

上述の鉄心材料たる電磁鋼板では、日本製鉄(5401)、JFEホールディングス(5411)が突出した市場影響力を持っていると言えるでしょう。

さらに、変圧器を使ったシステムの設計・工事・エンジニアリングで実績のある企業群として、ダイダン(1980)や正興電機製作所(6653)、八洲電機(3153)、立花エレテック(8159)などの名前も意識しておきたいところです。

もはや一般人にはなかなか具体的なイメージもできないほどにテクノロジーは進化を遂げていますが、それを支えているのは1800年代に発見された古典的な法則であり、それが今もなお(高機能化はもちろん進んでいるものの)変わらずに機能しているのです。こうしたギャップにはある種のロマンも感じますね。