先週(8月18日週)の振り返り=パウエル議長「ジャクソンホール発言」で146円台へ急落
146円半ば~148円半ば中心のレンジ突破に至らず
先週の米ドル/円は、22日のジャクソンホール会議でのパウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長の講演を意識した展開が続きました。パウエル議長講演前には、9月FOMC(米連邦公開市場委員会)での利下げを示唆しない「タカ派」発言が警戒され、米金利が上昇すると米ドル/円も148円台後半まで上昇しました。ただ、実際の発言では、慎重ながら9月利下げの可能性を確認したと受け止められたことから、米金利が大きく低下し、米ドル/円も146円半ばまで急落しました(図表1参照)。
米ドル/円は、22日のパウエル議長発言を前後して上下に大きく変動しましたが、このところ続いていた146円半ば~148円半ばを中心としたレンジのブレークには至りませんでした。約2円の狭いレンジでの展開はすでに3週間と長く続いています。
小動きが長く続くほどエネルギーが溜まり、小動きのレンジを抜けると溜まったエネルギーの発散により一方向へ大きく動く可能性が高まるのが相場の基本でもあります。では、この先米ドル/円は上下のどちらに大きく動き出すことになるのでしょうか。
日米金利差(米ドル優位・円劣位)の観点からみると、米ドル安・円高へ向かう可能性が高いのではないでしょうか(図表2参照)。今回のパウエル議長の「ジャクソンホール発言」を受けて、9月FOMCでの利下げの可能性が高まったことにより、米金利の上昇は限られそうです。
一方、日本の金利は最近にかけて上昇傾向が続いており、日銀の早期追加利上げを先取りするような動きになっています(図表3参照)。こうした日米の金融政策の違いを受けた日米金利差縮小は、米ドル安・円高の可能性を示唆するものでしょう。
ヘッジファンド円売りに変化の兆し=ベッセント戦略と連携か
最近にかけて米ドル高・円安を後押しした米ドル買い・円売りに、ヘッジファンド(以下、ヘッジF)が空前の規模で抱えた米ドル売り・円買いポジションの処分に動いている影響もありそうだと考えられていました。ただし、それに少し変化の兆しが出てきたかもしれません。
ヘッジFの取引を反映しているCFTC(米商品先物取引委員会)統計の投機筋の円ポジションは、2025年4月末には買い越し(米ドル売り越し)がそれまでの最高を大きく更新し、17万枚以上に拡大しましたが、それが8月中旬には7万枚台まで縮小しました。4月にかけて急激に進んだ円高が一服し、逆に一時150円まで円安へ戻す中で、円買いポジションの含み損が拡大した可能性があり、このため円買いポジションの処分、それに伴う米ドル買い・円売りが続いたと考えられました(図表4参照)。
しかし、上記のような円買いポジション縮小ペースが、最近にかけて鈍化の兆しを見せています。8月19日時点の円買い越しは7.7万枚と小幅ではありますが、1週間前から拡大しました。仮にヘッジFが円買いポジションの処分に伴う円売りが一段落したということがあるなら、それにはトランプ政権の通貨政策の影響があるかもしれません。
通貨政策の責任者であるベッセント財務長官は8月中旬のあるインタビューの中で、「日銀はインフレ対策で後手に回っているかもしれない」、「日銀は利上げすべきだ」などと述べていました。これは、一時150円まで円安に戻った動きが、米国の貿易不均衡を助長しかねないとして不満であり、その円安を是正するために日銀へ利上げを要請したというのが「真相」ではないでしょうか。もしそうであるなら、ヘッジFも「ベッセント戦略」に連携し、円買いポジション処分に伴う円売りから円買い再開に転換した可能性が高いため、注目したいと思います。
今週(8月25日週)の注目点=利下げ幅や単発or連続利下げの見極めへ
米国株高が続くかどうかにも注目
パウエル議長の「ジャクソンホール発言」を受けて、9月FOMCでの利下げの可能性は高まったでしょう。ただし、その利下げ幅はどうなるか、またそれは単発の利下げなのか、それとも連続利下げの始まりなのかなど、「利下げストーリー」は今後の米経済指標発表の結果や株価などで見極めることになるでしょう。大きなヤマは、9月第1週の雇用統計発表になりそうですが、今週発表されるFRBが注目するインフレ指標のPCEコアデフレーターも注目されそうです。
米ドル/円は、すでに3週間も続いている146円半ば~148円半ば中心のレンジ・ブレイクに注目しています。これまで述べてきた日米金利差縮小の可能性や、ヘッジFの円売り変化の兆しなどを根拠に、基本的には米ドル安・円高方向へのブレークを予想します。その中でもう1つ鍵を握るのは米国株の動向かもしれません。
米ドル/円の今週(8月25日週)の予想レンジは145~148.5円
米国株は、パウエル議長の「タカ派」を警戒し先週続落する場面もありましたが、8月22日は「ハト派」との受け止め方から急反発に転じました。パウエル議長発言直後に急落した米ドル/円がその後下げ渋ったのはこの米国株急反発も一因だったのではないでしょうか。
8月1日の米雇用統計発表をきっかけに米ドル/円が約3円も急落しました。「雇用統計ショック」と呼ばれた動きは、米国株も急落した中での出来事でした。以上のことから、米国株高が続いた場合は米ドル/円下落の歯止め役になる可能性がある一方、米国株が下落に転じた場合は米ドル/円も下落に向かいやすくなるのではないでしょうか。
その米国株は、NYダウに対するナスダック総合指数の相対株価が2000年ITバブルを上回る割高になるなど、テクニカル的には「バブル」の懸念もあります(図表5参照)。そういった中でも早期利下げ再開などを手掛かりに米国株高が続くか否かは、米ドル安・円高の行方を左右する1つの鍵ではないでしょうか。以上を踏まえ、今週の米ドル/円は145~148.5円で予想します。
