企業が公表する収益や利益には、勘定科目上いくつかの段階があります。経営成績を示す損益計算書の最初に記載されるのは「売上高」ですが、そこから「営業利益」「経常利益」「当期利益」などが続きます。これら4つの数値は、アナリストが予想を公表し、投資家が企業評価に用いる主要な業績指標です。

では、業績の変化(伸び)を捉える際、どの収益・利益に最も注目すべきでしょうか。本稿では、利益指標を用いた銘柄選別のパフォーマンス検証を通じて、その答えを解説します。

4つの収益・利益の意味と、営業利益を基準に用いることが最適な理由

まずは、4つの収益・利益の意味を確認しておきましょう。
・売上高:商品販売やサービスの提供で得た収入の総額。企業の事業規模を示す基本的な指標
・営業利益:本業から得られるもうけ。企業の「本業の収益力」を表す
・経常利益:企業の通常の活動である受取利息や支払利息などが反映。通常活動全体のもうけ
・当期利益:最終的に株主に帰属する利益。ただし遊休資産の売却益など一時的な要因も含むため、企業の持続的な収益力を示す指標としては不安定

結論から言えば、企業の成長性を評価する際に最も注目すべきは営業利益です。実証結果からも、営業利益の予想変化率や増益率が高い銘柄ほど株式パフォーマンスが良好で、銘柄選択効果が最も高いことが確認できます。そのため、銘柄スクリーニングを行う際には4つの収益・利益のうち、まずは営業利益を基準とするのが妥当です。

ただし、銀行業では財務指標の体系が一般事業会社と異なり、「営業利益」という概念が存在しません。代わりに用いられるのが「業務純益」ですが、この予想値は入手が難しい場合が多くあります。そのため、金融業(「銀行業」「証券・商品先物取引業」「保険業」と「その他金融業」)を含めてスクリーニング基準を設ける場合には、より汎用性の高い「経常利益」を用いるのが適切と考えられます。

裏付けとなる検証結果、最も銘柄選択効果が高かったケースとは

こうした裏付けとなる検証結果を紹介します。

分析対象の収益・利益は売上高、営業利益、経常利益、当期利益とします。それぞれについて、アナリストによる最新予想が前回予想からどの程度上方修正または下方修正されたかという「予想変化率」の指標を用いています。予想変化率は「アナリスト予想リビジョン」と言われて、投資実務で銘柄選別に広く用いられるものです。予想変化率がプラス(=上方修正)であれば、株価も上昇しやすい傾向があります。

対象銘柄は、金融業を除くTOPIX構成銘柄のうち、金融業を除いて、さらに4指標すべての予想データを取得できる企業としました。4つの分析対象銘柄を共通にすることで比較の公平性を確保するためです。

検証は月次ベースで実施し、毎月末時点のデータをもとに、4つの指標ごとに予想変化率の高い上位20%の銘柄を等金額で投資した場合のパフォーマンスを算出しました。図表1は、母数全体の平均リターンを上回る銘柄群の累積超過リターンを示しています。

4つのグラフはいずれも右肩上がりのトレンドとなっており、いずれの収益・利益を用いても予想変化率は銘柄選択効果が高いことを示します。

【図表1】収益・利益それぞれの「予想変化率」が高い銘柄の累積超過パフォーマンス
注1:データ期間は2020年10月から2025年9月、データサイクルは月次
注2:母数はTOPIX構成銘柄、但し、金融業(「銀行業」「証券・商品先物取引業」「保険業」と「その他金融業」)を除く
注3:収益・利益の「予想変化率」に用いる予想値はアナリストコンセンサス
注4:毎月末時点で母数のうち、それぞれ対象となる業績の予想変化率が高い方から20%に該当する銘柄に等金額投資した場合の翌月のリターンを算出して、対象となる月の母数全体に等金額投資した場合のリターンを引いた超過分を求めて2020年10以降累積している
出所:QUICK Workstation Astra Managerを用いて、マネックス証券作成

とはいえ、4つのグラフが示す株式パフォーマンスには明確な違いも見られます。どの業績指標の予想変化率に注目すべきかは、投資判断上の重要なポイントです。

株価に最も反映されやすい営業利益

分析結果を見ると、最も右肩上がりのトレンドを示したのは営業利益(ピンク線)でした。これは、企業の本業が事前の予想を上回って好調である場合、その情報が株価に最も反映されやすいことを意味します。

経常利益(紫線)も遜色ない結果を示しています。企業の持続的な利益水準を反映する指標であり、金融業などを含めて銘柄を選定する際には、経常利益を基準にスクリーニングを行うことも有効と考えられます。

当期利益(青線)の予想変化率は、4指標の中で最も効果が低い結果となりました。営業利益が上方修正されれば当期利益も後に修正される傾向がありますが、特別利益や損失など一時的な要因による業績修正については、株価が将来の持続的な収益力を重視するため、反応が鈍いと考えられます。

売上高の予想変化率は局面で使い分ける必要がある

一方、売上高(赤線)に関しては、全体として累積超過パフォーマンスは高くないものの、期間によっては有効性が高まる傾向があります。例えば、2022年度下期(図表1の赤矢印)ではグラフが上昇傾向を示し、良好なパフォーマンスでした。

この時期を振り返ると、2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻を契機に、原材料や部品の調達をめぐってサプライチェーンの再構築を迫られる企業が相次ぎました。また、食料・資源価格の高騰による物価上昇でコスト負担が増大する中、利益率は圧迫されましたが、売上を確保できた企業が評価される局面となりました。このため、売上高の予想変化率が株価により強く反映されたとみられます。

また、同様の検証を「成長率」を用いた分析でも行いました。その結果、営業利益をベースにすることが最も合理的との結果が得られました。

参考銘柄:スクリーニング結果とスクリーニング方法

そこで、営業利益の予想変化率と増益率を指標として、マネックス証券のウェブサイトで提供されている「銘柄スカウター」の10年スクリーニング機能を用い、参考銘柄を抽出しました。

対象は、金融業(「銀行業」「証券・商品先物取引業」「保険業」「その他金融業」)を除く企業とし、流動性を考慮して東証プライム市場に上場し、時価総額1,000億円以上の銘柄に限定しています。さらに、今期の営業増益率が10%以上の銘柄のうち、営業利益の予想変化率が高い順に並べ替えました。
また、業績面で一定の健全性を確保するため、実績ROEが8.00%以上、かつ実績ROAが3.00%以上という条件も加えています。

これらの条件に基づき抽出した結果を図表2に示します。投資の参考にしてみてください。

【図表2】スクリーニング結果(来期の営業利益予想変化率の降順、上位20件)
※東証プライム上場
[ 基礎条件] 市場:東証プライム、時価総額:1,000億円~、金融業(「銀行業」「証券・商品先物取引業」「保険業」「その他金融業」)を除く
[詳細条件]
[指標]実績ROE:8.00%~、[指標]実績ROA:3.00%~、[今期コンセンサス]増益率(営業利益):10.0%~・3人以上、[今期コンセンサス]予想変化率(営業利益)・対3か月前・3人以上が上位順に並び変えている
出所:マネックス証券ウェブサイト マネックス銘柄スカウター(2025年10月27日時点)を用いてマネックス証券作成

具体的なスクリーニング入力項目は(図表3)に示しています。
みなさんも投資の参考にしてみてください。

【図表3】スクリーニングの条件設定画面
出所:マネックス証券ウェブサイト 銘柄スカウター (ログイン後 ― 投資情報 ―ツール― マネックス銘柄スカウター ― 10年スクリーニング、2025年10月27日時点)