先週(1月26日週)の値動き:内外金価格ともに記録的な急騰と急落/NY金、8日連続の過去最高値更新から歴史的な急落/次期FRB議長指名が引き金となるも、下落は内部要因が主導

先週(1月26日週)のニューヨーク金先物価格(NY金)は、歴史的な急騰と急落の両方が起き、大荒れの週となった。今後の参考にもなるので、少し詳しく書いてみようと思う。

NY金、8日連続最高値更新の端緒

デンマーク自治領グリーンランドの領有意向を示していたトランプ米大統領は、1月17日に反対する8ヶ国に対し関税賦課を発表した。その影響により米国市場は1月20日、米ドル安、株安、米債安(利回り上昇)のトリプル安に見舞われたことは記憶に新しい。そこから1月29日まで、NY金は8営業日連続で、取引時間中の高値と終値の両方で過去最高値を更新し、歴史的高騰相場を展開することになった。最高値はそれぞれ取引時間中高値が5,626.8ドル、終値が5,354.8ドルとなった。

複数のリスク要因に加わったトランプ米大統領の米ドル安容認発言

米ミネソタ州ミネアポリスで、違法移民の取り締まりに反対するデモの参加者が、当局に射殺された。この件は米国議会の連邦予算協議にまで影響を及ぼし、米国の政治分断を意識させた。また、期限を迎えるつなぎ予算が成立せず、再び連邦政府一部機関の閉鎖見通しが高まった。さらにトランプ米大統領がイランに対する軍事的圧力を強め、地政学リスクの高まりもNY金を刺激した。

こうした中で1月27日、主要通貨全般で米ドルが売られ、ドル指数(DXY)は96ポイント割れとなる4年ぶりの安値水準まで下がった。そこに加わったのが、トランプ米大統領による米ドル安容認発言だった。米ドル安を懸念しているかと問われ、「うまく行っている=doing great」と答えたと伝わった。それによりファンドを中心とする目先筋(CTA=商品投資顧問)の買いが殺到し、NY金は舞い上がった。

「劇場型急落相場(theater syndrome)」の発生の兆候

ところが1月29日、相場は変調をきたした。米国株式の取引開始後、まとまった売りが出るとNY金は10分ほどで200ドル急落し、下げ幅は短時間で400ドルまで拡大した。この日は株式市場でマイクロソフト[MSFT]株が寄り後から大きく売られたが、その後を追う形でNY金が下げ幅を拡大したことから、株式取引の解消に伴うキャッシュ捻出の売りが、下げのきっかけを作ったとの見方もできた。しかし、一連の急騰の中で過熱感を指摘されており、金市場では警戒感も高まっていた。その状況で急落が起きた。

筆者が思い浮かべたのは、「劇場型急落相場(theater syndrome)」だった。市場参加者は、音楽が流れている、つまり上昇トレンドが持続しているのでダンスを続けている。しかし、警戒感の高まりの中で多くは(すぐに逃げ出せるように)出口の近くで踊っている。そこに急に音楽が小さくなり、鳴り止んでしまい、皆慌てて我先に出口に殺到した結果、大幅下落に至ると言うものだ。

NY金は最高値(5,626.8ドル)を付けた後に急落し、上げ幅を大きく削って5,354.80ドルで取引を終えた。ただし、その翌1月30日にさらにパニック的な売りが待っていた。

NY金、歴史的な急落相場

週末と月末が重なった1月30日のNY金は、断続的に売り物が出され記録的な下落で取引を終えた。終値は前日比609.70ドル(11.39%)安の4,745.1ドルで終了した。1日あたりの下げ幅、下げ率ともに1980年以来の規模となる。

売りの手掛かりは、1月30日のアジア時間に広まった「次期FRB(米連邦準備理事会)議長に、トランプ米大統領がケビン・ウォーシュ元FRB理事を指名する」との観測だった。この人選に市場はネガティブな反応を示した。最終候補とされた4名の中で、ウォーシュ氏が比較的タカ派と目されていることが市場に波紋を投げかけた。

激増したロング(買い建て)の重さに耐えかね自壊した市場

ただし、それは売りの引き金にはなったものの、言い訳という印象が強い。市場の内部要因としては、いくつかの買い手掛かりが重なる中で短期筋が集中買いし、その勢いで相場(モメンタム相場)が自壊したと言える。2025年10月20日に至る急騰とその後の急落と同様に、豪雪が降り(先物市場でロングが急増し)、それが一気に崩れる「表層雪崩」が起きたものと言える。ただし前回より規模は大きい。それだけに今後の調整局面は長引きそうだ。

