大暴落が起きると通常は2番底を伴う

8月5日のストラテジーレポート『ブラックマンデーⅡ、もしくは日本版ブラックマンデー』で、ジョージ・ソロスの再帰性理論について述べた。あまりに大きな市場変動が起きると、「市場価格の動き」そのものが「投資家の判断」の根拠として跳ね返ってきてしまう。こうなると、もうファンダメンタルズは関係なく、投資家の判断と価格の動きだけでループが回り続ける。これが再帰性理論だが、この理論には続きがある。価格の動きが「再帰」するのは投資家の判断だけではない。価格の動きの影響がファンダメンタルズまで「再帰」し、通常なら価格の動きの出発点となるはずのファンダメンタルズそのものを変えてしまうこともあるのだ。

株価の動きは速い。株価が先に動き、遅れて業績が修正されるケースはよくある。株価が大きく下落し、PER(株価収益率)もじゅうぶん下がったので「割安になった」と判断して買ったところ、あとから業績が下方修正されPERが上昇することがある。割安だと思ったのに、実は割安ではなかったという状態になる。2008年のリーマン・ショックが典型例だ。

こうした現象をとらえて、「株価には先見性がある」とか「株式市場は景気の先行きを映す鏡だ」とか言われるが、それは間違いである。株価が先行きを予想して下がるのではない。株価が下がったから、景気や業績が悪くなるのだ。株価の下げに連動して為替が円高に振れることも景気・業績の悪化に拍車をかけるのは言うまでもない。

大暴落が起きると通常は2番底を伴うという理由が、これである。市場の急変がファンダメンタルズの悪化を招き、それを嫌気して再度、株価が下がるというメカニズムである。

今後、懸念されるのは、為替の影響だろう。相場の急変動で一気に巻き戻った円高が、企業業績の下方修正を呼ばないか。現在の株価は調整を経てPERは過去平均並みに戻っており、割高感が払拭されたように見える。しかし、下方修正リスクを考えれば、この水準では買えないことになる。

ファンダメンタルズは堅調

グラフ1は、QUICKコンセンサスによる日経平均株価の今期予想EPS(一株当たり利益)とドル円相場を示したものである。予想EPSは細かなアップ&ダウンはあるものの、上昇トレンドを維持している。これほど円高に動いても、業績の下方修正はほとんど起きていないように見える。アナリストはそんなにも楽観的なのか?いや、そんなわけはない。下方修正もあるが、それを上回る上方修正が続いているのである。

【グラフ1】日経平均株価の今期予想EPSとドル円推移
出所:QUICKデータより筆者作成

グラフ2はIFISによるリビジョン・インデックスだ。直近では上方修正145回に対して、下方修正が139回、まだ上方修正のほうが多いのである。

【グラフ2】経常利益予想修正回数の推移(週次)
出所:アイフィスジャパンより

これだけの円高である。当然、下方修正は起きているのだ。下方修正のトップ3業種は、ご想像の通り、電機、自動車、機械である。直近の1週間、電機の下方修正だけで30回を超えている。しかし、上方修正も多いのだ。上方修正のトップ3業種は、情報通信、小売り、銀行とみごとに内需系が並んでいる。

まとめると、円高で外需産業は業績の下方修正が起きているが、それを上回るペースで内需企業の業績が上方修正され、日本株全体ではしっかりとEPS成長が維持されている。

ファンダメンタルズは堅調である。財務省と内閣府が昨日(9月12日)発表した7~9月期の法人企業景気予測調査は、大企業全産業の景況判断指数(BSI)がプラス5.1だった。2四半期連続で「上昇」が「下降」を上回った。10~12月期は大企業がプラス7.2とこの先もさらに景況感が改善していく見通しが示された。

為替について述べると、直近の日銀短観によれば大企業・製造業の下期の想定為替レートはドル円で142円50銭程度である。現状並みの円高であれば、企業の想定レート通りであり、下方修正ラッシュということにはならないだろう。

こうした状況を勘案すると、過去に見られたような、タイムラグを伴ってファンダメンタルズが悪化して2番底を迎えるというパターンは今回は回避できるように考える。

したがって、これ以上、押す場面があれば、積極的に拾っていっても良いだろう。