先週(9月8日週)の動き:記録的上昇のNY金4週続伸、買いの主体は欧米勢、JPX金は最高値の更新が続く
先週(9月8日週)のニューヨーク金先物価格(NY金)は、週初から2営業日連続で取引時間中の過去最高値を更新。終値ベースでも3営業日で過去最高値を更新するなど記録的上昇が続いた。週末9月12日の終値は最高値更新の3,686.40ドルとなった。
週足は前週(9月1日週)末比33.10ドル(0.91%)高で4週続伸となった。9月9日には一時3,715.20ドルまで付け、取引時間中の最高値を更新した。取引レンジは3,621.70~3,715.20ドルで値幅は93.50ドルだったが、週足で137.20ドル(3.90%)の大幅上昇となった前週の118ドルは下回った。
9月に入り9営業日で170.30ドル(4.84%)の上昇
米ワイオミング州ジャクソンホールでの会合で8月22日にパウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長が9月会合での利下げを示唆して以降、NY金は上昇基調を強めた。その後トランプ大統領がクックFRB理事の解任という異例の行動に出たことで、FRBの独立性への懸念が安全資産としての買いを呼び込んだ。
9月に入り米雇用関係の数字に弱いものが並んだことが、FRBの9月利下げ観測を固めるばかりか、利下げ幅拡大や回数の増加見通しにつながりNY金の上昇は加速した。NY金は8月29日に3,516.10ドルと初めて終値ベースで3,500ドル台に乗せたが、そこから9月12日まで9営業日で170.30ドル(4.84%)の上昇となった。
4月の急騰は中国勢、今回9月は欧米勢の買い
今回のような急騰劇は規模が異なるものの4月にも見られた。NY金は4月8日の3,000ドル割れの水準(2,990.20ドル)から10営業日(4月22日)で一時3,500ドル超に駆け上がり、3,419.40ドルで終了した。この間429.20ドル(14.35%)の上昇だった。この時の買いの主体は中国だった。中国の機関投資家による金ETF(上場投信)の買い、ファンドの先物買い、個人の現物買いが上昇の背景だった。折しも米中間の貿易戦争が過熱化していた。
一方、今回の9月のNY金の急騰は欧米投資マネーによりもたらされている。キーワードにスタグフレーションがある。7月および8月の米雇用統計の内容が想定以上の落ち込みを見せ、6月の前月比雇用者数は下方修正され2020年12月以来のマイナスとなった。いよいよ景気減速の気配を読み取り始めた市場だが、一方で目標の2%を優に超えるインフレ状態がある。
しかも関税の影響はこれから表れるとみられている。欧米機関投資家の間では、景気減速とインフレが並立するスタグフレーションへの警戒が強いとされる。そのタイミングでFRBへの明白な攻撃(クック理事解任騒動)が重なったことが、金市場への大きな資金移動をもたらしたと考えられる。
中東および欧州における地政学リスクの再認識
先週は地政学リスクに対する関心も改めて高まることになった。9日には、イスラエルとの停戦交渉でカタールに滞在中のイスラム組織ハマス幹部に対し、イスラエル空軍がピンポイント爆撃(精密空爆)を実施した。カタールの主権を侵害するとともに、交渉による合意の達成事態を危うくするものとして、中東地域に新たな緊張が走った。その後も国際社会の非難を無視する形でイスラエルによるパレスチナ自治区ガザへの攻撃が続いており、停戦の可能性は急速に遠のいている。
さらに米東部時間10日未明には、ポーランド領内にロシアのドローン(無人機)が複数侵入し、ポーランド軍と北大西洋条約機構(NATO)軍が撃墜したと伝わった。NATO軍と対ロシアが交戦となると、ウクライナ戦争が欧州全体を巻き込んだ新たな戦争に発展する可能性があるものゆえに、この時は情報流布も慎重に行われたとみられた。