一方で、ここまで複数年にわたり水準を切り上げてきた基盤とも言える「根雪」の材料(買い手掛かり)は依然として残っている。つまり今回の急落はピークアウトを含むトレンドの転換ではないと考えている。

それでも1月の月足は大幅上昇

さて、この動乱の1週間だが、週足は前週末比234.60ドル(4.7%)安の反落となった。レンジは4,700.4~5,626.8ドルで値幅は926.4ドルで過去最大となった。ただし、月間ベース(月足)で1月は404.00ドル(9.3%)の上昇となった。

国内金価格も最高値から急落へ

大荒れのNY金を受け国内金価格も同様の上下動となった。米ドル/円相場が円高方向に動いたことで、国内価格には下げ圧力がさらに高まった。ただし、時差の関係でNY金の大幅下落が起きたのは、日本時間夜の時間帯から明け方にかけてのことだった。そのため、先週(1月26日週)の国内金価格には大きな影響は出ていない。今週(2月2日週)の価格に反映されることになる。

大阪取引所の先物価格(JPX金)の1月30日の終値は2万6590円で週足は前週末比155円(0.59%)の上昇となった。上昇は4週連続となった。1月28日と29日に、取引時間中高値と終値ともに最高値を更新した。1月29日の2万8498円、2万8497円がそれぞれ最高値となった。1月は月間ベースではNY金と同様にJPX金も前月比4083円(18.14%)の大幅高となった。なおJPX金の1月30日の夜間取引は30日の日中取引の終値比で1549円安の2万5041円で終了し、2月2日の取引に引き継がれている。

また、先週(1月26日週)は金店頭小売価格も最高値を更新した。代表的な価格は税込みで1月29日に2万9815円で最高値を更新した。なおこの日の午後(14時発表)の提示価格では、3万248円と初の3万円台を記録している。

今週(2月2日週)の動き:基本的な上昇基調に変化はないものの、調整期間は長引く模様 

1月雇用統計では過去の雇用増加数の改定値に注目

今週(2月2日週)は、米国で2月6日(金)に1月の雇用統計が発表される。失業率は4.4%で前月比横ばい、(非農業部門)雇用者数は6万9000人増と、4ヶ月ぶりの高い伸びが見込まれている。ただし注目点は、今回発表されるとみられる年間の雇用増加に関する改定値となる。2025年に発表された暫定値では2025年3月までの1年間の雇用増加が、過去最大の下方修正により91万1000人となる可能性が指摘されている。

金価格に影響するウォーシュ元FRB理事の政策方針

なお、価格見通しの焦点は、大幅下げにつながった次期FRB議長に推された「ウォーシュ元FRB理事の政策方針」にある。

リーマンショックに象徴される国際金融危機時、当時のバーナンキFRB議長とともに理事として対応にあたり、一定の評価を得たウォーシュ氏だったが、その後理事職を辞任した経緯がある。FRBが国債など資産を買い取る形で新規のドル供給(量的緩和策=QE)に乗り出したことに反対の立場で、辞任に至ったとされる。

直近でも2025年12月に米短期金融市場がやや不安定化したことをきっかけに、FRBが短期国債の買い入れを再開したことに反対の意向を示していた。市場に対し金融政策の方向性を示す方法(フォワードガイダンス)やその他について、FRB自体の改革の必要性を以前から主張している人物でもある。総じて伝統的な共和党保守派の理念に近いスタンスの人物とみられる。

タカ派的志向のある人物にもかかわらずトランプ米大統領が指名したのは、利下げに対し積極姿勢を示していたことがある。現状でも利下げが可能だと唱える背景には、AI(人工知能)の導入により米国経済の生産性が上がり、経済をインフレ圧力から守れるという主張がある。

ただし、新たな切り口での判断基準は確立しておらず、また評価に時間を要することから、(年内を含め)目先の利下げは遠のくと市場は捉えたとみられる。年内2回の利下げを織り込んでいた市場(特に金市場)にとって、その前提が変わる可能性のある人選である。まずは上院での承認がうまく進むのかが当面の注目点となる。

下値の目途は4,600ドルまたは4,300ドル近辺か

NY金の基本的な上昇トレンドは続くとみられるが、当面は下値を探る動きとなりそうだ。下値の目途は、すでに接近している4,600ドルの水準である。その下は4,300ドルの水準を想定している。中央銀行などの現物買いがどの水準で入るかがポイントとなる。国内金価格はこの動きに沿ったものとなりそうだ。