米金利急騰は関税によるインフレ懸念ではなく実質金利によるもの

米金利が急騰し、それに伴って円金利の動きも不安定になっています。米金利の内訳を実質金利とインフレ期待に分けてみると、主な上昇要因は実質金利であることが分かります。このことから、関税によるインフレ懸念が金利上昇の主因とは考えにくい状況です(図表1)。

【図表1】米名目金利を実質金利とインフレ期待に分けた推移
出所:Bloomberg
【図表2】3年金利スワップレートと米国債金利とのスプレッド
出所:Bloomberg

米国債金利上昇により、市場の将来の政策金利見通しを反映する金利スワップレート(SOFR)とのスプレッドが拡大、需給主導と見られる動きです(図表2)。

報道では、「中国が米国債を売却しているのではないか」との見方もあります。米中対立の文脈ではそうしたフローも想定されますが、中国の保有規模を踏まえれば、今後FRB(米連邦準備制度理事会)によってカバー可能な範囲と見られます(図表3)。

【図表3】米国債保有動向(10億ドル)
出所:FRB

もう一つの金利上昇要因:ベーシス取引の巻き戻し

もう一つの金利上昇要因として考えられるのが、ベーシス取引の巻き戻しです。これは、ヘッジファンドを中心に、債券の現物を買って先物を売る裁定取引であり、その取引が高水準にあることから以前よりFRBも監視の必要性を示してきました。

【図表4】レバレッジファンドの米国債ネットポジション
出所:CFTC、マイナスはショートポジションを示す

一部では、金利の予期せぬ変動によりポジション解消が進んでいる可能性が指摘されています。ヘッジファンドがポジションを迅速に解消する必要に迫られた場合、債券ディーラーが急増する取引量に対応できなくなるリスクもあります。ベーシス取引の解消は「現物売り・先物買い」の構図となるなか、現物はレバレッジ取引、先物は証拠金取引であることから、当初は金利上昇の圧力が出やすくなります。

FRB介入もあり得るが短期的な動きとはいえ注意が必要

ベーシス取引が急速に解消されると、金融安定の確保のために、FRBの介入が必要になる可能性もあります。以前FRBはコロナ禍の2020年3月に、数週間にわたって約1兆6000億ドルの米国債を買い入れました。

長期金利低下を望むベッセント財務長官等の圧力も想定されます。なおFRBが2020年に介入を余儀なくされた際、ベーシス取引のポジションは約5000億ドルでしたが、現在はBloombergによると推定で1兆ドル規模に達していると言われています。

現況を明確に把握できるデータがないものの、ベーシス取引の解消が混乱を伴い金利上昇につながるようであれば、FRBの対応も視野に入るため短期的な動きですむでしょう。とはいえ、この動きは市場不安につながる要素として注意が必要です。