ロシアのドローンがウクライナ攻撃に際してポーランドに侵入したとされ、NATOは詳細を「分析中」とした。ロシアが意図的にNATO軍の防空網を試したとの指摘もあり、欧州における地政学リスクの高まりとともに長期化を意識させることになった。こうした警戒感も金価格をサポートしている。
JPX金5営業日中4営業日で最高値更新
NY金の最高値更新が続く一方で、先週(9月8日週)のドル/円相場が147円を挟んだ水準で滞留したことから、国内金価格はNY金の上昇をそのまま映す形で高値追いとなった。大阪取引所の金先物価格(JPX金)は5営業日中4営業日で取引時間中および終値ともに史上最高値を更新した。
先週末12日の終値の1万7,471円、取引時間中の高値1万7,507円はともに最高値で、週足は前週末(9月5日)比383円(2.24%)高で3週続伸となった。取引レンジは17,045~17,507円で値幅は462円と前週(887円)の半分ほどだった。
9月に入りJPX金は10営業日中8営業日で終値および取引時間中ともに最高値を更新している。一方、標準的な店頭小売価格(10%消費税込み)も先週は初めて1万9,000円台に乗せ11日に1万9,071円と最高値を更新している。
今週(9月15日週)の見通し:理事全員の参加が決まっていない異例のFOMC、パウエル議長の政策方針に注目 NY金3,680ドル~3,760ドル、JPX金1万7,400~1万7,700円を想定
直前まで理事の全員参加確定していないFOMC
今週は本日16~17日の日程でFOMC(米連邦公開市場委員会)が開かれる。今回のFOMCを巡っては、直前までFRB理事の全員参加が未定という異例の会合となっている。現地15日夜(日本時間16日午前)に米上院がトランプ米大統領の指名したミラン米大統領経済諮問委員会(CEA)委員長の承認を決めており、今回の参加が決まった。残りのクックFRB理事の参加が未定となっている。
9月9日に連邦地裁がクック理事の訴えを認め解任を一時差し止めとしたが、トランプ米大統領が不服として控訴し、15日までに差し止めを撤回するように申し立てを行っている。FOMCへの同理事の参加を阻止するために日程を切ったもので、控訴裁判所の判断がどうなるかで参加の可否が決まる。
こうした事態は従来感覚ではあり得ないもので、このような環境下で金(ゴールド)に逃避資金が集まっている。実際に週明け9月15日のNY金は前週末(9月12日)比32.60ドル高の3,719.00ドルと、終値で初めて3,700ドル台に乗せるとともに最高値を更新している。
利下げ拡大を織り込む市場に対して、パウエル氏の発言は慎重スタンスを示すものとなるか
FOMCについては0.25%の利下げが確実視されているが、0.5%の利下げを要求し反対票を投じる理事が出る可能性もありそうだ。実際、トランプ米大統領は14日、今週は「大幅な利下げがあると思う。利下げにはうってつけの状況だ」と記者団に述べた(ブルームバーグ通信)と伝わる。
今回はメンバー全員による金利など経済見通し(ドットプロット)も発表される。このところ一連の米労働市場の減速を示唆するデータ発表が続いたことから、市場では2026年以降の利下げ回数の増加を見込む動きが進んでいる。米株の最高値更新の下支え要因でもある。
こうした中でFOMC終了後のパウエル議長の記者会見にいつも以上に注目したい。利下げ圧力が強まり、新たな理事も加わる中で、利下げ再開後の先行きをどのように語るのか。9月11日に発表された8月の米消費者物価指数(CPI)は市場予想に沿った結果ではあったものの前年比2.9%上昇と前月の2.7%上昇から加速し、1月以来の大幅な伸びとなった。パウエル議長の発言が先行きの利下げについて、慎重スタンスを示すものとなる可能性もあり、市場の反応が大きくなる可能性もありそうだ。
FOMC決定に先立ち16日に8月の小売売上高が発表される、前2ヶ月は大幅な伸びを示したが、8月は0.3%増と予想されている。こうした中で今週のNY金のレンジは3,680ドル~3,760ドル、JPX金については1万7,400~1万7,700円、いずれも最高値更新を含むレンジを想定している。
