先週(6月10日週)の振り返り=日銀会合後に一時158円台まで円安拡大

先週の米ドル/円は5月の米CPI(消費者物価指数)、PPI(生産者物価指数)が予想より弱い結果となったことで米金利が低下、日米金利差円劣位が縮小したことで下落する場面もありました。しかし、すぐに上昇の流れに戻すと、6月14日(金)の日銀金融政策決定会合後から158円台へ一段高となりました(図表1参照)。

【図表1】米ドル/円の日足チャート(2024年4月~)
出所:マネックストレーダーFX

このような先週の米ドル/円上昇は、日米金利差からは大きくかい離したものでした。これは、CPIなどが予想より弱かったことから米金利は比較的大きく低下し、日米10年債利回り差円劣位も一時は2月初め以来の水準まで縮小しましたが、それに対する米ドル安・円高の反応が極めて限られたためです(図表2参照)。

【図表2】米ドル/円と日米10年債利回り差(2024年1月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

金利差円劣位縮小にもかかわらず米ドル高・円安が広がったのは、投機筋の米ドル買い・円売りが続いたことが大きかったのではないでしょうか。ヘッジファンドなどの取引を反映しているCFTC(米商品先物取引委員会)統計の投機筋の円ポジションは、売り越し(米ドル買い越し)が6月11日現在で13.8万枚となり、1週間前に比べて0.6万枚と小幅に増加しました。金利差円劣位縮小でも、投機筋の米ドル買い・円売りが続いたことで米ドル高・円安が広がったと考えられます(図表3参照)。それではなぜ、金利差円劣位縮小でも投機筋の米ドル買い・円売りは続いたのでしょうか。

【図表3】CFTC統計の投機筋の円ポジションと米ドル/円(2024年1月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

投機筋の米ドル買い・円売りが続いた理由

1つは、確かに金利差円劣位は縮小したものの、日米10年債利回り差でなお3.2%以上の大幅な円劣位は、円買いには不利な一方、円売りには有利なことで変わらないためでしょう。そして、先週の場合はもう1つ、6月14日(金)の日銀金融政策決定会合を控えていたという影響もあったかもしれません。

4月下旬に行われた前回の金融政策決定会合後に一気に160円へ向かう大幅円安が起こったことに象徴されるように、最近は日銀関連のイベントが円安材料になることが目立っていました。このため、日銀会合まで円売りを試す状況が維持され、弱いCPIなどの米ドル売り材料は「黙殺」された形になった可能性があったのではないでしょうか。

その日銀会合では、注目された国債購入の減額を決めたものの、具体策は次回会合に先送りとなりました。これを受けて10年債利回りなど日本の金利は低下し、米ドル/円も一時158円台まで一段の米ドル高・円安となりました。ただ比較的早い段階で米ドル高・円安も行き詰まり、逆に一時は157円割れへ米ドル安・円高に戻すところとなりました。なぜ、日銀会合後の円売りトライは続かなかったのでしょうか。

CFTC統計の投機筋の円売り越しは、6月11日現在で13.8万枚でしたが、円売り越しがこれを上回ったのは2000年以降で見ても、2006~2007年と最近など、とても少ないものでした(図表4参照)。6月12日以降の米ドル/円の値動きなどからすると、そこからさらに円売り越しは増加していた可能性が高く、日銀会合を迎えた段階で投機筋はかなり米ドル買い・円売りの「行き過ぎ」懸念が高くなっていた可能性がありそうです。今回、日銀会合後の円売りトライが意外に早い段階で行き詰ったのは、すでに円売りが「行き過ぎ」となっていた影響が大きかったのではないでしょうか。

【図表4】CFTC統計の投機筋の円ポジション(2000年~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

今週(6月17日週)の注目点=投機円売りは続くのか、調整に転じるか?

FOMC(米連邦公開市場委員会)、日銀会合、そして米CPI発表など注目イベントが目白押しだった先週に比べると、今週はマーケットの注目度は相対的に低下しそうです。それでも米小売売上高など米景気指標の発表は多く予定されていることから、それらの結果にどのように反応するかは注目されます。

ただ、先週はCPIが予想より弱くても米ドル売り反応は限られ、絶対的に大幅な金利差円劣位を拠り所とした投機筋の円売りが続くか否かが米ドル/円の行方を左右している印象が一段と強まりました。その意味では、今週の米ドル/円の行方も、投機円売りの動向が最大の鍵になりそうです。

円売りの調整が本格化した場合は円高に戻す可能性も

その投機円売りは、すでに見てきたように、「行き過ぎ」懸念も強くなってきたと見られることから、さらなる円安をもたらす余力は限られ、むしろ調整が本格化した場合は円高への動きを後押しする可能性もあるのではないでしょうか。

米ドル/円は、4月下旬に160円を付けた後、日本の通貨当局による米ドル売り介入を受けて急落してから超えられなかった158円を、先週6月14日(金)の日銀会合後に一時的に超えました。この米ドル高値を更新できるようなら、さらなる米ドル高・円安を模索する可能性はあるでしょう。ただし、米ドル高値を更新できなかった場合は、160円の「一番天井」に続く「二番天井」を確認したこととなり、大きく米ドル買い・円売りに傾斜したポジション調整が広がりやすくなる可能性もあるでしょう。

以上を踏まえると、今週の米ドル/円の予想レンジは155~158.5円で想定したいと思います。