先週の動き:ハト派的な内容のFOMCを受けニューヨーク金先物価格は2,000ドル台復帰、円高の下押し圧力が高まる国内金価格はNY金の上昇を相殺
先週のニューヨーク金先物価格は週足で反発となった。12月15日のNY金通常取引は2,035.70ドルで終了。週間ベースでは21.20ドル、1.05%の上昇となった。
12月1日に史上最高値を更新し、翌週明けにあたる前週12月4日にはニューヨーク時間外でアジア時間早朝の取引が薄い時間帯を狙ったかのような欧米ファンドの買い攻勢によって、NY金は一時2,152.30ドルとさらに高値を更新した。
手掛かり材料としては、かなり前のめりに米連邦準備制度理事会(FRB)による早期の利下げ観測を織り込みにかかったもので、上昇の勢いが止まるとともに格好の利益確定の機会と捉えられ、大きく下押すことになった。
注目の米連邦公開市場委員会(FOMC)が12月12~13日の日程で開かれた先週も、前半は断続的なファンドによるポジション調整(取引解消)の売りに押され、さらに下値を探る展開で一時1,980ドル台と2,000ドル大台割れとなっていた。前週末に発表された11月の米雇用統計が予想比上振れとなったことも、金市場では売りを誘うことになった。先行する緩和期待に水を差す結果になったことによる。
FOMCでのパウエルFRB議長の記者会見の内容も、多分に利下げ観測を牽制する内容になるとの警戒が市場に広がっていた。FOMC当日の12月13日NY時間外に週足安値(1,987.90ドル)を付けたのはそれを物語る。
この日発表された11月の米消費者物価指数(CPI)は、総合指数及び変動の大きい食品とエネルギーを除いたコア指数ともに、市場予想に沿った結果となったものの、細目ではサービス分野でインフレが高止まりしていることが確認されたことも売りを誘った。
ところが、FOMCの結果は想定ほどのタカ派色はなく、むしろ市場にはハト派的内容と受け止められた。パウエルFRB議長は記者会見での質疑応答の中で、「追加の利上げが必要かどうかを精査しながらゆっくりと動いている。その上で金融引き締めの手を緩め始めるのはいつかという議論を今日の会合でした」と発言した。
利下げが議論され始めたことを認めたことに鋭く反応したのは債券市場で、10年債相場は急伸し利回りは急低下、一時4.001%と8月来の低水準になった。また、FRBの政策方針に敏感に反応することで知られる2年債利回りは一時4.424%と6月上旬以来の低水準に低下し、終値ベースで4.433%となった。前日から0.3%超低下したが、1日当たりの下げ幅は米地銀破綻のあった3月中旬以来、9ヶ月ぶりの大きさとなる。
結局のところ、時間外取引に入っていたNY金は一気に水準を切り上げ、12月13日の時間外取引は前日比49.90ドル高の2,043.10ドルで終了していた。12月14日には一時2,062.90ドルまで買われたものの、終盤に2,050ドル割れに押し戻されていた。過去1ヶ月、NY金先物市場ではファンドの買い残が膨らんでおり、2,050ドル超では戻り売りが出ていると見られる。
先週のコラムでは想定レンジを1,980~2,040ドルとしたが、実際には1,987.90~2,062.90ドルとなった。上値は20ドルほど高くなったが、基本的見方として戻り売りに押される流れは想定通りと言える。
その一方、国内金価格は前週大波乱となった米ドル/円相場の影響が残る展開となった。円高方向に傾いた流れの影響を受ける価格展開が、週を通して見られた。
足元のNY金と米ドル/円の水準から、大まかに言って1円あたりの変動は国内金価格には65円の変動をもたらす。過去1ヶ月で約10円円高に振れていることから、国内金価格にとってはそれだけで650円の押し下げ要因となっている。この間のNY金の上昇が国内金価格の下げを緩和している状況にある。
先週の国内金価格は12月15日終値が9,285円となり週足は107円、1.14%安で続落となった。レンジは9,216~9,433円となり、これは先週のコラムで解説した想定レンジ9,200~9,450円にほぼ沿った形となった。
FRBの政策転換の確度を測りながら、利下げのタイミングを判断する展開
12月12~13日に開かれたFOMCの結果を受け、市場は利上げサイクルの終了とともに2024年の利下げを織り込んだ。
「一段の利上げが適切になる可能性は低いと考える一方で、その可能性を排除したくない」としたパウエルFRB議長の発言内容からは、やや市場の先走りを感じさせるものの、米金利先物市場では2024年3月にFRBは0.25%の利下げを行うことを6割方織り込んでいる。そして年末までに、さらに1.25%の利下げを織り込んだ。もちろん、これは見通しのため、今後の経済指標の結果によっては揺れ動くことになる。
このような市場の動きに対し、先週末には早速牽制発言が飛び出している。12月15日の午前に米CNBCテレビのインタビューに応じたNY地区連銀のウィリアムズ総裁は、FOMCでは「我々は実際に利下げについて話し合っていない」とし、「我々の関心事はインフレ率を2%に下げるために金融政策が十分に景気抑制的かどうかであり、3月にも利下げを考えること自体が早過ぎる」と発言した。
また、アトランタ地区連銀のボスティック総裁はロイター通信とのインタビューで、2024年に2回の利下げを予想したが、始まるのは第3四半期になるとの見方を示している。
当面はこれまで同様に、発表される経済指標で利下げのタイミングをその都度判断ということになるが、大事なのはトレンドであって、時にノイズと表現されるデータの上振れ下振れには惑わされない方が良いだろう。
今週の見通し:個人消費支出・所得統計のインフレ指標とともに消費動向の行方、また日銀政策会合フォワードガイダンスにも注目。NY金は2,010~2,060ドル、国内金価格は9,150~9,350円を想定
来週はクリスマスということで、欧米市場は今週でほぼ終了となり、中には長期休暇に入っている関係者も多い。しかし、近年はウクライナ侵攻や2023年は中東情勢も加わり、いずれも数値化が難しい地政学要因の増加で不測の値動きも予想されることから、年末相場もこれで終了とは言えない状況だ。
そのような中、今週は重要指標の発表が控えている。やはり、注目事項の筆頭は毎月末の個人消費支出(PCE)・所得統計になる。いつもはその価格指数(デフレーター)が注目されるが、今回は消費の動向を見ることもポイントになりそうだ。先週発表された11月小売売上高は予想外に前月比プラスに転じており、今後どうなるだろうか。インフレ動向と同じく注目したい。
後は国内金価格に関係することだが、12月18~19日に日銀の金融政策決定会合がある。政策自体は据え置き予想が大勢を占めるが、年明け2024年1月の金融政策決定会合を見据えた植田日銀総裁の発言が注目される。為替に波乱の目はないと思われるが、要注目となる。
今週のレンジは、NY金は2,010~2,060ドル、国内金価格は9,150~9,350円を想定している。