先週(7月14日週)の振り返り=日本の政治要因を材料に円安149円まで拡大

円安は日本の財政赤字拡大懸念の「悪い金利上昇」なのか

先週の米ドル/円は一段と上昇し、一時149円台に乗せる場面もありました(図表1参照)。トランプ米大統領がパウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長の解任を検討しているといった一部報道などから、FRBの独立性喪失への懸念などで米ドルが大きく売られる場面もあったものの、米ドル/円の安値は146円台までにとどまり、全般的に米ドル高・円安傾向の目立つ展開が続きました。

【図表1】米ドル/円の日足チャート(2025年6月~)
出所:マネックストレーダーFX

ただし、このような米ドル/円の上昇は、日米金利差(米ドル優位・円劣位)からは大きくかい離したものとなっています。米ドル/円は7月3日に発表された米6月雇用統計が予想外に強い結果だったことをきっかけに一段の上昇が始まりましたが、その間も日米金利差は一進一退が続きました(図表2参照)。

【図表2】米ドル/円と日米10年債利回り差(2025年5月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

先週にかけての米ドル/円の上昇は、金利差ではなく日本の金利上昇と連動したようにも見えます(図表3参照)。その意味では、先週にかけての米ドル高・円安は、日本の参院選挙を受けて消費税減税などを主張する野党の勢力拡大が財政赤字を拡大させる懸念に反応した債券価格の下落=円安の「悪い金利上昇」ということになるのでしょうか。

【図表3】米ドル/円と日本の10年債利回り(2025年6月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

日本株安は限定的=日本の政治要因手掛かりに円売り試す

財政赤字拡大を懸念した日本からの資金流出ということなら、円安だけではなく株安にもなりそうですが、最近にかけての日本株は上値の重い展開が続いたものの、必ずしも大きく下落したわけではありませんでした(図表4参照)。そのため、先週にかけての米ドル高・円安が、参院選挙の結果を受けた財政赤字拡大や政局の混乱を懸念した円売りというのも違うように思います。

【図表4】米ドル/円と日経平均(2025年6月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

ヘッジファンドの取引を反映するCFTC(米商品先物取引委員会)統計の投機筋の円ポジションは、買い越しが2025年5月には一時17万枚以上と空前の規模に拡大しましたが、6月以降は縮小傾向が続き、先週(7月14日週)は10万枚まで縮小しました(図表5参照)。

【図表5】米ドル/円とCFTC統計の投機筋の円ポジション(2025年1月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

上記のような「買われ過ぎ」の修正に伴う円売り、米ドルの買い戻しが米ドル/円を下支えする中で、日本の参院選挙の結果を受けた政局不安などを手掛かりに米ドル買い・円売りを試す動きが続いたことが、149円台まで米ドル高・円安となった基本的な背景ではないでしょうか。

米ドル/円は、4月のいわゆる「関税ショック」以降、142~146円をコアレンジとした展開が2ヶ月以上と長く続きましたが、先々週(7月7日週)はそれを「上放れ」ました(図表6参照)。結果、テクニカルに米ドル上値、円下値を試しやすい状況となり、そうした中で日本の政治要因が手掛かり材料になったということではないでしょうか。

【図表6】米ドル/円の週足チャート(2025年1月~)
出所:マネックストレーダーFX

今週(7月21日週)の注目点=日本の政治要因を理由とした円安は続くのか

投機筋の円売りは継続か=円安阻止への為替市場介入が再現する可能性はあるか

CFTC統計の投機筋の円買い越しは、過去最高の17万枚から先週(7月14日週)は10万枚まで縮小したものの、円が低金利であり本来的には買いには不利だということ、そして2024年までの買い越し最高である、2016年の7万枚をまだ大きく上回っていることなどを考えると、円はまだ「買われ過ぎ」と考えられます(図表7参照)。従って、その修正に伴う円売りは続く可能性が高く、米ドル/円は下値が限られ、上値を試す状況が今週も続く可能性があるでしょう。

【図表7】CFTC統計の投機筋の円ポジション(2025年1月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

その一方で、最近の円売りの口実となっている日本の政局不安や財政赤字拡大懸念は、日本の株価が大きく下げているわけでもない中では違和感があります。最近、政府高官が「投機を含めて、為替市場の動きを憂慮している」と発言しているように、債券や株式相場に比べて、日本の政治要因への為替市場の反応は過剰な面があるのではないでしょうか。

それでも、過剰反応の円安がさらに続いた場合、円安阻止の為替市場介入が再現する可能性はあるのでしょうか。2022年、2024年に行われた日本の通貨当局の円安阻止の為替市場介入には、1)米ドル/円が前回の高値を更新する、2)5年MA(移動平均線)を2割以上上回る、3)120日MAを5%以上上回るなどの共通点がありました。

これを参考にすると、5年MAかい離率などで見る限り米ドル/円が150円を上回った程度では米ドル売り介入を行う条件には達しないでしょう(図表8参照)。

【図表8】米ドル/円の5年MAかい離率(1990年~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

しかし、ユーロ/円が175円を上回り、2024年7月に記録した前回の高値を更新するとユーロ売り・円買い介入の条件を満たすことになります(図表9参照)。

【図表9】ユーロ/円の5年MAかい離率(2000年~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

今週(7月21日週)の米ドル/円予想レンジは146~151円

日本の為替市場介入は、これまでは米ドル/円が大前提であり、ユーロ/円などの介入はあくまでその補助的位置付けでした。それでも、トランプ政権は前バイデン政権と異なり、非関税障壁である行き過ぎた円安を容認しない姿勢と見られることもあり、円安再燃への当局の対応も注目されるのではないでしょうか。以上を踏まえ、今週の米ドル/円は146~151円で予想します。