先週(9月1日週)の動き:予想を下振れた8月米雇用統計 NY金の週足は137.20ドル(3.90%)の大幅高 JPX金は5営業日中4営業日で最高値更新
先週(9月1日週)のニューヨーク金先物価格(NY金)は、レイバーデー(労働者の日)の3連休明けの9月2日以降、週末までの4営業日中3営業日で取引時間中および終値ベースで史上最高値を更新した。米国の利下げ観測やトランプ米政権のFRB(米連邦準備制度理事会)への攻撃による独立性の侵害が引き続き買い材料となっている。
先週(9月1日週)は週初から米国関連の重要経済指標の発表が続いた。中でも8月に発表された7月分の米雇用統計にて、非農業部門雇用者増加数が過去分にさかのぼり大きく下方修正されたことから、市場は米労働市場の減速を強く意識し、関連指標の結果に注目が集まった。週初から発表された7月雇用動態調査(JOLTS)の求人件数やADPリサーチ・インスティテュートの全米雇用報告の8月民間雇用など、注目の指標は軒並み減速を示唆したことから、市場の利下げ期待は高まりNY金を押し上げた。
米司法省、クックFRB理事への捜査開始
一連のトランプ米政権とFRBを巡る問題は、新たな展開に進んだ。クックFRB理事は8月28日にトランプ米大統領による解任通告が無効であると連邦裁判所に提訴していたが、9月4日に米司法省は同理事が住宅ローン申請に関して不正確な情報を提供したとの疑いに対する刑事捜査を開始したと報じられた。
司法省がホワイトハウスの意向に沿う形で動き始めたことは、FRBに対する政権の包囲網が狭まった印象を市場に与えた。FRBの独立性の侵害は、インフレや市場の混乱を通し景気停滞を招くとしてNY金の逃避買いにつながっている。
予想を下振れた8月米雇用統計
こうした中で先週(9月1日週)の最大イベントは、9月5日の8月雇用統計の発表だった。焦点はFRBの利下げ見通しを巡り、米労働市場の減速を見極めることだった。
結果は、非農業部門の雇用者(NFP)数は2万2000人増と、市場予想の7万5000人増を大きく下回った。さらに過去分について7月が7万3000人増から7万9000人増に上方修正された一方で、6月分が1万4000人増から1万3000人減に下方修正された。雇用者数が前月比で減少するのは2020年12月以来となる。
失業率は4.3%と、前月の4.2%から上昇し、約4年ぶりの高水準に達した。ただし歴史的にはまだ低水準と言える。雇用の減速については、トランプ米政権の関税措置のほか、大規模な不法移民取り締まりに伴う労働力人口の減少が要因との指摘が多い。
NY金、週足は137.20ドル(3.90%)の大幅高
結果を受け9月FOMC(連邦公開市場委員会)での利下げが確実視されたほか、年内さらに2回(10月および12月)の会合での利下げ観測も浮上した。9月5日のNY金は前日比46.60ドル高の3,653.30ドルで終了した。一時3655.50ドルまで付け、終値ベースおよび取引時間中ともに史上最高値を更新した。
週間ベースでは前週末(8月29日)比137.20ドル(3.90%)の大幅高で、3週続伸した。レンジは3,537.50~3,655.50ドルで値幅は118ドルと2週連続で100ドルを超えた。週足の上昇率は、米中関税協議で警戒感が高まる中、ムーディーズが米国債の格下げを発表した5月中旬(5月19日週)の5.6%(178.60ドル高)以来の大きさとなった。
JPX金 5営業日中4営業日で最高値更新
NY金の最高値更新を受け、国内金価格も先週(9月1日週)は連日で史上最高値を更新した。大阪取引所の金先物価格(JPX金)は、5営業日中4営業日で取引時間中および終値ベースでそれぞれ史上最高値を更新した。9月5日の終値は1万7088円で週足は前週末(8月29日)比805円(4.94%)の大幅高で2週続伸した。
