米国のマクロ環境と市場の「期待から現実」への移行

・FRB(米連邦準備制度理事会)は2026年の利下げを1回程度とみる一方、市場は2~3回以上の利下げを織り込む。企業業績は前年比で堅調で、2026年末にかけて12~13%程度の増益見通しとなっている。

・過去の段階的利下げ期はEPSが落ち込む局面が多かったが、今回は業績が底堅く、1990年代後半に近い構図との見方がある。利下げ期待から現実の織り込みに移る過程で、株式・クレジットの変動率は高まりやすい。

・クレジットのスプレッドはタイト化してきたが、現実適合の調整は健全な範囲に収まりやすい。ファンダメンタルズが大きく崩れて長期調整に発展する状況とは言い難い。

ノンバンク/プライベートクレジット拡大と足元の変調

・一方でクレジット市場にリスクがあることは確かである。金融危機後の規制で大手銀行の中小・スタートアップ向け与信が抑制され、プライベートクレジットが資金供給を拡大。国債の受け手、BNPL(後払い決済)など新モデルの資金源、投資家にとっての分散投資先の選択肢、高利回り需要が追い風となった。

・ノンバンクは銀行より規制・開示が遅れ、流動性面の取り付けリスクも内在。IMF推計で世界の融資に占めるノンバンク金融のシェアは約半分に達し、「炭坑のカナリア」になり得る領域である。

・プライベートマーケットプレーヤー各社(ブラックストーン[BX]、アレス・マネジメント[ARES]、KKR[KKR]、アポロ・グローバル・マネジメント[APO]、ブルー・アウル・キャピタル[OWL])の株価は夏以降S&P500に対して相対弱含み。公開型のプライベートクレジットファンドであるBDC(ビジネス・デベロップメント・カンパニー)はコロナ後の高パフォーマンスから直近は下値模索に転じ、著名投資家であり「債券王」の異名を持つジェフリー・ガンドラックの「ごみのような融資」発言とも相まって信用リスクへの警戒感が強まった。

格付けショッピング再燃懸念と波及経路、注視指標

・プライベートクレジットの急拡大で、規制対応が必要な出し手に対し中堅格付け会社の関与が増加。新規貸出の約4分の3を中堅格付けがカバーしているとの指摘があり、2008年金融危機時の「格付けショッピング」に類する懸念が再燃した。

・米欧では非銀行金融へのエクスポージャーが自己資本の最大6倍に達する銀行もあり、クレジットの歪みはノンバンクにとどまらず銀行部門にも波及し得る。国際資本取引は貿易の約3倍規模に拡大しており、巻き戻し時の市場変動は大きくなりやすい。

・先行度が高い観測対象として、上場するプライベートマーケット運用会社やBDCの価格動向が挙がる。下落が止まらないような局面を迎えた場合、クレジット不安の拡大サインとなる可能性がある。