NY金が最高値を更新する中で、国内では石破首相の退任を求める声が高まるなど政局不安から、米ドル/円相場が週初の147円台前半から9月3日には一時149円台まで付けるなど円安に振れたこともJPX金の押し上げ要因となった。
9月5日には米雇用統計を受け円高方向に傾いたものの、NY金の上昇により相殺され国内価格は押し上げられた。9月5日のJPX金の夜間取引(ニューヨーク市場9月5日の通常取引を反映)では、一時1万7167円まで付け、取引時間中の最高値を更新している。
中国人民銀行金準備、10ヶ月連続増加
9月7日に中国人民銀行(中央銀行)が発表した8月末の外貨準備の内訳によると、金保有量は6万トロイオンス増加し、7402万トロイオンス(約2,302トン)となった。米ドルから外貨準備資産の分散を図る動きを進めており、金保有の増加は10ヶ月連続となった。
多くの新興国中央銀行は、外貨準備の分散化目的から(無国籍通貨との観点から)金保有の増加を図ってきたが、2025年に入って以降の急速な金価格の上昇に、国際需給データを見ると買い付けペースはやや落ちている。これは高値を警戒してというよりも、値上がりの結果、計画した通貨バランス上の金保有比率が上がっていることがあるとみられる。
今週(9月8日週)の動き:スタグフレーションへの警戒 9月11日(木)の8月の米CPI、ウクライナを巡る米政権の反応、フランス政局の流動化に注目
米労働市場を中心とした重要指標の発表が続いたイベント週(9月1日週)を終え、結果的に景気減速を示唆する雇用の鈍化からFRBの利下げ見通しが固まり、NY金は最高値の更新を見ることになった。
トランプ米政権の関税政策によるインフレへの警戒から慎重姿勢を維持して来たFRBだが、いよいよ雇用にも軸足を移す必要が生まれている。とはいえ、目標とするインフレ率2%の達成は見ておらず、目標を超えるインフレの下で景気が減速、停滞、後退となるとスタグフレーションが現実のものになる。
FRB利下げ見通しと8月の米CPI
この点で市場の関心は、9月11日(木)の8月の米消費者物価指数(CPI)に向けられている。FRBが注視する食品とエネルギーを除くコア指数は、2ヶ月連続で前月比0.3%の上昇が見込まれている。予想通りであっても9月の利下げに変更はないとみられる。
仮に上振れとなると株式市場は大きな下げに見舞われるなど、市場の反応は大きくなりそうだ。この場合、利下げ見通しが修正されることになるが、NY金への影響は限定的なものとなりそうだ。というのも現在の金市場の押し上げ要因が、FRBの利下げ観測だけではないためである。
ウクライナを巡る米政権の反応、仏政局の流動化と長期債格付けに注目
トランプ米大統領が先行きの見通しを示さず(落しどころ不明のまま)乗り出した、ウクライナ・ロシア間の停戦、和平への仲裁は危惧されたように一時の政治パフォーマンスに終わる可能性が高まるばかりか、事態の深刻化が懸念される。ウクライナに対するロシアの攻撃は激しさを増しているが、ロシアへの制裁強化を公言していたトランプ米大統領はどう反応するのか。
折しもそのヨーロッパでは、本日9月8日にフランスではバイル首相に対する信任投票が予定されており、退陣が濃厚となっている。フランス政局の流動化は、財政健全化への試みの頓挫を意味する。格付け会社フィッチ・レーティングスが9月12日にフランスの格付けを判定する予定となっているが、どうなるか。
米国ではFOMC(米連邦公開市場委員会)を9月16・17日に控え、FRB高官による政策方針を巡る発言自粛期間(ブラックアウト)に入っている。日本国内では石破首相退陣表明で政局流動化の影響が長期金利と米ドル/円相場にどう表れるか。
以上のような環境の中で、今週(9月8日週)のNY金は3,590~3,670ドル、JPX金は1万7000~1万7450円と、いずれも高値更新を含むレンジを想定している。
